後始末は本部の中で
先週胃腸炎にかかって、折角の休みを全部潰した筆者がお送りします……。
間を空けてしまったお詫びに、(そんなつもりでやった訳では無かったのですが)いつもよりもボリューム増ですよ! まあ、お得?
次以降もこれくらいの分量になる未来が見える……。
砂象を巡る騒動から一夜明けた中央都市。今日もいつも通りの時間が流れてゆく。
「うう~~~ん」
そんな中、アルスは1枚の報告書の前で唸っていた。
今アルスはいつものギルドハウスではなく、中央都市中央の王城脇にある、ギルドの総本山、通称「本部」と呼ばれる建物の一室にいた。
というのも、先日の騒動について報告書を提出するように言われているからなのだが……。
「アルスさん、終わりました? ……真っ白じゃないですか」
という状態であった。なお、今アルスに声を掛けたのは、アルスと一緒に会場の警備をしていた若い職員である。
「ああ、正直何て書けばいいのか良く分かんなくてな……」
「分からないも何も、あったことをそのまま書けばいいんじゃないですか?」
「お前な、5歳の子どもが癒しの魔術を使って砂象を大人しくさせました、って報告して信じる奴がいると思うか?」
「……まあ、笑われるでしょうね」
「ああ、どうしたもんか……」
頭を抱えるアルス。
「その子って、アルスさんとこのお子さんなんですよね」
「ん? ああ、そうだ。まさか砂象の前に出ていくとは思わなかったが。あん時は本当に寿命が縮むかと思った」
「今思い返すと、何でそんなことしたんでしょうかね」
「ああ、後で聞いてみたんだが、『あのぞうさん、あしがいたい、っていってたから』だそうだ」
「どういう理由ですか、それ。まるであの象と会話してたみたいじゃないですか」
「だが、誰も知らないはずのケガを一発で見抜いた。それこそ、あの象から教えてもらわない限りは、クルムも分からないはずだ」
「ふうん……。謎ですねえ」
「元々クルムは動物に好かれやすい性質みたいだからな。あいつは色んなものを観察してるから、さりげない仕草からケガを見抜いたのかも知れない。結局、本当のところはクルムしか分からんよ」
「そうですか……、それにしても」
「何だ?」
「いや、アルスさん、その、クルム君のこと喋り始めた辺りでだんだん顔がニヤけてきてて……」
「あんだ、文句あるか」
「あの『鬼神』の異名を持つ冒険者が、自分の子どもにデレる姿を見たら、みんな何て言うでしょうね」
「ほっとけ!」
「最近、本部でも割と話題に上がるんですよ。アルスさんの雰囲気が柔らかくなったって。いやあ、クルム君のお蔭だったんですね」
「お前ら、そんなこと噂してたのか……」
「ええ、そりゃもう。……ところで報告書はどうするので?」
「ああ、もう、横道に逸れたせいで、ますます考えがまとまらなくなったよ」
「やっぱりありのまま報告するしかないですって。目撃者もたくさんいたわけですし」
「くそう、やっぱそうなるのか……。絶対面倒なことになるぞ、これ」
半ばヤケクソ気味に呟いたアルスが報告書を完成させたのは1時間後のことだった。
そして報告書は数人の手を経由して、本部で最も偉い人間の元にたどり着く。
「ほほう、こりゃあ、また面白いもんが来たな」
その人物は報告書を片手に、もう片方の手で腰を叩きながら、愉快そうな表情を浮かべた。
「そういえば最近、あいつもここに顔を出さなくなったな。……よし、丁度いい。これの検証にかこつけて、あいつを呼び出してやるか」
ククク……、という声が部屋の中に響き渡った。
部屋の外では。
「なあ、なんか不気味な笑い声が聞こえるんだが」
「ほっとけ。どうせいつもの発作だ」
発作扱いされていた。
そして翌日。
本部へ向かうアルスの横にはマルタとクルムがいた。
「くそ、やっぱりこうなったか……」
「う~~ん、まさか癒しの魔術がこんなに早く使えるようになるとは思ってなかったからなぁ。ちょっと張り切り過ぎたかも……」
大人2人でそろってぼやく間で、クルムはきょろきょろと周りを見渡していた。
アルスが報告書を出してしばらくすると辞令が届いた。長ったらしい内容だったが、必要な部分を要約すると、
「報告書に書いてあったことの検証するから、その子ども(クルム)を連れてこい」
だった。
それを見たアルスの顔は、様々な感情が混ざり合った何とも言えないものだったという。
目的の部屋に近付くにつれて、アルスの足取りはどんどん重くなっていく。対照的にクルムは、普段見ることのないものを見ているせいか、はしゃいでいた。
「ホント、何も知らないって幸せだな……」
「もう、そんなこと言ってもしょうがないでしょ! ほら、シャキッとする!」
なんてやり取りをしている間に目的地に着いた。着いてしまった。
トントン、とノックを2回。煮え切れないアルスを見かねたマルタがノックをした。
「どうぞ」
中から渋みを感じる男性の声がした。
「失礼します」
マルタが一言。部屋に入ると、そこには背筋を真っ直ぐ伸ばした初老の男性が立っていた。
「よう、アルス。元気そうだな」
「ああ、あんたの顔を見るまでは元気だったよ」
アルスは苦虫を噛み潰したような顔をして呻く。
「カカ、そう邪険にするなよ。俺とお前さんの仲じゃないか」
「うっせ、毎度人のことを便利屋みたいにこき使いおってからに……」
「おお、マルタちゃん、相変わらず別嬪だなあ、こいつにゃもったいないくらいだ」
「先生、ご無沙汰しております。変わらずお元気そうでなによりです」
「おおう、この通りだ。元気が有り余って困ってるところだよ、ハハハ!」
「コラ、聞けよ!」
アルスの抗議はあっさりスルーされた。今のやり取りで満足したのか、男性はクルムに視線を向けた。
クルムはいつもの人見知りが発動し、マルタの後ろに隠れようとした。が、マルタはそれをブロックした。
「ほら、挨拶なさい」
優しく促すと、クルムは恥ずかしそうに、
「……こ……んにちは」
と挨拶した。男性は微笑みながら、
「おお、コリャ可愛い子だのう。こんにちは、ちゃんと挨拶できて偉いなあ」
と言いながらクルムの頭を撫でると、初めびっくりした表情を浮かべたが、すぐ嬉しそうに笑った。
「この子が例の子か。……女の子か?」
「残念、男の子です」
「む、そうか……。また綺麗な顔立ちをしてるなあ」
男性は腰を曲げ、クルムの顔をじーっと観察した。クルムの方もまた、男性の目をじーっと見つめる。
「こらあ、そんなに近づくな! クルムが汚れる!」
「なんだ、お前さん、しばらく会わない間に随分僻みっぽくなったじゃないか。そんなにこの子を取られるのが嫌かね」
「先生、ほっといて大丈夫です」
3人がやり取りする中で、クルムが声を掛けた。
「おじいちゃん、おじいちゃん」
「ん? おお、何かな?」
「おじいちゃんって、おとーさんとおともだちなの?」
「おともだち? 友達か! ハハハ、そりゃいい! その通り! 君のおとーさんとはすごーく仲良しのお友達なんだぞう!」
「そうなんだ!」
「そんな訳あるかぁ! クルム、コイツの言うことを真に受けたらダメだ!」
「アルス、みっともない真似はやめなさいよ……」
マルタが呆れ返った顔でアルスを見ていた。
「クルム、この方は『ギルドマスター』っていって、ここの建物で一番偉い人なの」
「へー?」
「ははっ、君にはまだ難しいか。俺の名前はカイゼル、改めてよろしくな、クルム君」
「よろしくおねがいします!」
「で? 検証って言うから連れて来たが、一体何をさせる気だ?」
クルムを抱き抱え、威嚇するように唸るアルス。
「おいおい、そう警戒するなよ。いやな、報告書を読んだ連中から、『そんな小さい子が癒しの魔術を、それも動物相手に使っただなんて信じられない』って意見が続出したんだよ。それなら確かめた方が早いってんで、こうして呼んだ訳だ」
魔術には様々な種類があるが、中でも「癒し」に分類されるような魔術は難易度が高いとされている。その理由は、魔術がいかにして発動するか、ということに関係している。
そもそも、魔術の根幹はイメージである。それを体内の魔素に乗せ、対外に放出することで魔術は発動する。つまり、イメージが鮮明にできなければ、魔術はきちんと発動しないのである。
これを癒しの魔術に当てはめる。例えば、相手のケガを治したい場合、術者は傷を塞ぐイメージをするのが一般的である。では、傷を塞ぐイメージとは、具体的に何をイメージすれば良いのか。
中央都市は他の都市と比べると文化水準はトップクラスだが、基本的に魔術ありきで成り立っている側面がある。つまり、「科学技術」はそこまで発展していない。当然、人間の体は細胞でできていて、それが分裂することで……、なんてことを知っている人間はいない。
そう、「傷を塞ぐイメージをするための前提知識」が不足しているのである。それでも先人のイマジネーションと努力によってどうにか体系化はしているものの、誰でも簡単に扱えるレベルには程遠い状態なのだ。
それをたった5歳の子どもが扱うなど、非常識とかの話ではない。まして魔術の対象は人間ではなく、動物なのだ。前提知識が無くたって、人間とは体のつくりが違うことくらい分かる。アルスの書いた報告書が総ツッコミを受けるのも当然だった。
「クルムの癒しの魔術の検証ったって、どうすんだ? ケガしてるヤツを連れて来るのか?」
「そこなんだ。そう都合よく見つからないんだよ。……という訳でアルス、今からケガしようか」
「お前何言ってんだ!?」
「師匠に向かって『お前』とか言えるなんて、随分偉くなったもんだなぁ?」
「それとこれとは話は別だ!」
カイゼルがナイフ片手にアルスへにじり寄ろうとすると、
「おじいちゃん、おじいちゃん」
とアルスが声を掛けた。
「ん? おお、どうしたかな」
「ぼく、まじゅつつかえばいいの?」
「ああ、そうなんだが、あいにくケガしてるヤツがいなくてな、そこのアルスを実験台にしようと……」
「誰がなるか!」
「じゃあ、じゃあ、おじいちゃんにつかう!」
「え? 俺に使うのか? 俺は別にケガしてないぞ?」
カイゼルが不思議そうな表情を浮かべる。アルスとマルタも顔を見合わせた。
「え? でも、おじいちゃん、からだがいたいんでしょ?」
3,000PV・1,000UA突破、あとなんだ、ブクマはまだか……、とにかくありがとうございます!
もっと精進しますので、時々フラッと寄っていただけると嬉しいです。
このお話が、皆様の彩りになりますよう……。




