子供好きの公爵
とても大切なお願いがあります!
どうか、あとがきまでご覧くださいませ!
「うわあああ……!」
帝都を出発してから一週間。
ランベルク領の領都であるグラッツに到着し、ヨナは感嘆の声を漏らす。
グラッツは帝国ではあるものの異国情緒に溢れ、様々な人種が行き交っていた。
「ここは魔王軍残党の本拠地と面してはいるけど、東と西、それに南を繋ぐ帝国の玄関口でもあるの。ヨナ、驚いた?」
「はい! 本では読んだことがありましたけど、実際に目にするのは初めてです!」
オニキスの瞳を輝かせ、満面の笑みで頷くヨナ。その姿に、ランベルク公爵は顔を綻ばせる。
「……やっぱりヨナは可愛い。だからこそ余計に、悪い虫がつかないか心配」
「そ、そうだな……」
この道中、いつも頬を膨らませて不満げにするティタンシアに、パトリシアは少し辟易していた。
ヨナが愛くるしく誰からも好かれる男の子だということはパトリシアも理解しているが、ティタンシアは少し独占欲が過ぎる。
「さて……では、我々は別に宿を取るとしよう。ヨナ、こちらへ」
そう言ってパトリシアは馬車に手を伸ばすが。
「……しょうがないから、あなた達も特別にうちの屋敷に招待してあげるわ」
ヨナを守るように抱きかかえ、ランベルク公爵は眉根を寄せてそう告げる。
この一週間の間に、彼女はすっかりヨナに心を鷲づかみにされてしまったようだ。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
「ん、よろしく」
「ハア……」
会談直後はこんなことになるとは思わず、ランベルク公爵は溜息を吐く。
だけど。
「その……ありがとうございます。ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」
「! も、もちろんいいに決まってるじゃない! ゆっくりしていってちょうだい!」
ヨナに深々とお辞儀をして丁寧にお礼を言われると、顔を綻ばせて二つ返事で受け入れるランベルク公爵。
帝都では弱冠二十六歳に過ぎない彼女が五大公爵家を率いて辣腕をふるっている姿から、多くの者から『女傑』と呼ばれたりしているが、こんな姿を見ればきっと目を疑うことだろう。
ヨナとランベルク公爵を乗せた馬車は大通りを過ぎ、街で最も大きな屋敷の門をくぐる。
「ヨナ、気をつけて降りるのよ」
「大丈夫です!」
心配そうに見つめるランベルク公爵の前で、少しおどけて飛び降りたヨナ。
古代魔法で身体を操っているため上手く着地できるか少し心配だったが、無事に降りることができてヨナは胸を撫で下ろす。
「本当にもう……でも、子供はそれくらい元気なほうがいいわね」
ランベルク公爵は苦笑し、ヨナの背中を押して屋敷の中へと足を踏み入れるのだが……。
「「「「「…………………………」」」」」
一番前にいた初老の男性をはじめ、出迎えてくれた使用人達がヨナとランベルク公爵を見て声を失う。
中には、涙ぐむ者まで。
「さあヨナ、長旅で疲れたでしょ。彼女……侍女長の“ペトラ”がお世話してくれるから、ゆっくりしてちょうだい。ペトラ、頼むわね」
「はい、お任せください。ヨナ様、どうぞこちらへ」
「は、はい。パトリシアさん、ティタンシアさん、また後で」
「ああ、また後でな」
「ん」
見たところ四十代と思われる年配の女性の後に続き、ヨナは屋敷の中を歩く。
案内されたのは。
「うわあああ! すごく景色がいい!」
窓の外からグラッツの街を一望できる、ランベルク邸において最も特別な部屋。
しかも机や寝具など、全てがまるでヨナのためにあつらえたかのように、寸法もぴったりだった。
「お気に召しましたでしょうか」
「はい! こんなお部屋をご用意してくださって、ありがとうございます!」
嬉しそうに答え、子供らしく無邪気な笑顔で感謝の言葉を告げるヨナ。
その姿を見たペトラは、なぜか目頭を押さえて涙ぐむ。
「っ!? ど、どうなさったんですか!?」
「あ……も、申し訳ありません。どうかお気になさらず……」
笑顔を作りペトラはそう答えるが、ヨナは気が気じゃない。
元々ヨナの心根が優しいこともあるが、ラングハイム家でずっと独りぼっちだったからこそ、自分に優しくしてくれた、大切にしてくれた人に恩返しをしたい、尽くしてあげたいと思う節がある。
ペトラのことはよく分からないが、少なくともこの一週間すごくよくしてくれたランベルク公爵が直々に指名してつけてくれた使用人。それだけで、ヨナが何とかしてあげたいと思うには充分だった。
「……本当に、そういったお優しいところも、“ダニエル”様と……っ!?」
心配そうに覗き込むヨナに思わず気を許してしまったのか、ペトラはそのようなことを呟いてしまい、慌てて口を噤む。
だけど、彼女が口にした“ダニエル”という人物。ランベルク公爵が自分に対してすごく優しくしてくれることといい、この部屋のことといい、何かある。ヨナはそう考えた。
「……ペトラさん。その……ダニエルという人のこと、僕に教えてくれませんか……?」
ペトラの手を取り、懇願するヨナ。
魔王軍幹部『背教』のタローマティを討伐することがランベルク公爵への恩返しになると考えていたヨナだったが、ひょっとしたら他にも何かできることがあるかもしれない。そんな思いで、ペトラを見つめる。
すると。
「……あれは、今から十年前のことです」
根負けしたペトラは、訥々と語り始めた。
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