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ウィッチ・ブランダー ~魔女の奇妙なやらかし~  作者: 目黒白金
第一章 人間たちを消滅させてしまいました
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1-5 『人間の街へ』

 北部の中心に位置する大国グランデリア、及びその主要都市ディロンドール。

 大小様々な建物が所狭しと敷き詰められた街並みは、良くも悪くも大都市に相応しい景観を呈しています。


(……相変わらず、大きな街ですねえ)

 箒に跨がり上空からそれらを一望していると、そのあまりの広大さに思わずため息が溢れてしまいます。何度見ても、人間という種族が作り出す文明社会とやらには感服するばかりです。


 ――そう。私は今、人間の街に来ています。


 来訪の目的はと言えば、事件後の人間社会の様子をこの目で直接確かめに来たのです。


 そして事件とは無関係に、週に一度は街へ出掛けるようにしています。定期的に人間の文化に触れることで、自身の魔女としての価値観をアップデートするためです。

 ……というのは建前で、本音を言えば単純に『楽しむため』だったりします。実を言うと結構好きなんですよね、人間の街。


 因みによく行く場所は書店や洋服店、食事処が多いです。あとは薬局くらいですかね。


「では、ぼちぼち見て行きますか……」

 私は適当な建物の屋上に降り立ち、人間仕様の服装に着替えてから、いよいよ街中へと足を踏み入れました。

 因みに飛行時は箒ごと【透明化インビジブル】、着替えは【変化チェンジ】の魔法を用いています。


 ところで、いつもなら服装には気を遣います。可愛いらしい服を着たいのですが、男性に声を掛けられると色々面倒なので、以前はなるべく目立たないものを選びがちでした。

 しかし今なら気にせず着たい服を着ることが出来ます。だって男性がいませんからね。


(変わらないですねえ、ここは……)

 辺りを見渡しながらしみじみ思います。

 初めてこの街を訪れたのは、まだ私が六歳の時。弟子入りしたての頃、師匠と共に修行に励んだ場所がここ、ディロンドールでした。

 まあ、数年ごとに他の街へ移り住んでいたので、ずっといたわけではありませんが。

 それでも最初に過ごした地ということで、私にとっては思い入れの深い街なのです。


 こうして街を歩いていると、人間社会の状況がよくわかります。

 賑わっていた街並みも、今では何処かもの寂しさを覚えました。まあそれもそのはず、男性が一人としていなくなったのだから当然ですが。


(……あれ? でも……)

 しかし、意外と言うべきか。確かに閑散としてはいますが、私が懸念していた程『大混乱』というわけでもなさそうです。


「犯人まだ捕まってないの?」

「誰がやったのかねえ」

「魔女の仕業に決まってる」

 等々、現状に対する不平不満は聞こえてくるものの、住民は皆思いの外落ち着いているようにも見えます。


 魔女と違って人間、とりわけ非魔術師のコミュニティは一部を除いて男社会。ここディロンドールは比較的女性が多い方ですが、それでも男性より若干少ないくらいです。


 それを抜きにしても、取り残された女性達からすれば暴動が起きていても不思議ではないはずなのですが……。


(……案外冷静ですね、皆さん?)

 私は疑問を抱きながらも歩みを進めていきました。


 ところで私は、あまり大通りを闊歩かっぽしたくありません。

 人混みが苦手なのは勿論、この街には決まって『とある人たち』が彷徨うろついているからです。

 可能なら遭遇したくないというのが正直な所で、そのためにもなるべく目立たないよう配慮しています。


 更に言えば、『とある施設』の前を通ることも意識的に避けています。何故ならそこは――


「――君、ちょっと失礼」

「は、はいっ? なんでしょうっ?」

 不意に呼び止められ焦りつつ振り向くと、黒いローブをまとった人間が二人、こちらを見下ろしていました。


(げっ……)

 彼女たちは恐らく哨戒パトロール中の『教会』の魔術師マジシャン。まさに今私が『会いたくない人たち』でした。

 魔女と勘付かれたのかもしれません。これまでにも何度か職質を受けたことがあります。


「最近、ここらで魔女が出没してるのは知ってる?」

「し、知りません……」

「若い女性が襲われてるの。指名手配中の連続暴行犯である可能性が高い。危険だから、日中でも一人で出歩かない方がいいわ。とくにあなたのように小さな女の子は」

 子供扱いされるのは癪ですが、今はその屈辱も利用したほうが賢明でしょう。


「わ、わかりました。今度からは母と来るようにします。いつもご苦労さまです。それでは……」

「……待った」

(ひっ?)

 急ぎその場を離脱しようとした時、しかし突如肩を掴まれました。


「……あなた、中々良い魔力ね。魔術師? 見ない顔だけど」

「い、いえ……あの……」

 練度の低い魔術師は、魔力を見ただけでは魔女か魔術師か判別しにくいと言われています。


「よければ教会に入信を。我々と共に世界を良くしましょう」

 彼女は一点の曇りもない笑顔でそう言い、一冊の本を差し出しました。

(うわっ……)

 私は拒否反応から自然に顔をしかめました。


 見覚えのある黒と白の表紙。

 文庫本サイズのそれは、教会秘蔵の『聖なる書物』。我々魔女からすれば触りたくもない代物です。


「知ってる? 教典は読むだけでも創造主クリエイター聖なる加護(ホーリー・プロテクト)を受けられるの。悪魔の邪悪な力(イーヴィル・フォース)を退けることが――」


(勘弁してください……っ)

「す、すみませんっ……急いでいるので!」

「あっ……」

 私は勿論それを受け取ることなく、泣きそうになりながら逃走しました。

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