謎に包まれたままの魔王軍幹部
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「ヨナ、しっかり食べないと駄目よ。そうじゃなきゃ、大きく立派に成長できないわ」
ランベルク邸に到着した日の夜。
見たこともないような珍しい料理の数々が所狭しと並べられたテーブルを前に、ランベルク公爵がヨナに促す。
ヨナも料理に興味津々ではあるが、さすがにこれだけの量を食べるのはその小さな身体では不可能だ。
「い、いただきます!」
とはいえ、ランベルク公爵が自分のためにとこんなにも豪勢な料理を用意してくれたことが嬉しくて、ヨナは少し無理をしてでもたくさん料理を口に運ぶ。
「! 美味しい! すごく刺激的で不思議な味ですね!」
「うふふ、そうでしょう? ここグラッツは東方や南方の国との交易が盛んだから、珍しい香辛料なんかも多く入ってくるの」
「へえー……!」
楽しそうに説明するランベルク公爵に、ヨナは笑顔で相槌を打つ。
やはり彼女がヨナに向ける視線は特別で、使用人達もランベルク公爵とヨナの様子に頬を緩めた。
「……失礼。このような席でこんなことを聞いて恐縮ですが、魔王軍幹部である『背教』のタローマティとは、どのような者なのですか?」
ナプキンで口元を拭い、パトリシアが尋ねる。
一応はヨナが次の旅の目的地として選んだ先がランベルク領という体でここに来ているが、真の目的は『背教』のタローマティの討伐。
少しでも情報を得ておかなければ、たとえ古代魔法の使い手で圧倒的な強さを誇るヨナであっても、不覚を取ることもあり得ると考えたのだ。
「……本当に無粋ね。パトリシア殿下は、戦いにしか興味がないのかしら?」
「ご冗談を。ただ、早めに聞いておくに越したことはないと思いまして」
「ん……魔王軍幹部はすごく狡猾。一瞬たりとも気を許せない」
ランベルク公爵の皮肉を受け流すパトリシアに同意し、ティタンシアが頷く。
彼女は『渇望』のザリチュによって大切な幼馴染を縛られ、苦しめられた一人。だからこそ魔王軍幹部が一筋縄ではいかないことを、この中で最も理解していた。
だからこそ。
「そうね……万が一のことがあるかもしれないものね」
ティタンシアの言葉は、ランベルク公爵の心に重くのしかかる。
自分が不在の時にグラッツを襲撃し、最愛の弟の命が奪われたあの時のことを思って。
「だけど……ごめんなさい。『背教』のタローマティとは、実は直接対峙したことがないの」
「え……?」
「それは……」
かぶりを振るランベルク公爵に、パトリシアとティタンシアが意外といった表情で声を漏らした。
「これは私だけではなく、私の父も、祖父も、歴代のランベルク家当主の誰一人として、『背教』のタローマティを見た者はいない。ただ、長年戦いを繰り広げている魔王軍残党の連中は死ぬ間際、口を揃えて言うの。『タローマティ様に栄光あれ!』と」
魔族達がこぞって魔王軍幹部の名を叫んで殉死するのであれば、それはまさに背後に『背教』のタローマティがいることの証左。ランベルクの一族は、そう信じて魔王軍残党と戦い続けてきたのだ。
「ですが『背教』のタローマティがどのような者なのか、その……調べたりはしなかったのですか?」
「当然したわ。……いえ、正しくは今もしている。でも、決死の覚悟で送り出した諜報員達は、全て音信不通になった。つまりそういうことよ」
そう言うと、ランベルク公爵は悔しそうに唇を噛む。
長年にわたって戦いを繰り広げているにもかかわらず、未だ正体不明の魔王軍幹部、『背教』のタローマティ。
ただ、いずれにせよ長い間戦い続けるだけの戦力を保有し、魔族達を熱狂的と言えるほど信奉させているのだ。倒すにしても、一筋縄ではいかないことは間違いない。
「あ……うふふ、ごめんなさいね。ヨナからすればこんな話、嫌だったわよね」
「そんなことないです。ランベルク閣下が本当にすごい御方なのだということを、お話しを伺って改めて思いました」
どこか寂しそうに見つめて苦笑するランベルク公爵に、ヨナは尊敬のまなざしを向ける。
ペトラから聞いた、彼女の悲しい過去。それでも当主として気丈に振る舞い、今もこうして気遣ってくれるランベルク公爵に、ヨナはますます好意と憧憬の念を抱いた。
「本当にもう、ヨナは嬉しいことを言ってくれるわね」
「えへへ……」
ヨナにダニエルの面影を重ね、ランベルク公爵は慈しむようにヨナの髪を撫でる。
その心地よさに、ヨナは目を細めた。
「さあ、この話はおしまいにして、夕食を楽しむわよ。せっかくだから、今日はとっておきのワインでも飲もうかしら」
すっかりご機嫌のランベルク公爵は、傍にいたペトラに指示をすると。
「ランベルク閣下、こちらでよろしいでしょうか?」
「ええ」
ペトラの手によって、ワインがグラスになみなみと注がれる。
その日の夕食では、ランベルク公爵は最後まで笑顔を絶やすことはなかった。
そんな彼女を見て、ヨナは決意する。
必ず『背教』のタローマティを倒し、この素晴らしい若き公爵と亡きダニエルの魂に報いようと。
そして、その日の深夜。
――魔王軍残党が国境の砦を襲撃したとの報が、ランベルク公爵のもとに届けられた。
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