96話 謝罪ですが脈ありでしょうか?
翌日の昼休み、俺は写真部の部室に呼ばれて来ていた。
俺は、正座で座っていた。
目の前には、小金井が俺を睨み付けていた。
後ろで、桔梗がニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。
「昨日は、お前だけ行かせてしまい申し訳ございませんでした!」
俺は、小金井に向かって深々と頭を下げた。
「会長、このおいらにとってあの状況が、どれ程キツイかあなたならわかるでやんすよね?」
「……おっしゃる通りです」
「確かに、おいらも女性恐怖症を治したい気持ちもあるでやんす、その事を気にして会長がああいう機会をくださる気持ちも嬉しいでやんす」
「……こ、小金井」
「だがしかし、今回の件は悪意が感じられるでやんすよ?桔梗殿に聞けば、一緒に行くって約束をドタキャンしたと聞いたでやんす」
「そ、それは……すまん、少しでも現実逃避をしたくて……つい」
「すまん?」
「すぅ〜、すみませんでしたあ!」
俺は、再び深々と頭を下げた。
「……素直に謝ってくれてたからもう許すでやんすよ」
「小金井!ありがとう!」
「ただし、文化祭当日この服を着てくれるのが条件でやんす」
小金井は、そう言ってスマホの画面を俺に見せた。
そこには、ふわっふわのフリルで仕立てあげられたピンクと白の服装が写っていた。
この服って……何処かで見たことあるような……。
「も、もしかしてこれは……」
「ぶはぁ!!」
桔梗は、後ろで笑い転げていた。
な、なんてこった! メイド服ならまだしもこんなふわっふわのきゃぴきゃぴを具現化したようなデザインの服を俺が着るのか!? やっべぇぞ!
「こ、小金井くん、メイド服じゃあ無かったの?」
「折角、コスプレ喫茶なのにメイド服ばかりじゃ味気ないでやんす」
「そ、そっかぁ……」
「別に断ってもいいでやんすが、勿論許さないでやんすし、おいらが撮った写真は会長にはもう一枚たりとも見せないでやんすし、配りもしないでやんす」
「ぐ……ぐぬぬぅ」
「いいのかなぁ〜メイド服姿の紫陽花、めちゃくちゃ可愛いかったのになぁ〜」
「そうでやんすね桔梗殿、あんなに可愛いらしい紫陽花殿なんて中々見れないでやんすよ」
どうする俺、男としての尊厳を全て捨ててあのヤベェ服を着るのか、それとも尊厳を守って友情とメイド服を捨てるのか……。
俺は、20秒の沈黙の後、静かに答えた。
「その服、着させていただきます」
俺は、友情とメイド服を取るよ。
尊厳なんて捨てちまえ!
「……会長ならそう言ってくれると信じてたでやんす」
「じゃあ、ご本人に登場してもらおうか」
「そうでやんすね」
「ん?ご本人?」
すると、窓際のカーテンがばさっとはためいた。
そこから、白と黒のメイド服に身を纏った天使が舞い降りた。