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フラグ管理は各自でお願いします  作者: real
2章 運命《フラグ》が存在するのなら
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第27話  王都の夜は静かに……静かに?



 夜。宿での食事を終えたあと。他の人たちに気付かれないよう、そっと宿の外に出ました。

 サニアのことは、一旦保留となりました。トマスさんが道中危険だと何度も説得していたそうですが、それでもサニアは頑なに、それこそひとりででも洞窟に行くのだと言って聞きませんでした。

 そもそもサニアが商人さんたちに遭遇してしまったのも、あの洞窟が原因なのだそうです。

 他の街に住む叔父さんを訪ねた帰りに彼らに遭遇したというのは数日前にも聞いていました。けれど帰る途中で何故か洞窟が気にかかり、ついいつもの道からはずれ、その近くまで行ったのだとか。そして魔物におそわれている馬車を見かけて……いえ、今はすでに起きてしまったことについて考えるべきではありませんね。

 サニアは「誰かが呼んでいる」と言っていました。まるでそこへ行くことが当たり前であるかのように、宿の中にいながらも洞窟の方角を眺めていました。

 最初は当然反対していたメサイアも、何か異常性を感じ取れたのでしょう。今はそういった議論は止めて、普通の会話につとめていました。きっと今頃は普段のサニアがそんなわがままを言うような子ではないと理解している頃でしょう。

 そして私は……お風呂上がりで暑いからと言い訳して、そのままこっそり外へと出てきました。外へ出た用事は……あるにはありますけど、どちらかと言うとひとりで考え事をしたかったんです。

 ため息をつきそうになって……直前で止めました。何となく、考えが悪い方向へと進みそうな気がしたから。



 今度は話にも出ている洞窟について考えてみました。

 私がかつて旅をした時にはあっただろうか、と。考えて考えて、私の知る限りではなかったはず、という答えにたどり着きました。まあカインさんも最近発見されたと言っていましたし、出来たのはそう古い頃ではなさそうです。

 ただ場所を大まかに聞いたんですが……私にとっては王都の近くと言うより、別の場所が思い浮かぶ地域でした。

 王都から少し北のほうへと進むと大きな山があるんです。その山のふもとでは仲間のひとりである狩人のニルスが。さらに山の頂上には竜のヴァンが住んでいました。

 同じ山に住んでいた彼らですが、元々知り合いだったわけではありませんでした。私たちが山を訪れた際にニルスがとある望みを持って山の頂上にいるとされる竜を目指す時に出会ったんです。

 あれ、そういえば……サニアの家も王都の北と言っていませんでしたっけ。

 もしかして、その近くだったりして? ……なんて、さすがにそんなことはないでしょうけど。でもどうせならサニアを送るのに私もついていって、ついでに山も見ることができたなら、とか考えてしまいますね。


「……おっと」


 ちょっと考え事に集中しすぎてしまいましたかね。気付けば誰かにつけられているような気配がします。ともすれば気のせいだと言えるくらいの微々たるものですが、以前……というより前世かつて、ですね。似た経験があるんです。

 つい気付いた瞬間に足を止めてしまったので、相手にも私が気付いたことを悟らせてしまいました。

 知り合い……だったら、とっくの昔に声をかけてきているはず。そもそも私の知り合いなんて村の人たちやメサイアたちくらいしかいないんですけど。


「誰?」


 返事は……ありません。それどころか気配もさらに薄くなったような。

 けれどひとり……思い浮かんだ人がいたので、その名前を呼んでみます。


「ゼロさん、ですよね」


 名前を呼ぶと後ずさるような足音がわずかに聞こえて、それが確信へと変わります。気配もしっかりするようになりました。数秒もすると、物陰からするりとゼロさんが姿を見せました。


「………」

「やっぱり。もう、何であとなんてつけてくるんですか。普通に声をかけてください」


 私だったから良かったものの、これ普通の人がされたら恐怖案件ですよ。

 確かに、声をかけられるような間柄かと問われると難しいところですけど、それでも無言でついてこられるよりはずっといいと思います。

ともかく。


「まさかこんなに早く再会するとは思ってもみませんでした」


 あの時、罪をつぐなうと約束してくれた商人さん。ゼロさんはそれについていくと言っていましたが……最寄りの街に行こうとするなら王都になりますよね。全然考えもしませんでした。王都に到着してすぐによく似た人を見かけたのでもしやと思っていましたが、やはりあれはゼロさんだったんですね。


「ひとりですか? あの、商人さんは……」


 私の問いかけにゼロさんは視線を後方へと移しました。真後ろを見たというより、ずいぶん後方に視線がありますね。あれは……騎士団の詰め所、って言うんですかね。そちらにいるということなんでしょう。自分の罪を騎士の人たちに話しているところでしょうか。


「そうですか。じゃあゼロさんは待っているんですね」


 私の言葉に、ゼロさんは少し視線をさまよわせたものの頷きました。私の問いかけに困惑しているのか、それとも他にも何か理由があるのか。私にはわかりませんでした。


「……お前は」


 これまで一言も発していなかったゼロさんが口を開きました。何を言われるのだろう、と首を傾げました。


「誰、なんだ……」

「え?」


 まさか私、覚えられていない……!? って、それじゃさすがにおかしいですよね。なんというか、そういう問いではなさそうな……。


「何故、気付く。何故、立ちふさがる。何故――重なる」


 それにゼロさんの声、どこか混乱している様子というか……よくわからなくなって、思ってることを全部口にしてしまっているようにも感じられるんですよね。

 どこか、誰かを思い浮かべて話しているような。


「名前……」


 名前って、私の名前でしょうか?

 そういえば、私、ゼロさんに名前を呼ばれたことがないような気がします。

 もともと口数の少ない人だからというのもあるんでしょうけど。

 でも、だからって私の名前なんて――


「リム……?」

「―――」


 問いかけた彼と、言葉を失った私。

 私たちふたりの間を、冷たい風だけが通り抜けていきました。






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