第26話 久しぶりの王都です
あの夜の勇者さんとの会話から、空けて二日。要するに一日だけ準備に時間を要してその翌日。私たちは村を出発しました。
本当ならすぐにでも出発したいと言うカインさんを止めたのはメサイアでした。いわく、全員の復調が優先とのこと。
そういえば洞窟調査のことにばかり気が向いてましたけど、魔物との戦闘もありましたからね……私は自分でも知らない間にしっかりと眠ったようですが、勇者さんたちはあまり休めていないそうです。
この後も魔物との戦いが控えているわけですから、体調は万全にしておく必要がありますね。
そうしてようやく村を出たのですが……とはいえ、すぐに洞窟に向かうのではなく王都で一泊してから向かう予定だそうです。ここでも慎重ですね。
それにしても、王都ですか……うーん、実を言うと、すごく苦手な場所……なんですよね。
私が死んでしまった場所だから……というのもなくはないですけど、実はそれ以前から苦手でして。
なんというか……王都にいる間は、どことなく体調悪いんですよね……。
当時、最期の時も、本当は王様への謁見があったのですが、私は体調がすぐれなかったので宿で休んでいました。本来は全員で謁見に向かう予定でしたが、私を気遣って何人も残ってくれたので申し訳なかったですね……。レグナムは私の体調を気にしつつ、それでも勇者本人が行かないわけにもいかず、しぶしぶ行ったんです。
その代わりと言ってはなんですが、王都の入り口に近い宿にいた私たちは魔物の襲撃にいち早く対処出来ました。
その場にいなかったレグナムは、相当気にしただろうなと思いますが……やめやめ、暗くなるのでこの話は置いておきます。
とにかく、当時の王都ではどういうわけか体調が悪くなっていたんです。
当時だけのことかなと楽観的に考えていたのですが。
「うーん……やっぱり……」
辿り着いた王都の街並みは、ずいぶん薄らいだ記憶の中ではありますが、どことなくかつての面影を残していました。
そしてやっぱりどことなくしんどい状態なのも同じでした。
「リィム? どうした」
「あ、いえ。やっぱり、とても大きいなと」
とはいえ、活動出来ないほどではないので咄嗟に誤魔化しました。実際、王都はとても大きな建物ばかりです。普段あの小さな村で生活している身ではため息しか出ませんね。
「そっか、あんたってあの村から出たことないんだったわね。じゃあ王都も初めてか」
メサイアのその言葉で勇者さんたちも納得してくれました。まあ、今の時代の王都を見るのは初めてなので嘘ではないですよね……。
「まだ夕方だけど、今日はもう休む?」
「ああ、お前らはそのまま宿で休んでくれ。俺の名前出しておけばツケもきく」
カインさんは私とメサイアに対して言っているようですね。
ではカインさんと勇者さんは何か用事があるのでしょうか?
「俺とレグザートは城のほうに顔を出す。どうせそのまま城で休むことになるだろうから、こっちのことは気にすんな」
「え? いや、俺もリィムと一緒に……」
「馬鹿か、お前が来なくてどうすんだよ。んじゃあな、明日には宿に顔を出す」
そう言うと、カインさんは勇者さんを引きずってお城のほうへと歩いて行きました。
いや勇者さん、そんな悲しそうな顔で私を見ても助けようがないんですが……。
「ま、勇者サマと騎士サマはお忙しいようだし? あたしたちはゆっくり休みましょ」
「そうですね……、……?」
不意に、何か引っかかるものを覚えました。夕暮れ時、足早にそれぞれ目的の場所へと向かう人の群れ。その中に、どこか覚えのある人を見たような気がして。
「気のせい……?」
「リィムどうしたのよ……って、あれ?」
メサイアが何かに気付いたような声をあげました。まさか、私が見た人を見つけたのでしょうか?
「おや? メサイアに……リィムかい?」
「リィムおねえさん?」
「え?」
そこにいたのは、数日前に別れたばかりのトマスさんとサニアでした。あれ、サニアを家に送り届ける途中、ですよね? 何故王都にいるのでしょう?
「家に帰ったはずじゃ……」
「その途中なんだけど、まあ、色々あってね」
サニアの家は……確か、王都の北だと言っていましたね。確かに進路上いてもおかしくはないですけど、トマスさんの足ならもうすでに着いていそうなものですよね。魔法なしでも強化魔法使った人と並走出来るくらいっていう……あ、これ意味わからなさすぎたんで放置してたんでした、本当に何でそんなこと出来るんでしょう。考えると頭痛くなるので置いておきます。
「詳しい話は、宿でしようか。ふたりはこれから向かうところかい?」
「ええ、ちょうど今から行くところだったんですよ。ね、メサイア……メサイア?」
隣にいるメサイアに声をかけましたが、返事がありません。それどころか身じろぎもせずにいて……え、一体どうしたって言うんですか?
「か……」
「か?」
「隠し子……?」
「は!?」
*
「ごめんほんとどうかしてたわ……」
場所を宿に移した後、メサイアにはサニアのことをきちんと説明をしました。
確かにふたりは初対面ですけど、だからって今まで一緒に行動していた仲間に隠し子がいるとかそんな発想が出ますか?
「いやだって、トマスって子ども連れてるの似合うのよ……」
「………まあ、確かに」
言われてふたりのほうを見ると、確かに休日でも笑顔で遊びに連れていってくれそうな優しいお父さんとその子どもって感じで……その、トマスさん落ち着いてますもんね……。
「うーん、やっぱり老けて見えるのかな」
トマスさんに苦笑されてしまいました。慌ててメサイアとふたり、いえサニアも含めて三人で否定したんですけど、トマスさん自身、以前からそういった自覚はあったそうです。
「まあ実際、子どもと接するのは好きだよ。こちらが元気をもらえるだろう?」
サニアの頭を優しく撫でるトマスさん。その手つきはとても慣れたものでした。
聞けばトマスさんがかつて軽業師になったのは、子どもたちを笑顔にしたいという想いからだったそうです。子どもの笑顔のために自分に出来るのは何かと考えた時、軽業師の仕事が唯一自分にも出来そうなことだったから……と述べていましたけど。トマスさん、器用そうな印象なんですよね。なのでもっと他にもいろいろ出来そうな気がしますけど。
ともあれ、この話は一旦ここで置いといて。
ふたりが何故ここにいるのかという話ですよ。
「洞窟のことはもう知っているようだね。実は俺たちがここにいるのは、それに関係しているんだ」
「え?」
「ぼくのせいなの。ぼくが……変なおねがいごとをしたから」
サニアの……お願いごと? 一体どういうことなんでしょうか。
サニアはその小さな手を胸元で握りしめて、一度目を閉じました。
その様子は、まるで祈るようでもあり、けれど開いた瞳は強い決意の眼差しで。
「ぼくは……いかなくちゃ。あの場所へ。あそこでだれかがぼくを呼んでいるから……」
その決意が、感情が、あふれ出てしまわないようにしているようにも見えました。




