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「モンスター・テイマー」と呼ばれた少年  作者: olupheus
第1章 覚醒する能力 –メザメルチカラ–
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癒しの子

亀より遅い更新で、本当に申し訳ありません……。

え~、たぶん7パート目です。どうぞ~。

 その言葉を聞いたとき、その場にいた全員が一瞬動きを止めた。ただし、その理由は人によって微妙に違っていた。

 例えばカイゼルの場合、「驚き」が自分の動きを止めていた。何故「自分の体が痛い」などと言えるのか。その理由を聞こうと口を開いたとき、

「なあ、クルム、なに言ってんだ? このじいさんが体を痛くしてる? とてもそうは見えないぞ?」

 先にアルスが問い質していた。

「さっきじいさんは体を屈めてただろ? 体が痛くちゃそんなことできないんじゃないか?」

「がまんしてただけだもん。おじいちゃん、ぼくとおはなししてたとき、ずっとこしがいたいの、がまんしてたんだよ」

「まさか、このじいさんがそんなことする理由はないだろ」

「む~、ほんとだもん! ぼくたちがここにきてから、おじいちゃん、ずっとがまんしてだんだから! おとーさん、みててね!」

「ちょ、待……!」

 すっかり口を挟むタイミングを逃してしまったカイゼルの元に、クルムがとてとてと近づいてきた。

 そして。

「おじいちゃん、だいじょうぶだよ。いま、いたいのなおすからね」

 そう呟き、クルムは手をカイゼルにかざし、そっと目を閉じた。


『なおって』

 ――砂象(サンドエレファント)の時と同じ、暖かい光が小さな手から溢れ出た。


(この光は……。間違いなく、癒しの魔術……! まさか、本当に……!)

 カイゼルは平静を装っていたが、心中は絶賛大混乱中だった。だが、目の前の小さな子どもが癒しの魔術を使ったという現実は、自分の体を包みこむ光と共に、じんわりと染み渡っていく。


「おじいちゃん、どう……?」

 クルムの不安気は声で、はっと我に返ったカイゼルは、思わず自分の体を確かめた。

「お、おい、じいさん、大丈夫か? すまん、止められなかった!」

「いや、いい……。ああ、確かに、体の痛みは取れた。すごいものだな、バレていないと思ってたのだが……」

「先生、体痛かったんですか?」

「ああ、俺も年でね、最近体のあちこち……、腰とか、関節とかに痛みが出るようになっててな。こうなると周りが自愛しろだの、引退だのうるさいからバレないようにしてたんだが、ハハ、この子のお蔭で、これから悩まされることも無くなりそうだ」

「体、痛めてたのか……。確かに俺たちも分からなかった。クルム、どうして分かったんだ?」

「え? だって、おじいちゃん、ずっとこしとか、おひざとか、いたいのがまんしてたよ?」

「いや、それが分かった理由を知りたいんだが……」

「?」


 クルムは首をかしげるばかり。「分かって当然」と言わんばかりだった。カイゼルは顎に手を当てる。

「ううん、こりゃどういうことだ?」

砂象(サンドエレファント)の時もこんな感じだったんだ。『あのぞうさん、あしがいたいって、ずっといってた』ってな。なんでそれが分かったのか聞いてもこの通り首をかしげるばかり。砂象(サンドエレファント)の考えてることが自然と分かったんじゃないかと思えてくるくらいだ」

「それで今回は俺の考えを読んだ、か?」

「そうとでも考えなきゃ説明がつかん」

 カイゼルは視線をアルスからクルムに移す。クルムは不安そうな顔をしていた。


「おじいちゃん、かってになおしちゃ、だめだったかな……?」

「あ、いや、そんなことは無いぞ。すごく助かった。お蔭で体が楽だよ」

「ほんと? よかった!」

 カイゼルがクルムの頭を撫でる。クルムの顔に笑顔が戻った。



「あ、そういえば、じいさん。結局検証はどうすんだ?」

「ああ、俺から話を通しとく。何てったってこの体で実証したからな。これ以上無い証明になるだろうよ。それでも文句のある奴は俺が黙らす」

「そ、そうか……。せっかく体が治ったんだから、あまり無理はするなよ……」

 自信を漲らせるカイゼルに少々引き気味のアルス。

「とりあえず報告書の件はこっちで処理する。何かあったら連絡するから、今日のところはもういいぞ」

「ああ、分かった」

「先生、よろしくお願いします」

 そうしてアルス、マルタ、クルムが部屋を出ていく。扉が閉まる直前、クルムが手を振ると、

「困ったことがあったらここに来なさい。力になってやるぞ」

 そうカイゼルが返した。



「もう昼か。ここの食堂で食ってから戻るか」

「そうね、そうしましょ」

 廊下を歩きながら言葉を交わすアルスとマルタ。

「クルムもそれでいい?」

「うん!」

 満場一致により、3人は本部内にある食堂に向かった。


「うわあ、ひろい……」

 クルムが思わず呟いた。本部の2階にある食堂は、本部にある全職員が詰められるほどの広さを確保している。全員分の空席を確保できるようにという配慮の他、何らかの理由で緊急事態が発生した際に、臨時の指揮本部として利用するためでもあった。

 今は食堂本来の役割を果たしており、そこかしこでギルド職員と思しき人達が食事を取っていた。


「ここに来るのも久しぶりだな。香辛料の野菜煮込みはまだあるかな……と」

「クルムは何食べたい?」

「おにくがたべたい!」

 3人は思い思いに食べたいものを注文する。アルスは食堂名物・香辛料の野菜煮込みを、マルタはシチューを、クルムは最近メニューに追加されたという牛ひき肉の固め焼きを持って(クルムの分はアルスが持った)、席についた。


「ああ~、やっぱこれだな! 旨い!」

「ほんと? ぼくもたべてみたい!」

「あ~、これ結構辛いぞ? 止めといたほうがいいんじゃないか?」

「あ、クルム、ほっぺにソースが付いてるわよ? ホラ、拭いてあげるから」

 にぎやかに食事を取る3人。すると、

「あれ? マルタさん? こんなところで何してるんですか?」

「あら、あなたたち……」

 マルタの視線の先には、ギルドの職員と思われる若い女性が2人立っていた。


「久しぶりね、元気にしてた?」

「はい! おかげさまで! マルタさんこそ珍しいですね?」

「ちょっとね、先生に呼ばれたのよ」

 それを聞いた女性たちは、

「ひょっとして、ギルド中で話題になってる『癒しの子』絡みですか!?」

「じゃ、もしかして、後ろにいるその子が!? キャ~、かわいい!!」

 いきなり色めきたった。


 話題の中心になっているクルムはというと、突然のことに頭が回っておらず「あうあう」言うばかり。マルタの服の裾をつかんで離さず、必死に隠れようとしていた。本日も人見知りは絶賛稼働中だった。

 しかし、可愛いものに目が無い女性たちにそんなささやか抵抗が通じるはずも無く。あっという間に女性たちに抱き上げられ、撫でくり回され始めた。


「あ、こら! クルムに何するの!」

 マルタがたしなめるも、

「クルム君っていうんですね! ああ~、かわいいわぁ~~……」

 全く効果が無かった。


「それにしてもマルタさん」

「何よ」

「いつの間にか旦那さんとこんな可愛い子どもを作ってたなんて、スミに置けないですね~」

「「はあ!?」」

 ずっと空気だったアルス共々、声が重なった。


 その後、アルスとマルタは2人がかりでクルムを拾った経緯を必死になって説明した。だが、女性たちは「分かってます」という顔をして、全く信じてくれなかった。

 その顔を見た2人がますます必死になるも、女性たちは「分かってますって」と笑顔を浮かべ……、と泥沼状態に陥ってしまった。

 その間、ずっとクルムは抱き上げられたままだった。時々涙目になりながら「たすけて~……」と言うも、目の前の女性の庇護欲を掻き立てる結果にしかならなった。


 こうして、本部内には「鬼神が『癒しの子』を設けた!」という噂が上から下まで流れることになり、しばらくアルスは居心地の悪い思いをしていたという……。

4,000PV、ブックマーク20件突破、本当にありがとうございます!!

更新速度は御覧の有様ですが、時々覗きに来て頂きますと幸いです。


次回、クルムは自らの運命と出会います。お楽しみに!

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