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第19話 デートでいきなりゲーセン

「……早いわね?」


 俺の姿を見つけると、南潟先輩は憮然とした表情でそう言った。

 今の時刻は九時半。

 待ち合わせは十時なので二人とも三十分以上早く到着している。


 で、南潟先輩のこの不機嫌は表情から、俺より早く来て一喝入れるつもりだったんだろう。

 俺が来たら「遅い!」「どうしてあんたが待たせてんのよ!」とでも言うつもりだったんだろう。

 朝にそう言っておけば、何しろ先輩に後輩だ、主導権を握れると踏んだんだろう。

 まあ、部活ならそうだろうしな。

 だが、俺はあくまで情熱と誠意で行くつもりなので、三十分程度じゃ治まらない。


「南潟先輩とのデートですから。朝早く起きてしまって、そのまま早く来て待ってました」


 俺が満面の笑顔で答えた。


「あ、そ」


 ふん、と顔を背けたけど、満更でもなさそうだ。


「先輩の私服、初めて見ましたけど、可愛いですね?」

「そ、そう? ありがとう」


 南潟先輩は慌ててこちらに身体を向ける。

 顔はそっぽを向いたままだが。


「先輩、そういう服も似合いますね? 意外です」

「意外ってのは、まあ、認めるわ……」


 恥ずかしそうに、スカートを押さえる南潟先輩。

 南潟先輩の服の色は、全てベージュから茶色を基調としている、色合いだけなら大人っぽいシックな感じにも見える。

 だけど、全体的に可愛い目の感じなんだよな。

 なんていうんだっけ、ワンピースの短いやつ、っていうか、えーっと……そうだ、前に付き合ってた子から聞いた、ぺプラムだ。


 シャツのウエストから下の部分がプリーツ状になってて、一見ハイウェストなミニスカートに見えるけど、それだけだとタラちゃんの叔母さんくらいの長さになってしまうくらいの長さ。

 その下にスカートがちらりと見えているんだが、それが結構なミニスカートだ。


 いつもにはない可愛い雰囲気で、それが結構似合ってる。

 長身スレンダーで、かつバリバリ体育会系で、それが似合ってる南潟先輩には、ジャージやラフな服装が似合いそうだし、スカートにしてもロングワンピースなんかが似合いそうだ。

 だけど、長身に黒髪ロングの彼女には、確かにこんな格好も良く似合っている。


「可愛いですね。惚れ直した感じです」

「か、からかわないでよ、もう……」


 俺が笑顔で言うと、南潟先輩は恥ずかしそうにスカートを押さえるけど、満更でもないようだ。

 これで、ペースも俺の方に分があった。

 デートの経験すらない南潟先輩なんて軽いもんだ。


「で、どこに行くの? 全部あんたに任せてもいいのよね?」

「はい、じゃあ、最初はゲーセンに行きましょうか」

「は?」


 南潟先輩の怪訝な表情。

 まあ、確かに週末デートの最初にゲーセンってチョイスは中々ないと思う。


「……ま、あんたに任せるって言った以上、任せるけどね」


 ゲーセンはデートスポットではあるけど、どちらかというと、移動中にたまたまゲーセンがあって、ちょっと寄ろうか、って感じだったり、そうでなくてもデートのメインを終えた後に寄るところだ。

 もしくはつなぎの時間潰しくらいだろう。

 時間潰しなら、しょっぱなにするわけもない、十一時から用事があるなら、十一時に集合すればいいからだ。


 それを初っ端に行く、というのは何故か。

 一つだけ、まだ確かめたいことがあるからだ。

 俺はこのデートで南潟先輩を落とす気でいる。

 正直長引けば、神酒先輩がどんな妨害をして来るか分からない。


 校外でやる今日のデートなら、それはないはずだ。

 そして、速攻の口説きに必要なのは、南潟先輩、いや、南潟夏奈という女の子の本質を知ることだ。

 この女の子は一体どういう子なのか?

 パートナーとなる男には、何を求めるのか?

 それはある程度見極めはついている。

 だけど、最後の決め手が必要だ。

 それにはゲーセンがちょうどいい。


「着きましたよ。ここです」

「へえ……」


 南潟先輩が感嘆の声を上げる。

 そこはこの春にオープンした大型アミューズメントパークで、ゲームやプリントシール、クレーンゲームだけでも遥か彼方まで広がっているくらいの大きさだ。

 ゲーセン特有の喧騒も、広大なフロアに広がっているから何となく壮大だ。

 初めて来るなら圧倒されてしまうだろう。


「で、でも、あたし、ゲームなんて、スマホでしかやったことないわよ?」


 圧倒されながらも、そう答える南潟先輩。


「ゲームをやりに来たんじゃないですよ。プリントサークルとかクレーンゲームとか、そういうのをやりに来たんですよ」

「そうなの?」

「はい。ちなみにその二つだと、どっちがいいですか?」


「んー、クレーンゲーム、かな?」

「分かりました、じゃあクレーンゲームのコーナーに行きましょう」


 俺は、南潟先輩の手を引いて連れて行く。

 慣れない場所に緊張しているのか、それとも俺に対する警戒がなくなったからなのか、俺の手は振りほどかれることはなかった。

 俺と先輩は、小さなぬいぐるみのクレーンを集中してプレイして、最初はほとんど取れなかったけど、南潟先輩がコツをつかんで、それから取れるようになって、結局先輩は五個、俺は一個も取れなかった。

 俺が悔しそうな顔をしていると、南潟先輩が一個分けてくれた。


 いや、俺は欲しいわけじゃなく、取れなかったことが悔しかっただけなんだがな。


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