28話 防衛団長、イライザ
――私は、空を飛んでいた。
周りには雲が浮かび、下には青い海が広がっている。
遠くには、陸地が確認できる。
あぁ、コレはいつもの夢……でも、とても明るく綺麗な夢だ。
今の私は、どこに向かって飛んでいるのかは分からない。
なぜ、飛べているのか分からないが、夢だからで説明は作る。
今、私はどこを目指しているのか分からないが、このまま飛び続ける。
夢の私は、ふいに視線を横に向ける。
「……!?」
視線の先には、怪物が飛んでいた。
だが、以前の海に立つ夢で見た怪物とは姿が違う。
「……」
怪物は、禍々しい見た目に反し私は恐怖を感じない。
逆に、近づきたいとさえ思ってしまう。
そんな事を考えていると、夢の私は怪物の方に方向を変えて進む。
そして、黒に赤みのかかった外殻以外の場所が鮮明に見えてくる。
怪物の、縦長の瞳は赤く白目部分は黒い。
「……」
怪物を見ていると、向こうも私を見てくる。
見た目は禍々しいが、私を見る竜の眼は理由は分からないがどこか優しさを感じ取る。
竜が、口を開いた瞬間に世界は暗転する。
♢
私はゆっくりと目を覚ます。
目に入って来たのは、天井だ。 だけど、宿屋とは違う天井。
「ここは?」
私は、窓の外を見る。
窓から覗いた青空が目に入る。
「やっと、起きたか。 寝坊助め」
「!?」
声のした方を見ると、クラリーチェが椅子に座っていた。
酷かった顔の火傷は、綺麗になっていた。
「クラリーチェ。 火傷は、治ったみたいね」
「そうだな。 まぉ、治るまで痛みで辛かったけどな」
彼女は、顔を摩る。
私は、彼女を見ながらベッドから降りる。
「……そういえば、この部屋って」
兵士に、案内された事を思い出す。
――ロスリン防衛団施設――
王都アクセラに本部を置き、治安と民の暮らしを守っている。 防衛団は、王都以外にも国の各拠点に支部が存在する。
普段は、王国の為に訓練に明け暮れている。
そんな場所の一室に、私達はいる。
「……」
私は、夜の戦いを思い出す。
力が強く、素早く動く幽鬼族は、正に戦闘種族と言っても良いだろう。
あの強さなら、魔物どころか魔獣とも渡り合う事も出来るだろう。
「幽鬼族……か」
あのグールを倒した力である漆黒。
私は、空に手をかざす。
あの感覚は覚えており、漆黒の暴走もしないと何故か確信があった。
「……」
魔法とは、明らかに違う力。
そして、もう1人の私が言った言葉。
『貴女が、怪物と呼ぶ奴の事が知りたいなら、今以上に漆黒を扱えば良いわ』
アレは、どういう意味だろう?
ただ、無作為にこの力を使えば何かがわかるのだろうか?
私が、考えていると部屋のドアが叩かれる。
そして、1人の兵士が入室してくる。
「起きてる様だな。 2人とも、体調に変わりはないか?」
「ええ。 大丈夫よ」
「そうだな、問題はない」
私達の言葉を聞いて、兵士は頷く。
「それは良かった。 それじゃあ、早速で悪いが着てきてくれ。 団長が、お待ちだ」
兵士に呼ばれ、私は後に着いていく。
♢
建物を移動中、防衛団と言うだけあり多くの兵士とすれ違う。
兵士も、珍しい物を見るように私達を見ている者もいた。
「この、部屋だ」
ドアの横に旗も掲げられている。
兵士は、ドアをノックする。
「はい。 どうぞ」
部屋から、女性の声が聞こえてくる。
兵士は、ドアをゆっくりと開けて中に入る。
「団長。 彼女達を、お連れしました」
「ああ、ありがとう。 後は、私が対応する」
彼女の言葉を聞いた兵士は、その場を後にする。
「そこに居ないで、ここの椅子に座ってくれ」
団長に言われ、私とクラリーチェの横に座る。 私達が座るのを確認し、団長も四角いテーブルを挟んで対になるように座る。
「初めまして。 私は、防衛団の団長を務めているイライザ・ウォーカーだ」
「私は、アリス・ユニヴェールよ」
「クラリーチェ・バルトロマージだ」
お互いに挨拶を交わす。
イライザは、交互に私達を見る。
「アリスとイヴね。 改めて、ようこそロスリン防衛団施設へ」
イライザは、そう言いながら、続けて言葉を発する。
「それで早速だが、2人に聞きたい事がある」
彼女は、私達を見る。
「目撃証言も聞いているが、当事者に聞くのが1番良いからな。 あの夜、何があったんだ?」
イライザは、真剣は表情をする。
私は、小さく息を吸い込む。
「そうね。 あの、夜の事だけど――――」
私は、何があったか彼女に説明する。
「まさか、アンデッド族が」
説明を聞き終えたイライザは呟く。
「人間の姿に化けていたけど、あの種族は変身できるのか?」
クラリーチェは、イライザに質問する。
イライザは、小さく頷く。
「そうだな。 全てのアンデッドが変身能力を持っているわけではないがな。 変身できるアンデッドは、我々が知っているの限りでは、グールと吸血鬼だ」
「グールと……吸血鬼」
私の言葉に、イライザは頷く。
「ああ。 君達が戦ったグールも脅威だが、吸血鬼と比べたら可愛い者だ」
「可愛いって……そんなに、強いのか?」
クラリーチェは、質問する。
イライザは、頷く。
「ああ。 吸血鬼達は最上位のアンデッドだ。 その中でも、始祖はアンデッドの王と呼ばれたりもしている」
「……王」
私は、小さく呟く。
戦ったグールは、決して弱くなかった。
そんな、グールを可愛いと言わしめる吸血鬼はどれ程なのか、想像が出来ない。
「まぁ、吸血鬼は火山群のある深い場所にいるから滅多に会う事は無いがな。 それよりも――――」
イライザは、顎に指を当てて眼を瞑る。
「グールなんだが……少し気になる事がある」
「気になる事?」
私の言葉に、イライザは小さく呟く。
「ああ。 アンデッドが人間の領域に入ってくるとは思いなかった。 最初、グールと聞いた時は本当に驚いたよ」
「そんなに、珍しいの?」
私は、イライザを見る。
イライザは、目を開ける。
「そうだな。 今まで、アンデッド族が我々人間族の生活圏に入る事はなかった。 逆も然りだ。 稀に、人間側が彼らの縄張りに踏み入り、被害が出る事故はあったが、注意すれば避けれた内容だ」
「……」
私達は、黙って話を聞いている。
「建国以来……否、他国でもその様な話は聞かなかった。 それくらいに、お互いに干渉はしなかった。 だが、今回グールが生活圏に入り猛威を振るった。 考えられないな」
「……もしかしたら、件のグールが特殊だったとか? 捕食衝動の強い異常個体だったのかもしれないわね」
私の言葉を聞いたイライザは、再び眼を瞑る。
「異常個体……か」
イライザは、一口水を飲む。
「確かに、グールによる行方不明者は全て聖職者だ。 明らかに、教会関係者を狙っている。 捕食衝動か知らないが、明らかに異常な行動だ」
確か、酒場でそんな話を聞いた事を思い出す。
「それは、獲物として狙いやすいからじゃないのか? 兵士を相手にしたくなかったとか」
クラリーチェが答える。
だが、イライザは考える。
「その線も、考えられるが……もしそうなら、1番狙いやすい子供や老人では無く、神父やシスターだ。 それに、夜出歩いている者も居たが、一般市民で狙われた報告は無い。 これは、聖職者だけを狙ったのは明白だろう」
「そういえば、目撃者が居たけど無事だったわね」
酔った目撃者は、襲われていない。
理由は、教会とは無関係だったからだろう。
イライザは、腕を組む。
「……そうなると、ヤツはなぜ教会の者達だけを?」
私達は、静かになる。
グールが、教会関係者だけ襲っていた理由が分からない。
本人は消滅した以上、話を聞くこともできない。
「……まぁ、理由は分からないが、王都から脅威が消えたんならそれで良いんじゃないか? 理由は、今後分かるかもしれないしな」
クラリーチェが、椅子に深く座り呟く。
「そうだな。 解決したんだ。 後の事は、こちらで究明しよう。 それより、君達に伝えたい事がある」
イライザは、立ち上がり私達を見る。
私達の目を見てくる。
「王都をアンデッドの脅威から守ってくれた。 本当に、ありがとう。 ロスリン団長として……否……1人の王都民として心から感謝を述べたい。 そして、最初にお礼の言葉が無かった事を謝罪させてほしい」
イライザは、私達を見てくる。
「さっきまで普通に話していたのに、急にこんな事を言われると反応に困るわね」
「私も、同意見だ」
狼狽える私達の姿を見たイライザは、微笑む。
「たしかに、急に真面目になったら驚いてしまうな。 だが、今は感謝の言葉を受け取って欲しい」
「……分かったわ。 素直に、受け取るわ」
「私も、受け取っておくよ」
イライザは、小さく頷く。
その後は、軽い雑談をして終わる。
私達は、部屋を後にする。
「それでは、お2人の旅が良いものになる事を祈る。 もし、王都に寄る事があったら顔を出してくれ」
「ありがとうございます」
♢
その後、私達は兵士つれられ外まで送ってもらう。
外に出ると、クラリーチェが私の前に来る。
「私達が……王都の脅威から守ったか。 実感が湧かないな」
「まぁ、貴女は地面に寝ていたしね」
「お? 何だって?」
クラリーチェの手に、風が集まる。
「なんでもないわ。 だから、ここで魔法はやめて」
私は、クラリーチェから離れる。
彼女なら、本当に放つんじゃ無いかと考えてしまう。
「――――珍しいお客さんが来てるって聞いたけど、やっぱり貴女達か」
「!?」
後ろから声をかけられ振り返ると、クレアが立っていた。




