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隣の席の雪河さんと関口くん、早く付き合ってもらっていい?  作者: Mini


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1話 隣の席の雪河さんと関口くん

「それじゃあこの問題……解ける人」


 先生が板書を書き終え、座っている生徒たちの方に振り向きながらそう質問をする。当然……かは分からないが、生徒30名は誰も手をあげず、シーンとした静かな空気が教室全体を包んだ。


「はぁ……あのなぁ」


 先生は溜息を吐きながら説教を垂れようとして諦める。

 きっとこの中には知っている生徒はいるのだろう。でも、恥ずかしい、めんどくさい、単純に嫌だ。そう言う思いが生徒の中にはあり、手をあげない。

 もちろん、俺もそのうちの一人だ。

 となれば……先生は次に知っている可能性が高い生徒、いわゆる成績がいい生徒にランダムで聞こうとする。

 俺は視線を逸らしながら机の上で頬杖を突き、窓の外を眺める。


(お、すっげ……よく飛ぶなぁ)


 外では一つ上の学年……高校二年生の生徒が体育で走高跳をしている。

 今飛んだのは女性の方で、背面飛びをしていた。手慣れた飛び方、そして助走も完璧で綺麗なフォーム。おそらくは陸上部の方だろうか。

 初心者の俺でもわかる程すごいものだった。

 授業中だというのに真剣に見てしまった。気が付けば横腹をちょんちょんとされている感触がした。


「……?」


 首を傾げながら横腹にちょっかいをかけた人物に視線を向ける。

 こちらも女の子。綺麗な紫色の髪に白い肌、そして真ん丸な青い瞳がこちらを見つめていた。


「(先生にあてられてるよ?)」

「(……まじ?)」


 小声で言葉を交わし、先生の方へとゆっくりと向く。


「おい関口、お前雪河に答え聞こうとすんな~、早く答えろお前ならわかるだろ」

(答えなんて聞いてないよ!)


 席を立ち、指をさされている問題を見る。


「答えは一番です」

「……正解だ。ったく、答えをわかっていても上級生の体育を覗き込むのはやめろ」

「……ッ!?」


 先生の言葉に教室全員が声を上げながら笑う。

 クスクスという音も聞こえ、それは隣の席の雪河さんという方だった。

 ジト目を向けながら座り、小声で話す関口。


「(俺そんなじっくり見てるように見えた?)」

「(うん……先生も三回ぐらい名前呼んでたよ?)」

(まじかよ……全然気づかなかった)


 軽く溜息を吐きながら視線を落とす。

 別に、特段可愛い子がいたわけじゃないし、気になる子がいたわけでもない。

 シャーペンを持ち、ノートを書こうとしたタイミングで……


「(もしかして、好きな人とかいた?)」

「(……ッ、違うよ。ただ単純にすごい人がいてそれを見てただけで……)」

「(見惚れてたってこと?)」

「(……)」

「(ふふっ、冗談だよ)」

「こら!後ろの席二人!こそこそ話さない!」


 注意をされサッと互いは目を逸らし、ノートを書く。

 なんか掌で転がされている感じがするのは気のせいだろうか。

 特段嫌だとかそういうわけではないのでいいのだが、なんかこう……俺をからかって楽しんでいるようにも見える。

 先生に注意され五分が経過したところでふと、隣の雪河さんの方を見てみた。


「……ッ」


 雪河さんは頬杖を突きながらこちらを見ていたのだ。

 恋愛経験のない関口は慌てて視線を逸らそうとするが……雪河さんは小さな紙をそっと渡してきた。


「(開けてみて)」


 小声でそう告げられ渡された紙を開ける。

 そこに書かれていたのは、この後の昼休憩の誘いだった。

 少しだけ頬を赤らめながらも関口は親指と人差し指で丸をつくり返事をした。


「(やった!それじゃこの後楽しみにしてるね!)」


 机の上で小さな拳を掲げ、喜んでいる様子を見て関口は何とも言えない気持ちでいた。いや……これを言語化するのはとても恥ずかしかった。

 だって、その姿がものすごく可愛かったから。



 授業が終わり、昼休みの時間。


「おーい、祐介一緒に飯食おうぜ!」

「わり、俺今日先約があるんだ!」


 関口はそう言いながら雪河さんとの約束の場所へと向かっていた。

 一緒にお昼ご飯を食べるのは初めてなのか、女子とご飯を食べること自体が初めてのはずなのに……楽しみにしている自分がいた。


「おー関口、バスケ部に入ることは検討————」

「すみません!今急いでいるので!」

「関口、生徒会に————」

「すみません興味ないです!」


 先輩や色々な人達からの絡みを押しのけ、その目的地へとつく。

 その場所というのは旧校舎の屋上……旧校舎は人が少なく意外と穴場だ。少し行くのがめんどくさいと思うだけで全然苦じゃない。

 購買で買ったパンを片手に、屋上の扉を開ける。


「あ、やっと来た!」

「ごめん……少しだけ遅れちゃった」

「全然いいよ!関口くんの事だし、色々な人に呼び止められたりとかしたんでしょ?意外と人気だもんね」

「……別に人気ってわけじゃ……」


 肩を竦めながら言う関口。その様子を見ながらお弁当を開け、卵焼きを頬張る雪河。


「ん~!おいし!あ、そのパン!新作でしょ?」

「うん、うまっ」


 口の中で広がる甘い味とふわふわの触感……買って正解だったな。


「……ふふっ」

「何で笑ったの?もしかしてバカにしてる?」


 ジト目を向けながら言う関口に対して口元を手で隠しながら否定する。


「違うよ、幸せそうに食べるなって思って」

「?」

「知ってる?関口くんってご飯食べて美味しかった時目を瞑るんだよ」

「……何それ、超恥ずかしいんだけど」


 自分でも知らなかったことを言われ、頬を少し赤面させながら誤魔化すようにパンを頬張る。

 咀嚼をしながらも冷静になり、空に視線を向けながら一つの疑問にたどり着く。


(ん?ご飯食べて美味しかった時……今日初めてご飯を食べたよな?)


 そう。今日初めてご飯を食べた。それなのに知っているのはおかしな話ではないか?

 関口は雪河の方を向き、聞いた。


「何で知ってるの?」

「……!」


 関口が聞くと、雪河はもじもじとさせ頬を赤らめる。

 懐疑的な表情をしじーっと見つめる関口。その視線が痛くなり、肩を竦めながらも誤魔化すように雪河は話す。


「席隣じゃん?だから、視界に入るっていうか……あっ、その、もちろん毎回見てるわけじゃないしずっと見てるわけじゃないよ?」

「確かに、それもそうか」


 すんなりと納得する関口を見て雪河はホッとしたように軽く溜息を吐く。

 そこで間髪入れずに関口が再度質問を投げかけた。


「じゃあさ、何で急に俺とご飯を食べようって提案したの?雪河さんこそ友達とかいっぱいいるし俺と食べる必要なんてなくないか?」

「そ、それは~……」


 視線をあちこちに飛ばしながら次はどう誤魔化そうかと探る雪河。

 雪河 朱音(ゆきがわ あかね)は成績優秀で友達もたくさんいる。いわゆる人気者ってやつだ。それは学年だけでなく学校全体でも言えることだ。

 対して関口 祐介(せきぐち ゆうすけ)は全部平均かちょい上か……雪河と比べるに足らない人間だ。

 そんな人間とご飯を二人きりで食べる。そんなことがばれてしまえばこの完璧なステータスに傷がついてしまう。そんなリスクを背負いながら一緒にご飯を食べる理由が関口にはわからなかった。


「俺なんかと一緒にいる所がばれたら、雪河さんが嫌な思いをするだけだと思うけど————」

「それは違うよ!」


 今日一番の声で言われ、関口は少しビクッとさせてしまう。

 雪河さんの顔を見ると、とても真剣で……少し怒っているようにも見えた。


「私は一緒にご飯を食べたいって思ったから誘ったの。そこにメリットもデメリットもない。友達とご飯を食べるのに他に理由がいるの?」

「……まぁ、そう言われると……そうだけどさ」


 そうだけど、そうじゃなくない?


「でも、君は人気者で……俺は普通の人間だ」

「そう思ってるのは君だけだと思うけど」

「え?」

「言ったでしょ?君って意外と人気者だしねって」

「……」

「君がいう人気者の私だからこそわかる。君も人気者だよ」


 何も言い返せなかった。納得してしまったからだ。

 自分が人気者だという点においてではない。彼女の説明がうまかっただけだ。


「もし、私と関口くんが一緒にご飯食べてるところを他の人に見られたら、いやだ?」

「いやじゃないよ」

「私も」

「……さいですか」


 これ以上話すとペースを完全に持ってかれると思い、遮るようにパンのごみを片付ける。


「そういえば関口くん。担任の先生がご飯食べたら職員室来いって言ってたよ」

「そっか。それじゃあ行ってくる。ありがとう」


 関口はそういうと旧校舎の屋上を離れていった。

 バタンと扉が閉まり、お弁当を片付けた雪河はそれを胸にぎゅっとしながら独り言つ。


「き……緊張した~……やっぱり関口くん————」



 旧校舎の屋上を飛び出し、職員室へと駆け足で向かう関口。


「うまかったな。」


 まさか一緒にご飯を食べれるとは思わなかったので余韻に浸ってしまう。

 

「やっぱり……雪河さん————」


「「ちょ~可愛かったなぁ」」


 奇しくも二人の発言は重なり、二人の頬は少し……赤くなっていた。

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