表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/66

第三章(1):旅立ちの衣装合わせ


「じゃあ、これから必要なものをみんなでピックアップしていこうか!」



私の言葉に、ローゼリアちゃんが「楽しみ!」と両手を合わせ、まるで花が綻ぶように顔を輝かせた。アルドロンさんは柔らかな笑みを浮かべて静かに頷き、カスパール君も普段のぶっきらぼうな表情の奥に、どこか好奇心めいた光を宿らせていた。ルシアン様は、相変わらず静かに私の隣に座り、優しい微笑みを浮かべている。


このメンバーと異世界旅行なんて、ちょっと想像しただけでワクワクが止まらない。



しかし、ふと皆の服装に目をやった瞬間、私は思わず頭を抱えた。


アルドロンさんは悠然と賢者らしい威厳あるローブを纏い、ローゼリアちゃんは可憐ながらも、見るからにファンタジーの世界から飛び出してきたような豪華なドレスに身を包んでいる。そして、ルシアン様は、魔王としての圧倒的な威厳を湛えた漆黒のマントスタイルで、その存在感を夜闇のように放っていた。カスパール君もまた、次元の狭間にいた頃に姿を変えてからは、全身を覆うクールな魔導師のマントスタイルを貫いている。


どれもこれも、日本の日常風景どころか、もはや『現実』という概念からかけ離れていた。


(うーん、これはちょっと…目立つどころの話じゃないよな……。)



日本の街中でこの格好では、確実にパニックが起きる。私服への着替えは必須だった。


「えっとね、みんな。まずはお洋服なんだけど……」



私が恐る恐る切り出すと、皆が首を傾げた。その仕草すら絵になるのは、さすが異世界最強の面々だ。


「何か問題でもあるのか、セラフィナ?」


アルドロンさんが、その深い茶色の瞳で私を見つめ、尋ねた。


「うん、日本ではね、普段着っていうのが、みんなが今着てるのとは全然違うんだ。学校にも制服があるって話したでしょ?普段も、もっとこう…なんていうか、周りの人に溶け込むような服を着るの!」


私は、先日カスパール君の髪型を決めるのに使ったファッション雑誌を引っ張り出した。ページをめくると、色とりどりのカジュアルウェアや、シンプルなシャツ、ジーンズなどが目に飛び込んでくる。



「ほら、見て!こんな感じの服が、日本の普通なんだよ!」



皆の目が、雑誌の鮮やかな写真に釘付けになった。その丸くなった瞳は、まるで初めて見た珍しい宝石でも眺めるかのようだ。


「ほう…この簡素な布地で、ここまで多様な形が生まれるとは。興味深いな」


アルドロンさんが賢者らしく、分析するように雑誌を眺める。その真剣な眼差しは、まるで古代の文献を紐解く学者のようだった。



「ローゼリアちゃん、可愛いでしょ?」



私がローゼリアちゃんに問いかけると、彼女は身を乗り出すように雑誌に見入り、瞳をきらめかせた。


「わぁ…これ、すごく可愛い…!このフリルがいっぱい付いたスカートとか、キラキラした飾りが付いたブラウスとか…ねぇ、セラフィナちゃん、私、これ着てみたいわ…!」


ローゼリアちゃんは、雑誌の若いモデルが着ている、ふんわりとしたワンピースのページを指差した。


「よし、じゃあ、これと同じような服を、裁縫部の優秀な職人さんたちにお願いして作ってもらおう!最低限あれば、必要なものは向こう(日本)で買えばいいしね!」


私はそう提案した。幸い、城には優秀な職人たちがいる。彼らは腕は確かだけど、魔法は使えない人がほとんどなんだ。でも、この白亜の城では、ルシアン様が開発した魔法の洋裁道具があるから、その力を使えば、短期間で質の良いものを作ってくれるだろう。



「へえ…この『ジーンズ』ってやつか。悪くねえな。着てみたいもんだ」


カスパール君が、意外にも乗り気な様子で、男性モデルが着ているジーンズのページを指差した。その表情には、新しいものへの純粋な興味が浮かんでいた。



ルシアン様も雑誌を手に取り、静かにページをめくっている。彼の涼やかな瞳が、日本の様々なファッションを興味深げに追っていた。


「ルシアン様も、何か着てみたい服、ありますか?」


私が尋ねると、ルシアン様はふっと口元に笑みをこぼした。



「俺は、お前が選んでくれるなら、どんなものでも構わない」



(きゃーっ!なんてこと言うのルシアン様ー!!)



私の胸は、再びきゅんと高鳴った。推しからの、まさかの逆指名!これは責任重大だ。彼の魅力を最大限に引き出す、最高の服を選ばなければ!


気合いを入れて選んだのは言うまでもない。



日本のファッションの多様性と自由さに、裁縫部の職人たちは目を輝かせ、すぐにその技術を分析し始めた。そして、ルシアン様が自らの魔力で彼らの作業を補助すると、驚くことに数時間後にはもう服が出来上がっていた。さすが、この世界の魔法技術ってすごいよね。あっという間に高品質なものが作れちゃうんだから!





まずはアルドロンさん。


彼が着ていたのは、深い森のような濃いグレーのシンプルなジャケットに、雪のような白のシャツ、そして落ち着いた砂色のチノパンだった。足元は革のスニーカーだ。サラサラの薄茶色の髪と深い茶色の瞳が、現代的な服装と不思議と調和し、どこか知的な雰囲気が増している。


(うわー、若返ってから、また一段とイケメン度が上がったなぁ!以前の白髪の賢者様も威厳があって素敵だったけど、これは…まさに「かわいい系イケメン爆誕」って感じだ!)


「これは…なかなかに動きやすいな。だが、この布地は…魔法の力が込められているのか?」


アルドロンさんが興味深そうに、ジャケットの袖を撫でる。その探求心は、どんな新しい発見にも向けられる。



その時、様子を見に来たリリアさんが、アルドロンさんの姿を見て、思わず胸に手を当てたのが見えた。


「アルドロン…!あなた、その姿…っ!わたくしの夫ながら、なんと麗しい…!」


リリアさんの顔が、熟れた果実のように赤く染まっている。その瞳は、愛情と誇らしさでいっぱいで、まさに妻が夫の新しい魅力に心を奪われた瞬間って感じだ。



わかる!

その気持ち、すごくわかるよリリアさん!

推しが新しい魅力を開花させる瞬間って、本当に尊いよね!


リリアさんのべた褒めに、普段は冷静沈着なアルドロンさんの頬が、わずかに紅潮した。彼は口元に手を当てて、照れくさそうに咳払いをする。


いつもの彼らしからぬ反応に、思わず私は内心で「萌えー!」と叫んだ。



次に、カスパール君。


彼が選んだのは、夜の闇のような黒のダメージジーンズに、ルーズなシルエットの白いTシャツ、そしてその上には軍服を思わせるミリタリー調のカーキ色のシャツジャケットを羽織っている。首元にはローゼリアちゃんからもらったシルバー色のチェーンネックレスが鈍く光り、耳元の宝珠のピアスも彼のワイルドさをさらに引き立てていた。


「へっ、悪くねえじゃねえか。動きやすくて気に入ったぜ」


カスパール君は、満足げに口角を上げた。その自信に満ちた表情は、どんな服も着こなしてしまう彼ならではだ。



ローゼリアちゃんは、雑誌で目を輝かせていたあのワンピースにそっくりな、淡い桜色のような花柄のフレアワンピースに身を包んでいた。胸元には白いレースがあしらわれ、足元は可憐なストラップシューズ。彼女のピンク色の髪には、小さな白いリボンが飾られている。


「わぁ!すごく可愛い!セラフィナちゃん、見て見て!私、これでお外に出るのが楽しみ!」


ローゼリアちゃんはくるりと一回転し、満面の笑みを浮かべる。その姿は、まるで雑誌から飛び出してきたモデルのように、周囲の空気をパッと明るくした。



そして、最後にルシアン様。


私が心を込めて選んだのは、漆黒のスキニーパンツに、深いワインレッドのVネックニット。その上には、流れるようなシルエットのダークグレーのチェスターコートを羽織ってもらった。髪はゆるく一つに結んである。彼の銀白色の髪と涼やかな顔立ちが、洗練された大人の魅力を際立たせている。


まるで、どこかのファッション雑誌の表紙を飾る、孤高のモデルのようだ。



「セラフィナ。どうだろうか」



ルシアン様が、優しい眼差しで私を見つめ、尋ねる。



「っっっっ尊いぃぃぃい!!」



私は再びその場に崩れ落ちそうになった。完璧だ。完璧すぎる。魔王の威厳はそのままに、現代のファッションを見事に着こなしている。



「ルシアン様!すごく、すごくお似合いです!まさか、こんなに…!もう、息が止まりそうなくらい素敵です!」


私の言葉に、ルシアン様は満足げに微笑んだ。その微笑みは、何よりも私への最高の褒美だった。



私も、日本での普段着に着替えた。


選んだのは、シンプルな白いブラウスに、膝丈のネイビーのフレアスカート。足元は歩きやすい白いスニーカーだ。普段の学校の制服姿とは違うけれど、これも私のお気に入りのスタイルの一つ。ただ、鏡に映った自分の姿は、佐倉花だった頃の私と同じ日本の服なのに、紅い髪と緑の瞳のせいか、なんだか不思議なギャップを感じる。異世界から来た私が、この服を着ているのがまだ少しだけ、違和感があった。なんだか、改めて日本に帰るんだなっていう実感が湧いてきて、少しだけ胸が高鳴る。


私が皆の前に戻ると、ルシアン様が静かに、そしてゆっくりと私を見つめた。


彼の涼やかな蒼い瞳が、私の上半身から足元へとゆっくりと動き、そしてもう一度、私の顔へと戻ってくる。その瞳には、深い満足と、確かな愛おしさが宿っていた。



「ああ、セラフィナ…」



彼は、ただそれだけを、吐息のように囁いた。その声には、あらゆる賛辞と愛情が込められているかのようで、私の全身はまたしても甘く蕩けそうになった。



(ルシアン様、ずるい…!)



彼の一言だけで、私の心は満たされる。周りの視線なんて、もうどうでもいい。私たちは、ただ互いの存在を確かめ合うように見つめ合った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ