不思議なチカラ ③
はい、第1章、4パート目です。文字数的には一番長くなりました。
時間は数十分前にさかのぼる。
クルムたちを見送ったアルスの元に、ギルドの職員がやって来た。
「アルスさん、ちょっとよろしいですか?」
「おう、どうした?」
「今サーカス団から連絡が来まして、砂象が慣れない環境のせいか気が立ってるらしく、おとなしくさせるのを手伝ってほしいと」
「何だそりゃ?俺らは動物の扱いには慣れてない、……てか、部外者が混ざったら余計に暴れるんじゃないか?」
「いえ、おとなしくさせるのはサーカス団のほうでやるので、もし失敗して暴れた時に対処してほしいそうです」
「何でそんなことになるかねぇ……。とにかく分かった。今中にいる客はどうする?」
「無用な混乱を避けるため、公開時間が終わったことにして、出口に近い方から順に誘導すると」
「そうか、分かった。とりあえず案内してくれ」
「はい、こちらです」
というやり取りがあり、クルム達がショーを楽しんでいる裏で、アルスらギルド職員は事態鎮圧のために走り回ることになってしまった。
このとき、クルム達は広場の奥まったところにいたため、避難の順番としては最後になった。アルスはまだ、そのことに気付いていなかった。
非常時の要因として、砂象の檻近くまで案内されたアルスは、その様子を見て、
(これは……、まずいかも知れない)
と直感した。
砂象はその名の通り、砂漠地帯のような乾燥した地域に暮らす象である。過酷な環境に耐えるため、断熱の役割を持つ硬い皮膚と、大量の水分をため込む器官を備えており、地上の動物の中では最大級の大きさを誇る。
それがなぜサーカス団にいるかというと、魔物に襲われ瀕死の状態であった砂象を保護、治療を施したからである。
最近保護されたこともあり、団内でも接し方を色々試している途中で、暴れそうな象をなだめる方法など確立していなかった。
「睡眠薬を矢じりに塗り込んで撃ったらどうだ?」
「あの象は皮膚が硬いんで、その辺の矢じゃ刺さりません。それ以前にあれだけ体が大きいと、生半可な量じゃ効かないんですよ」
アルスたちギルド職員とサーカス団員はあれこれと意見を出すが、有効な手段は思い浮かばない。後ろの檻では複数の団員が懸命になだめているが、おとなしくなる気配はなかった。
「なにが原因か分かるか?」
「慣れない環境にいることが原因じゃないかと……。それに狭い檻の中に長時間閉じ込めてましたら、鬱屈してるのかも知れません。一応、我慢できるようにしつけたんですが……」
そのとき、硬い物同士が勢いよくぶつかったような大きな音が立った。アルスたちが振り返ると、象が檻に体当たりしようとしていた。
「まずい!」
止める間もなく、2度目の体当たりが繰り出された。その一撃で、檻が大きくへこんだ。
そして。
クルムたちの周りにもその爆音が届いた。
「いまの、なに!?」
驚いた声をあげるライム。
「すごいおおきなおとがした!」
辺りを見渡しながらシモンが叫ぶ。
「……」
カリンはライムの服をギュッとつかんでいる。
クルムはというと、足元になにかがいるのを見つけた。
「あれ?どうしたの?」
足元にいたのは、さっきまで触れ合っていたライオンの赤ん坊だった。
ギュ~、とクルムに何かを訴えかけようとしている。
「え? "こわいのがくる" ……?」
クルムが呟いたそのとき。
地面が揺れた。
4人が同じ方を向くと。
そこには、砂象がいた。
「そっちに行ったぞ!」
サーカス団員の努力もむなしく、象は檻を破壊、脱走を開始した。その勢いはすさまじく、魔物と対峙することの多いギルド職員ですらもひるんでしまうほどだった。
そして、象はギルド職員、サーカス団員がひるんでいるスキを突き、包囲網を脱したのである。
「まだ奥のお客様が避難していません!」
「クソッ、追え!」
ギルド職員、サーカス団員は一塊になって象の後を追う。
「アルスさん、あれ! 象の進行方向に子どもがいます!」
「なに……!?」
ギルド職員の叫びを聞いたアルスが、示された方を向くと。
(クルム……!?)
そこには自分の子どもと、その友達がいたのである。
(しまった……! クルムたちは奥の方にいたのか!)
今までその可能性を考えていなかった自分の迂闊さを呪うアルス。
(クソ、どうする!)
必死に考えを巡らせるが、名案は浮かばない。
だが、アルスの思いをよそに、象はクルムたちの前で足を止めたのである。
「そこの子どもた……ムグ!」
チャンスとばかりに大声を上げようとした隣のギルド職員を、近くのサーカス団員が慌てて止めた。
(いきなり大声をあげたら、あの象が驚いて子どもたちを撥ね飛ばすかも知れないんですよ!)
(でも何とかして逃がさないと、あの子どもたちが……!)
(クルム、逃げろ!)
小声で言い争う職員と団員の横で、アルスはクルムに逃げるよう伝えようとしていた。
象が興奮して暴れ出すことを考えると、象に近づくことができなかった。
「なに……、これ……」
ライムが呟く。その巨体に気圧されたか、無意識に尻もちをついていた。シモンもライムも同じように動けなくなっていた。
「……」
クルムはじっと象の眼を見つめている。静寂が辺りを包む中、クルムは象に向かって歩き始めた。
(んなっ、あいつ、何やってんだ!?)
ギリギリ、と歯を噛み締め体を震わせるアルス。顔を真っ赤にしてこらえているその様子に、隣のギルド職員はギョッとした。
不思議なことに、あれだけ暴れていた象は、クルムが目の前まで来ても動くことは無かった。
「”あし” ……?」
クルムが呟き、左側の前脚を見る。象はゆっくりと、左前脚を持ち上げた。
そこには、何かの欠片のようなものが刺さっていた。
「これが、いたいの……?」
またクルムが呟く。それに応じるように、そっと長い鼻が動いた。クルムは左前脚に両手をかざした。
『なおって』
――クルムの手から溢れた光が、象の脚を包み込んだ。
「な、魔術……!?」
ギルド職員が驚いた声を上げる。誰もがその光景を前にして、身じろぎ一つできなかった。
光が収まると、カラン、という軽い音がした。音がしたほうを見ると、象の脚に刺さっていた欠片が抜けていた。そして、そこにあるはずの傷も無くなっていた。
象の鼻が、クルムに寄せられる。鼻の側面で、クルムの頬をなでた。その後、くるりと振り返り、元来た方へ戻っていった。サーカス団員が象の元に集まり、象を檻へと誘導していった。
Q:他の客は何してたの?
A:クルムたちと同じく逃げ遅れた人たちは、これまたクルムたちと同じく身動きできなくなっていました。描写するの忘れ……、じゃなくって、クルムたちの様子を目立たせるために、あえて描写しませんでした。ホントダヨー。




