第20話 バスケでの勝負
その後、映画を見たり、カフェレストで食事をしたり、なんて普通に普通のデートを楽しんだ。
雰囲気は悪くないけど、南潟先輩は多少の距離感というか、「騙されちゃ駄目よ、こいつはこういう男なんだから」って警戒もあって中々打ち解けてくれない。
何か、もう一つあればいいんだけどな。
「先輩、ボール貸して貰えるみたいですよ?」
俺はそう声をかけた。
大きな公園を歩いていて、目の前にそんな看板を見かけたからだ。
日曜日というだけあって、公園も人であふれている。
そんな中を俺たちはぶらぶらと歩いていた。
なぜそうなったかと言えばさっきボートに乗ろうとしたら、恥ずかしいから嫌だと断られて、ここに来た目的がなくなったからだ。
で、何をしようか迷っていたら、バスケットコートがあったのだ。
塗装の剥がれた古いストバスコートだが、隅の管理事務でボール貸し出しをしているようだ。
「そうね。やりたいの?」
「はい、先輩と勝負してみたいです!」
「でも、あたし、こんな格好だし」
南潟先輩は、自分の格好を見る。
ペプラムとやらは、まあ、長めのシャツと考えていいとして、ミニスカートは気になるんだろう。
全力で飛んでもペプラムのせいで捲れることはないだろうけど、それでも、激しい動きにミニスカートは心細いんだろう。
こんな時は、あれだ、煽ってみるのがいい。
郷羽先輩とか、あっさり煽れてるし、俺も結構そういう挑発的なのも出来るようになってきてるからな。
「あれ? もしかして怖いんですか? 素人の俺に負けるのが?」
「は? そんなわけないでしょうが。ていうかね、そんな安っぽい煽りに乗ると思ってんの?」
「あ……すみません」
さすがに南潟先輩相手には無理か。
これが郷羽先輩なら、あっさり乗ってくれるんだろうが、同じ貧乳でもこっちは手強い。
「そういう煽り入れてくるって事は、バスケに自信があるって事ね? 体育で多少うまく行ったんでしょうね、素人同士なら身長が高ければ有利だからね」
「いえ、そんな」
南潟先輩が、俺の直近に来て、身長差を確認する。
俺も長身だが、南潟先輩も女の子の中では長身だから、顔が近くて困る。
「でもね、バスケは身長だけじゃないのよ。それを教えてあげるわ。対戦したいならしてあげるわよ」
「は、はい」
結局煽りに乗るんだ、この人。
「負けたら、飲み物奢りね?」
しかも結構ガチギレしてないか?
キレ気味の南潟先輩は、驚いて半ば呆れている俺の答えを待たずに、管理事務に行ってしまった。
「最初に言っておくけど、身体に触る目的でファールしたら、デートはその場で終了するから。いいわね?」
「分かってますよ。触りませんって」
そんな貧相な胸をさ。
「じゃ、あんたの先行でいいわ」
パスの要領で、俺にボールを投げる南潟先輩。
「さ、どこからでも来なさい」
腰を低くして、トップの位置で構える先輩。
うん、本気なのは分かったけど、ミニスカートでそんなに腰低くすると、ちょっと危ないんですけど。
「じゃ、行きます」
俺が、持っているボールをバウンドさせ、南潟先輩に向かった瞬間の事。
「わっ!?」
走り込んで来る南潟先輩。
いきなりだったこと、トップスピードがあまりにも早かったことから、俺は何の反応も出来なかった。
「はい、終りね?」
俺のボールは、俺が何の反応も出来ないうちにあっさり奪われた。
「あんたね、目の前の敵がいるのに、バウンドのストロークが大きすぎるのよ。それは長距離を走るときには向いてるけど、バウンドが長いと、ボールから手が離れてる時間が長くなるから奪われやすくなるわ。あと、相手は直接触れることが出来ないから、身体でボールを守るのよ、こうやって」
そう言いながら、南潟先輩が、右手でボールを低く速くバウンドさせながら、俺のいる方に左手を伸ばして、けん制する。
なるほど、確かにこれだと、ボールを奪えない。
「分かりました」
「じゃ、次はあたしの番ね。構えなさい」
「はい」
俺は、南潟先輩が構えていたように、コート奥、ゴールの真下くらいに両手を広げて構える。
「…………はあ」
南潟先輩はそれを呆れたように見て、ため息を吐く。
明らかに俺の行動がそうさせているんだろうけど……何が悪いの?
先輩は黙って、俺に近づいて来て、エリア内に入る。
俺が警戒して腰を落とすと、南潟先輩は俺から一メートル向こうのそこからシュートを打った。
「あ……れ……?」
それは、あっさりゴールネットをくぐり抜けた。
「そんなに奥に守ってたら、シュートされるに決まってるじゃないの。基本的にペイントラインに入った相手は、シュート打って来るから、それを妨害するのよ」
「すみません、ペイントラインって何ですか?」
当たり前のように知らない言葉を話してくる南潟先輩。
やっぱりこの人、バスケットさせると活き活きしてくるよな。
「んー、その中に入ると、オフェンスは三秒以内に出て行かなきゃならないのよ」
「そうなんですか」
「そう、だから、そこに入って来るって事は、確実にゴールを打って来るわ。だから、まずはそこに入れさせないこと。そして、入れてしまったらゴールを打たせないこと。それがバスケのディフェンスの基本よ」
俺はどうしてこんなところで、バスケの講義を受けているんだろう、なんて思うが、先輩が楽しそうだから、続けさせよう。
「そもそも、マンツーマンディフェンスはね──」
俺は南潟先輩の講義を聞いて理解することに専念した。




