第二十章(3):繋がる世界、広がる喜び
城に持ち帰った山のような荷物の片付けが一通り終わり、私たちは広間でようやく一息ついていた。
あの大きな騒動の後の静寂は、妙に心地よかった。
温かい陽光が差し込む広間には、日本の品々から微かに漂う、まだ見慣れない、しかしどこか懐かしい香りが満ちていた。
私は、すぐにポケットからあのスマートフォンを取り出した。
手のひらに収まるその小さな機械が、どれほどの奇跡を秘めているのか、まだ信じられない気持ちでいっぱいだった。その冷たい金属の感触が、今はひどく頼もしく感じられた。
「よし、早速試してみよう!」
私の言葉に、みんなの視線が一斉に集まる。
ルシアン様も、カスパール君も、ローゼリアちゃんも、そしてアルドロンさんも、静かに私を見守っていた。
彼らの視線の奥には、期待と、少しの緊張が入り混じっているのが見て取れた。
リリアさんはリルを抱きかかえ、興味津々といった様子で、その濃い茶色の瞳をスマホに釘付けにしている。
私は、母のスマホの番号を画面に打ち込み、通話ボタンを押した。
プルルルル……プルルルル…… 耳元に当てたスマホから、聞き慣れた日本の電話の呼び出し音が聞こえてくる。その電子的な音が、遠く離れた日本との繋がりを感じさせ、私の鼓動は速くなる。まるで心臓が飛び出しそうなくらい、胸が高鳴った。
数コール後、向こうから優しい、しかし少しだけ震えた声が聞こえてきた。
「もしもし?」
「お母さん!私だよ、花!」
「え!?花!?本当に繋がったの!?」
お母さんの上ずった声の震えが、喜びと信じられない気持ちを物語っていた。
「うん!繋がったよ!」 私も嬉しくて、思わず声が上ずってしまった。
頬が熱くなるのを感じる。
「陽子殿!」
ルシアン様が私の隣に顔を寄せ、母に語りかけた。
彼の声には、深い安堵と、温かい親愛の情が込められていた。
「ルシアン様!ご無事で何よりです!」
お母さんの声もスマホ越しに、心から安心しているように聞こえた。
二人の間に、異世界を超えた温かい信頼関係が確かに芽生えているのを感じて、私は胸が温かくなった。
「アルドロンさんがね、すごい発明をしてくれたんだよ!テレビ電話もできるんだよ!」
私がそう言って画面を切り替えると、お母さんの顔が大きく、鮮明に映し出された。
その表情一つ一つが、まるで目の前にいるかのようにリアルだ。
「まあ、テレビ電話まで!?すごいわね、アルドロンさん!」
お母さんの驚きと称賛の声に、アルドロンさんは少し得意げに「ふむ」と頷いた。
彼の表情は常に冷静沈着なままだったが、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。
「それにしても花、髪の色も瞳の色も変わったのね……紅い髪に、緑色の瞳……間違いなく聖剣の使い手のセラフィナの姿だわ……!素晴らしいわ!」
お母さんは、画面に映る私の変化した姿を見て、一瞬驚いたようだったが、すぐにその目が優しさに満ち、愛情を込めた声でそう言った。その言葉に、私は胸がいっぱいになった。
「お母さん、お父さんは?」 私が尋ねると、画面の向こうから「おーい、花!」と、お父さんの元気で少しハスキーな声が聞こえてきた。
画面の隅から、お父さんが顔を出し、私を見て大きく手を振っている。
その顔には、安堵と喜びが入り混じったような、少し泣きそうな笑顔が浮かんでいた。
健太郎と有紀も、興奮した様子で画面の隅にぎゅっと顔を押し付けてきた。
「花!見えてるぞー!」
「よかったね、花!みんな、ずっと心配してたんだよ!」 健太郎と有紀の声は、喜びで少し震えているようだった。
皆の顔が、この手のひらの小さな画面に見えることに、私の胸は熱くなる。
遠く離れていても、こんなに近くに感じられるなんて。
「みんな、見て見て!ここが、私たちが住んでるお城だよ!」
私はスマホを構え、広間の様子を映し始めた。
ルシアン様やカスパール君、ローゼリアちゃん、アルドロンさん、そしてリリアさんとリルも画面に顔を寄せ、日本の家族に手を振っている。
彼らの表情もまた、日本の家族と繋がれたことへの喜びで輝いていた。
「おお!これが白亜の城か!すごいな、本当に!まるで絵本の中から飛び出してきたみたいだ!」
お父さんが感嘆の声を上げているのが聞こえた。その声は、驚きと興奮に満ちていた。
その時、画面越しにリリアさんが、お母さんの顔を見て嬉しそうに言った。
「陽子さん!お久しぶりです!お元気でしたか!?」
「リリアさん!元気よ!あなたも元気そうでよかったわ!」
お母さんは画面越しのリリアさんに、優しい笑顔を向けた。
二人の間には、異世界を超えた温かい交流が生まれていた。
私たちは、交代で日本の家族と話し、城の中を案内したり、日本で買ってきたばかりの品々を見せたりした。
お父さんは、城の歴史や勇者たちの生活について次々と質問を投げかけてきたし、健太郎と有紀も、この世界の様子に目を輝かせ、「ねえ、これって本当に剣なの?」「魔物ってどんなの?」と興奮した声で尋ねてきた。
ルシアン様が剣を見せると、お父さんが「おお、本物か!」と声を上げ、健太郎が「すげー!」と目を輝かせていた。
ローゼリアちゃんが魔法を見せると、有紀が「わー!きれい!」と手を叩いて喜んでいた。
その様子を見ていると、まるで二つの世界が一つになったかのような不思議な感覚に包まれた。
「ねえ、ルシアン様!このスマホがあれば、いつでもみんなに会えますね!」
私がルシアン様を見上げると、彼は優しく微笑んだ。
その瞳は、深遠な愛情と、未来への確かな希望を宿していた。
「ああ、そうだ。物理的な距離など、もはや障害にはならぬ。我々の絆は、次元を超えて繋がったのだ。この小さな板が、これほどの奇跡をもたらすとはな」
彼の力強い言葉に、私の心は温かい光に包まれた。
遠く離れた世界にいても、大切な人たちとの繋がりは途切れない。
このスマートフォンは、単なる通信機器ではなく、私たちの愛と友情を繋ぐ、奇跡の架け橋となったのだ。
広間に満ちる温かい空気と、遠くから聞こえる家族の声が、私たちがどこにいても、決して一人ではないことを教えてくれた。




