幕間 とある冒険者の戦闘譚
幕間の2パート目です。
ようやく、ようやく戦闘シーンをお届けできます。長かった……。
なお、冒険者たちは基本魔物に手心を加えることはありません。容赦なしです。
要するに、グロ注意です。
それが起こったのは中央都市を出発して、昼の時間を過ぎた辺りだった。その時キャラバンは街道を進んでおり、左側が見晴らしの良い草原、右側が木々に覆われた森だった。
初めに異変に気が付いたのは、キャラバンの真ん中あたりにいる冒険者グループだった。右側を警戒していた冒険者が違和感を感じたのである。
「ん、木の陰に誰かいる……?」
木の陰に子どもの大きさくらいの人型が見えた。それが複数。十以上はいるだろう。その光景を見た彼の脳裏では高速で思考が展開される。
ここは都市の外。魔物や野生の動物がうろつき回る場所。そんな場所に子どもだけの集団がいるわけがない。子どもが大量にさらわれたという話もない。……であれば、あの影は。
結論にたどり着くが早いか、彼は左手を掲げ、叫んだ。
『コード・レッド!!』
――赤色に輝く光が、空中で弾けた。
「冒険者ギルド」では、冒険者になるための必須技能というものを幾つか設定しており、対象の技能を習得しなければ、正式な冒険者として認可しないようになっている。
そのうちの一つが、今放たれた光である。この光は魔術によって作られたものであり、強い光と大きな音を発する性質を持つ。魔術の詠唱は『コード・○○』で統一されており、「○○」の部分には色が入る。用途は主に緊急時の広域連絡で、放った色によって意味が変わる。例えば、今放たれた『コード・レッド』と赤い光の場合は。
――緊急事態の発生を示す。冒険者のみならず、都市の外に出る者にとっては常識であった。
光を確認してからの冒険者の行動は早かった。自らの得物を瞬速で構え、キャラバンの周囲に展開した。一方のキャラバン側も初め驚きこそしたものの、素早く馬車を停めさせた。しかし、中央付近に位置していた馬車が一番初めに停止し、最後の方で先頭の馬車が止まったため、キャラバンが2つの集団に分かれてしまった。
そして、その隙間を見逃すほど、敵もバカでは無かった。
「ゴブリンだ! 数は不明! 取り囲まれるぞ!!」
冒険者が見た小さな人影、それは「ゴブリン」と呼ばれる小型の魔物である。群れで活動するこの魔物は、大陸の至る所に生息し、都市の外を移動する人間にとって最も遭遇しやすい種である。
体の大きさは人間の子どもと同程度、粗末ではあるが武具も使いこなすため、冒険者にとっては魔物討伐の登竜門として認識されていた。
それが今、明確な敵意をもって、キャラバンを牙を向ける。
グレイブ達も森の方向を警戒し、敵襲に備えていた。
「まずいな、後方と分断された。……取り囲まれるか」
グレイブがぼそりと呟く。
「グレイブ、どうする?」
ミラが戦闘態勢のまま、グレイブに尋ねた。
「ここを退けてから援護に向かう。方法はいつもの通りだ。俺が引き付ける。後ろは任せたぞ」
その場にいた全員が頷き合う。生き残るための闘いが、始まろうとしていた。
森からゴブリンが現れた。数はおよそ10体といったところ。
既に後方では戦闘と思しき音が断続的に響いている。急がねばならない。
グレイブはゆらりと、己の得物である長剣を構えた。
次の瞬間、ゴブリンの前にグレイブはいた。
一閃。
首が飛ぶ。
ゴブリンのものだった。
群れが驚きで硬直する。
その隙に。
さらに一閃。
もう一回、首が飛んだ。
敵の視線がグレイブに集中する。
グレイブへ一斉に襲い掛かる。
一体が剣を大上段から振るう。
グレイブはそれをいなした。
ゴブリンが後ろに着地する。
更に一体が棍棒を横薙ぎに振るう。
長剣で受け止める。
鈍い音が響く。
グレイブの動きが止まる。
後ろから剣が迫る。
だが。
『フレイム・ダガー!』
――火の短剣がゴブリンに突き刺さった。
グレイブの口元が歪む。
長剣を押し込む。
棍棒が断たれる。
ゴブリンも断たれた。
長剣の勢いが止まる。
隙を狙い、ゴブリンが左右から迫りくる。
今から剣を抜いても間に合わない。
ヒュッ。
耳元を何かが駆けた。
「グギャ!」
短い悲鳴。
弓矢が刺さっていた。
左右どちらのゴブリンにも。
その間に。
長剣は解放されていた。
次の獲物を求めて。
風を切る。
再び首が宙を舞う。
ふと、横を見ると。
馬車に走り寄るゴブリンが見えた。
それを目で追う。
体は追わない。
なぜなら。
ヒュッ。
『アイス・アロー!』
――木と氷の矢が、哀れな獲物を捉えていたから。
グレイブは結末を確認することなく。
長剣を振る。
右に。
左に。
骸が2つ、追加された。
周りを見る。
生きているゴブリンは、いなかった。
「よし、片付いたか」
戦闘態勢を一旦解いて、グレイブが呟いた。
「後ろの方はどうだ?」
「戦闘の音は少なくなってるけど……、あっ」
ミラが指差した方向に、青い光が上がった。『コード・ブルー』。緊急事態の終息を意味する。
「よし、じゃあ使えそうな物は回収だ。死体は一まとめにしておけ」
グレイブ達は今しがた倒したゴブリンに向かう。ゴブリン達が持っていた武具を回収するためである。
魔物達は、倒しても都合よく勝手には消えてくれない。処理するのが面倒だからと残しておくと、別の魔物を引き寄せる可能性があった。その為、魔物の処理方法は次の二通り、持って帰るか、処分するか、である。
今回のゴブリンの場合は、さして珍しくもなく、希少でもないため、持っていた武具を剥ぎ取られたら、さっさと処分されてしまう。その処分方法はというと。
『フレイム・ランス!』
――大きな火柱が、ゴブリンの死体を焼く。
そう、火葬である。最も手軽で、周囲に迷惑をかけることも無く、後処理も簡単だからだった。今はグレイブ達が倒した分の他、他の冒険者チームが倒した分もまとめて燃やしている。その炎は、何の感慨も抱かせないまま、魔物の体を灰に変えていった。
「それでね、私が放った魔術が3体のゴブリンをまとめて吹き飛ばしたのよ!」
ミラです。いつの間にかやって来ていたクルム君のお友達、シモン君、ライムちゃん、カリンちゃんにも、その時の戦闘の様子をお話しています。まあ、ちょっと、戦果を盛ったりはしてるけど、別にいいよね? みんな楽しそうだし。
と、そこに。
「ミラ、お前な、ウソ教えたらダメだろ」
空気の読めない男がやってきました。せっかく人が気持ち良く話してたのに!
「ウソってなによ! 失礼ね!」
「お前がゴブリンをまとめて吹き飛ばす規模の魔術を使ったら、こっちにまで被害が及ぶだろが」
「グレイブのおっちゃん、じゃあホントはどんなカンジだったんだよ~」
シモン君がグレイブに問いかけます。これはいけません! グレイブがにやっと笑いました。
「おう、聞きたいか? いや~、気持ちよかったぞ。大量のゴブリン共をバッタバッタと薙ぎ払って……」
「あの時そんなに数いなかったじゃないのよ!」
「うっさいわ!」
「ミラおねえちゃん、かえりもおそわれたの?」
「え、あ、うん、そうなのよクルム君。そっちも大変だったんだから。なんせグレイブが……」
「コラ待て!あれはお前らが……」
ライムちゃんもカリンちゃんもクスクス笑っているのが視界の端に移りました。全く、恥ずかしい……。
戦闘シーンの描写ってきついですね。動きも見せ場も臨場感も熱さも足りん! って感じです。日々是修行の精神で頑張ります。
次回以降も、よろしければご覧になってくださいませ。




