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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第三章 耳長の少女と『渇望』のザリチュ
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古代魔法の特訓

「うわあああ……!」


 ミッテンベルクの街から公都ミンガに転移したヨナは、賑やかな街の雰囲気に感嘆の声を漏らす。

 エストライア帝国の首都であるヴィアンは西方諸国でも屈指の巨大都市だったが、ここミンガは首都でありながらも規模は小さく穏やかな雰囲気があり、どこかマルグリットがいるツヴェルクの街を思い出させた。


(そういえばマルグリット様、元気にしてるかな……)


 青空を見上げ、ヨナはぽつり、と呟く。

 思えば彼は、マルグリットに最後の挨拶も交わすことなくハーゲンベルク領を去った。


 それからというもの、ヨナは旅の中で最初に出逢った大切な女性(ひと)を時折思い浮かべては、あの日の思い出で胸が温かくなりつつも、どこか罪悪感を覚える。


「次に逢う時は……って、そんなことはあり得ない(・・・・・)よね」


 もうマルグリットに逢うことはないだろうと思い直し、ヨナは少し寂しげな表情を浮かべてかぶりを振った。

 たとえどれほど彼女が心に住み着いていて、誰よりも大きな存在になっていたとしても。


 なぜなら……自分は、あと十か月でこの世を去るのだから。


 だけど、ヨナは知らない。

 彼の小さな一歩から始まった数奇な運命の(かたわ)らには、マルグリットが(いつく)しむように寄り添い、微笑んでくれていることを。


「さて……ティタンシアさんが到着するまでの三日間、僕も頑張らないとね。でもその前に」


 広場にある噴水に腰かけていたヨナは立ち上がると、通りに面している一軒の宿屋に入った。


「あのー、部屋をお借りしたいんですけど」


 ヨナは宿屋の主人の目の前に、銀貨一枚を置いた。

 公都で宿を借りるための相場は知らないが、子供に過ぎないヨナが一人で借りるには、こうしてお金を直接見せるのが手っ取り早い。


「……二階の一番奥の部屋だ」

「ありがとうございます」


 鍵を受け取ってぺこり、とお辞儀をすると、ヨナは階段を上がってあてがわれた部屋の中に入る。

 ヨナは革の(かばん)を置き、軽く伸びをした。


「やっぱり誰にも見られないようにするには、部屋の中が一番だもんね」


 誰もいない宿屋の部屋の中であれば、転移をしても目撃されることはない。

 床に人差し指を向けて魔法陣を描き、ヨナは公国の森の中へと転移した。


 もちろん、古代魔法の練習をするために。


 そして。


「【ヴィン・クリンゲ】」


 森へとやって来たヨナは早速風属性の攻撃魔法を放つが、やはり威力が強すぎて前回と同じ結果になってしまう。

 このまま繰り返せば、三日もあれば森だった周辺が更地と化すだろう。


「ち、違う魔法で試してみようかな……【ストゥルツバッハ】」


 ヨナは風属性の攻撃魔法を諦め、今度は水属性魔法を試す……のだが。


「あああああ!?」


 大量の水の激流が森へと襲いかかり、広範囲で木々をなぎ倒して押し流していく。

 その被害は、先程の【ヴィン・クリンゲ】の比ではなかった。


「うう……風属性も水属性も駄目だよお……」


 何度繰り返しても思うようにいかない現実に、ヨナは肩を落とす。


 ここまでヨナは古代魔法の威力を抑えるため、魔法陣と詠唱の簡略化という方法を選択した。

 もし古代魔法の本来の威力で放ったなら、【ヴィン・クリンゲ】によって辺り一面の木々は軒並み破壊され、【ストゥルツバッハ】が全てを押し流してしまっていただろう。


「本当は、僕自身の魔力を抑えるのが一番なのかもしれないけど……」


 知ってのとおり、ヨナの病は『魔力過多』。生まれつき膨大な魔力を抑えることができず、自分自身の身体を傷つけてしまうというもの。

 ギュンターからそう診断を受け、ヨナも魔力操作を覚えようとラングハイム家にいた頃に特訓したこともあったが、残念ながらそれは不可能であることがわかった。


 つまり……ヨナに魔力を抑制する(すべ)はない。


「攻撃魔法以外(・・)に関しては、こんな悩む必要はないんだけどね」


 防御魔法や結界魔法であれば、どれだけ大規模なものであっても甚大な被害を及ぼすことはなく、最も使用する転移や物体操作などは魔力量に関係なく得られる結果は同じ。何も頭を悩ませる必要はない。


 いずれにせよ、ヨナが一度(ひとたび)攻撃魔法を行使すれば、使い方次第であるがそれだけで災害(・・)となる。

 今後も一人旅を続けるためにも、言い方は悪いが節度ある(・・・・)攻撃魔法を覚える必要がどうしてもあった。


「ようし! もう一度! 【ヴィン・クリンゲ】!」


 こうしてヨナは、日が暮れるまでひたすら攻撃魔法を放ち、練習に励んだ。


 その一方で。


「……しつこい」


 ティタンシアはミッテンベルクと公都の中間地点にある森の中で、黒の覆面をした連中に追われていた。

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