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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第三章 耳長の少女と『渇望』のザリチュ
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厄介な仕事

「ハア……ヨナ、お待たせ」


 溜息を吐いて店に入ってきたのは、ティタンシアだった。

 表情こそ変化はないものの、明らかに疲れている様子が(うかが)えた。


「おや、この坊やはあんたの知り合いだったのかい」

「うん。知り合い」


 女将と軽く言葉を交わし、ティタンシアがヨナの隣に座った。


「あの……どうかしたんですか?」

「ん? ……ヨナに見破られた」


 そう言って、彼女は視線を落とす。


「大方『組合』から、また(・・)厄介な仕事を押し付けられたってところかい?」

「女将さん正解」


 定番とばかりに並々とビーアの()がれた木製のクルーク(ジョッキ)をカウンターに置く女将を指差し、ティタンシアが首肯(しゅこう)した。

 女将の口振りから察するに、厄介な仕事を任されるのは一度や二度ではないようだ。


「公都の『中央互助会』に品物を届けるように依頼された。報酬はいつもの五倍」

「へえ……そりゃ怪しいねえ」

「うん。……これ、絶対に面倒事に巻き込まれる」


 抑揚のない声で女将に答えると、ティタンシアが項垂(うなだ)れる。

 とはいえ、彼女にこの依頼を断るという選択肢はないようだ。


「だけどあんた、どうせ今回も一人でその依頼を引き受けるんだろ?」

「そのつもり」

「ハア……いい加減、護衛の一人や二人雇ったらどうだい。ただでさえあんた、変な連中(・・・・)から狙われるっていうのにさあ……」

「わたし一人のほうが楽。むしろ護衛がいるほうが邪魔」


 溜息を吐いて呆れる女将に、ティタンシアはにべもなく返す。

 この時、隣で会話を聞いていたヨナは気になってしまった。女将の『変な連中(・・・・)から狙われる』という言葉に。


「そ、その、ティタンシアさん……」

「ん? ……そういえば、ヨナを『アルヴ』の里にも連れて行ってあげないといけない……」


 ヨナは心配になって声をかけたのだが、彼女は別の意味で受け止めてしまい、申し訳なさそうにうつむいてしまった。

 もちろんヨナも『アルヴ』の里に早く行きたいのは山々だが、かといってティタンシアの足を引っ張りたくはない。


 なので。


「ええと、『アルヴ』の里の場所をあらかじめ教えていただければ、あとは自分一人で何とかできますから、僕のことは気にしないでください」


 ヨナはティタンシアを見つめ、精一杯の笑顔を見せた。

 こうすれば、彼女も自分に気を遣わずに依頼に専念できると思って。


 だが、それは逆効果だった。


「……ん。こうなったら依頼は後回しにして、ヨナを最優先にする」

「ええっ!?」


 そう言って、ティタンシアが力強く頷く。

 どうやら健気なヨナにすっかり(ほだ)されてしまったようだ。


 一方で、まさかこんなことになるとは思ってもいなかったヨナは、思わず声を上げてしまった。


「ちょ、ちょっとお待ちよ! さすがに『組合』の依頼を無碍(むげ)にしたら、この国で仕事をやっていけなくなるよ!?」

「構わない。むしろヨナを放っておくことのほうが罪。それに『アルヴ』の里は公都の北の『迷いの森』にあり、ヨナじゃ絶対に森を抜けられない」


 女将は慌ててたしなめるが、ティタンシアは聞く耳を持たない。

 困った状況になってしまい、ヨナは頭を抱える。


 すると。


「な、なら、公都までは別々に向かって、そこで合流してから『アルヴ』の里に行くっていうのはどうだい?」


 苦し紛れに近いが、女将がそんな提案をした。

 確かにこれなら『組合』の仕事も一緒にこなすことができ、一石二鳥である。


「僕も賛成です! そうすれば、ティタンシアさんも仕事を受けられますから!」

「だろう? 坊や」


 ヨナは諸手(もろて)を挙げて賛成し、女将がその手を叩いた。


「どうだい。坊やもそう言ってるんだし、あんたも……」

「駄目。それだとヨナを公都まで一人だけで行かせることになる」

「ハア……あんたねえ……」


 頑固なティタンシアは折れるつもりはないらしく、頑として首を縦に振らない。

 女将は呆れてしまい、思わず溜息を吐く。


「だ、大丈夫です! 僕、一人旅には慣れてますから!」

「よく言ったよ坊や! 心配しなくても、公都ミンガまでは馬車で三日もあれば着くじゃないか。ここはヨナの顔を立ててあげなよ」

「むう……」


 それでもなお依頼を受けるように勧める二人に推され、ティタンシアは口を尖らせる。


「……本当に大丈夫?」

「もう! 大丈夫ですから!」


 ヨナの顔を(うかが)い何度も尋ねるティタンシアに、ヨナは語気を強めて答えた。

 どうやら彼女()、かなり過保護のようである。


「分かった……じゃあ、公都で合流する」

「はい!」


 ようやく頷いてくれたティタンシアに、ヨナは子供らしく元気よく返事をした。


「それにしても、珍しいこともあるもんだねえ……基本、他人に無関心のあんたが、やけに坊やのことを大事にするじゃないか」

「当然。それに」

「?」


 じーっと見つめるティタンシアに、ヨナはこてん、と小首を(かし)げると。


「ん、やっぱり可愛い」

「わわわわわ!?」


 いきなり抱きしめられてしまい、ヨナは思わず声を上げた。


 ベネディア王国の二人……アウロラとプリシラのように胸のふくらみは大きくないが、それでもしっかりと柔らかい感触を感じる。

 ヨナは恥ずかしくなり、戸惑いの声を上げた。


「あーはいはい。要は坊やのことが気に入ったってことだね」

「うん」


 呆れる女将に、ティタンシアは力強く頷く。


 そんな彼女と胸の中でもがくヨナを見つめ、女将は苦笑しつつもどこか寂しげな表情を浮かべていた。

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