つけ狙う者達
「ヨナ、行こう」
「あうう……ま、待ってください……」
次の日の早朝、ヨナはティタンシアに手を引かれて『組合』へと向かう。
そんな中、彼は非常に疲れ切った顔をしていた。
原因はもちろん、ティタンシアだ。
昨夜は彼女の家に泊めてもらったヨナだが、ベッドが一つしかないこともあり、二人は一緒に寝ることとなった。
恥ずかしくてヨナは拒否したのだが、ティタンシアは聞かないどころか、むしろそれが絶対条件だとばかりに決して譲らない。結局ヨナは、強引にベッドに引きずりこまれる。
加えて彼女はまるでヨナを抱き枕のように、一晩中ひたすら愛でながら眠った。
ヨナの顔を、思いきり胸に押し付けて。
おかげでヨナは緊張と恥ずかしさで、一睡もできなかったのだ。
「着いた」
街の大通りにある、レンガ造りの二階建ての建物。
入り口の看板には、『組合』を示す紋章が描かれている。
「おはよう」
「いやあ! よく来てくれた!」
入り口の扉を開けたティタンシアが無表情で挨拶をすると、待ってましたとばかりに受付窓口の奥から糸目の中年男性が飛び出してきた。
どうやら彼が、ティタンシアに仕事を依頼した人物……組合長のようだ。
「組合長は普段は偉そうなくせに、こういう時だけ愛想を振りまく。ヨナも気をつけたほうがいい」
「それ酷くない!?」
「あ、あははー……」
真面目な顔で注意喚起するティタンシアに組合長は猛抗議し、ヨナは苦笑いを浮かべる。
彼女の言うことは正しいのだろうが、それでもこうして依頼を引き受けているのだから、それなりに組合長のことを信用しているのだろう。
「ん? ところで、その子供は?」
「彼はヨナ。一緒に一晩過ごした仲」
「ななななななな!?」
いくら事実とはいえ、ティタンシアの意味深な発言にヨナは大声を上げる。
もし昨夜のことをマルグリットやアウロラ、プリシラが知ったらどうなるだろうか。なぜかヨナはそんなことを考えてしまい、背中に悪寒が走った。
「ハア……君の個人的な趣味に干渉するつもりはないけど、年の差を考えたほうがいいと……」
「組合長は命が惜しくないみたい」
「っ!? い、依頼品を取ってきまああああす!」
ティタンシアがおもむろに弓を構えた瞬間、組合長は青ざめた顔で逃げるように奥に引っ込んだ。
今のやり取りで何が彼女の逆鱗に触れてしまったのか分からず、ヨナは首を傾げる。
「こちらが今回の依頼品でございます……」
先程までの気安い態度とは打って変わり、組合長が恭しくお辞儀をして依頼品を差し出した。
それは、手のひらに載る程度の小さな木箱だった。
「どうかこれを、公都ミンガの『中央互助会』まで無事に届けてほしい」
「ん、分かった」
ティタンシアは無造作に木箱を受け取り懐にしまうと、もう用はないとばかりに踵を返す。
「報酬のほうはよろしく」
「もちろん! 今回は『組合』にもがっぽり入るからね!」
胡散臭い笑顔で親指を突き立てる組合長に見送られ、僕達は『組合』を後にした。
◇
「ヨナ、絶対に気をつけて。いくら公都までそんなに遠くないとはいっても、森には魔獣が多くいる」
ミッテンベルクの街の出入り口で、ティタンシアがヨナの肩をつかんで念を押した。
このやり取りも、今日だけで七回目である。
「大丈夫です。それよりティタンシアさんも、気をつけてくださいね? 昨日の話だと、きっと今回も、『木漏れ日亭』の女将さんが言っていた変な連中が襲ってくると思いますから」
「もちろん分かってる」
ティタンシアが左奥の建物に視線を向けた後、親指を突き立てて頷いてみせる。
つまり、既に何者かがあそこに潜んでいるらしい。
「それじゃヨナ、公都で」
「はい!」
心配そうに何度も振り返るティタンシアを、ヨナは笑顔で手を振って見送った。
「さて、と」
ヨナは伸びをすると、小さな身体に少し不釣り合いな大きさの革の鞄を持ち、公都に向かって……ではなく、そのまま街に戻っていく。
乗合馬車の停留所へ行くのかと思えばそうでもなく、ふらふらとぎこちない動きで大通りへ来たヨナ。
道端に並ぶ露店を見て目を輝かせながら、彼はそのまま街を散策する。
そして、一軒の宿屋へと入っていった。
それから一時間が経過し陽も高くなってきたが、ヨナは一向に宿屋から姿を見せない。
大通りにも道行く人が増え、いつもの賑わいを見せ始めていた。
すると……どこかただならぬ雰囲気を漂わせる褐色の肌の二人組の男達が、宿屋へと入っていく。
だが。
「くそっ! どこへ行った!」
「お前は裏口を回れ! 俺はもう一度大通りに向かう! このままだと“ゼリア”様にどんな目に遭わされるか分からないぞ!」
大声で叫び飛び出した、褐色の肌を持つ二人組の男達。
おそらく、ティタンシアの跡をつけていた連中の仲間だろう。
まあ、どれだけ探したところで、この連中がヨナを見つけることはできない。
だって――彼は既に、公都ミンガにいるのだから。
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