ランベルク公爵の悲しき過去
とても大切なお願いがあります!
どうか、あとがきまでご覧くださいませ!
ここランベルク公爵家には、二人の後継者がおりました。
お一人は、ヨナ様もご存知のとおりヘルミーナお嬢様、そしてもう一人の後継者であり、お嬢様の弟君であらせられるダニエル様です。
ダニエル様は聡明で快活な御方でして、いつも笑顔で私達使用人にもとても優しくしてくださいました。
剣術の腕前も目を見張るほどでして、あの『白銀の剣姫』と呼ばれたパトリシア殿下に匹敵する才能をお持ちだと、旦那様……ランベルク家の前当主でお嬢様とダニエル様の父君であらせられるラルス閣下も、それはもう目にかけておられました。
当然ながらお嬢様もダニエル様を目に入れても痛くないほど可愛がっておられ、どこに行かれる時でもダニエル様を一緒に連れていらっしゃったほどです。
そんなダニエル様が十二歳を迎えられた頃、魔王軍の残党が南の国境を襲撃したとの報が入り、お嬢様は軍を率いて防衛に向かわれます。
本来であればラルス閣下が総大将として向かうべきなのですが、この時はあいにく流行り病で臥せておられ、当時二十歳のお嬢様が向かうしかなかったのです。
とはいえ、お嬢様も十六歳の頃から魔王軍残党との戦に参加されておりますし、この頃には既にラルス閣下の右腕として類まれなる才能を発揮し、大いに活躍されておられます。
お嬢様が総大将を務められるには何一つ問題はありません。
ですが……この時ダニエル様は、お嬢様と一緒に戦うと言って聞かなかったのです。
いくら才能があるとはいえ、一度も戦場に出たことがないダニエル様を連れて行くことなどできません。困ったお嬢様はダニエル様にこうおっしゃいました。『私が魔王軍残党と戦っている間、このグラッツを守れるのはダニエルしかいない。だから、どうかあなたが私の帰る場所を守って』と。
本当は離れ離れになるのが嫌なダニエル様でしたが、お嬢様にお願いをされて強く頷き、グラッツ守護を引き受けられたのです。
お嬢様はダニエル様を抱きしめ、軍を率いて国境へと向かわれました。
ダニエル様の成長に、この時のお嬢様はそれはもう嬉しそうな表情を浮かべておられたのを、今も心に残っております。
ですが……これがお嬢様がダニエル様を見た、最後の姿でした。
なんと、お嬢様の軍が国境の防衛に向かった隙を突き、魔王軍残党はこのグラッツを急襲したのです。
ほぼ全軍を国境へと向かわせていたため、グラッツに残る兵の数はたったの五百。対して魔王軍残党の数は二千を超えておりました。
元々、人間と魔族では個人の戦闘力に大きな隔たりがあります。それに加えて四倍の戦力差なのですから、敵うはずがありません。
それでも、病を押してグラッツ防衛の指揮を執るラルス閣下の手腕により一週間持ちこたえ、お嬢様の軍が帰還したことで魔王軍残党の撃退に成功します。
でも。
「ダニエル……ダニエルウウウウウウウウッッッ!」
お嬢様との約束を守るため、魔王軍残党との戦闘に参加したダニエル様。
多くの魔物を倒したダニエル様でしたが、魔物の凶刃に斃れ、僅か十二歳の命を散らしてしまったのです……っ。
棺の中で眠るように横たわるダニエル様を見た時の、お嬢様の悲痛な表情は今も忘れられません。
程なくしてラルス様もグラッツ防衛での無理が祟り、病が悪化して帰らぬ人となってしまいました。
そう……お嬢様は大切な家族を、瞬く間に二人も失ってしまわれたのです。
◇
「……それからお嬢様は、亡きラルス閣下より受け継いだランベルク領を守るため、常に心を鬼にしておられました。そのお姿から勘違いをされることも多うございますが、本当のお嬢様は誰よりもお優しい御方だということを、私達……いえ、ランベルク領の者は存じ上げております」
全てを話し終え、ペトラは胸に手を当てて息を吐く。
「じゃあ、この部屋は……」
「はい。ダニエル様のお部屋にございます」
ランベルク公爵が愛した亡き弟の部屋。
手入れが行き届いていることからも、ランベルク公爵はきっと今もダニエルへの想いを抱いていることが分かる。
「そ、そんな大切な部屋を、僕なんかが利用してもいいんでしょうか……」
「もちろんでございます。……いえ、ヨナ様にはぜひともご利用いただきたいのです。お嬢様も、それを望まれておられますから」
どうしてランベルク公爵が、ヨナにここまで優しくしてくれるのか。
全てはヨナと亡き弟の面影を重ねていたからに他ならない。
「ヨナ様、お願いでございます。ここに滞在なさっている間だけで構いませんので、どうか……どうかお嬢様のお気持ちを汲んではいただけないでしょうか……!」
深々と頭を下げ、ペトラが懇願する。
彼女はヨナに、ダニエルの代わりになれと言っているのだ。
でも。
「……ペトラさん。僕はヨナ、ただのヨナです。僕では亡くなられたダニエル様の代わりにはなれません」
そう……ヨナはヨナであって、ダニエルではない。
どれだけ優しくされても、愛情を込められても、代わりを務めることはできないのだ。
何より、ヨナはあと九か月でこの世を去る。
もしそのことをランベルク公爵が知れば、どう思うだろうか。
最愛の弟を亡くし、代わりのヨナまで失ってしまえば、きっと彼女の心は壊れてしまう。
そう思ったからこそ、優しいヨナはペトラの願いを受け入れなかった。
「……申し訳ございません。今お話ししたことは、どうかお忘れくださいませ」
肩を落とし、恭しく一礼をして部屋を出て行くペトラ。
ヨナはその小さくなった背中を見つめ、胸を押さえた。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
皆様の評価は、作者にとって作品を書き続ける原動力です!
何卒応援をよろしくお願いします!




