94話 ワタポンですが脈ありでしょうか?
皆が神奈月さんの家に行ってる間、俺はとある場所に向かっていた。
目的地の家に着いた俺は、早速インターホンを押した。
「……帰れ」
インターホンからその一言だけ聞こえて、ブチッと切られた。
再びインターホンを鳴らす。
「……」
次は、無言で切られた。
再びインターホンを鳴らす。
「……」
次も無言だったが、床を強く蹴る足音が聞こえる。
すると、家の扉が激しく開き、間髪入れずに俺の顔面に飛び膝蹴りが襲いかかって来た。
俺は、思いっきり吹っ飛ばされて道路に転げ回った。
「ったく、じゃかぁし〜いっんじゃこらぁ!」
飛び膝蹴りを喰らわせた本人は、激怒しながらこちらを睨みつけている。
「いやいや、まともに応対してくんないのが悪いじゃんか、しかも体罰だし」
「ふん!対して怪我しとらんだろ、それに口で言ってもわからんお前みたいな奴は、痛い目見ないとわからん!」
「はぁ〜これだから暴力教師はいやだ」
「お前、2学期の通知書全部1な」
「ええ!!こんな優等生にそんな仕打ちなくない?」
「お前は、殴った所で通用せん、次から精神面から攻撃することにする」
「酷い……酷い過ぎるよ!こんなか弱い優等生にやっていいことじゃない」
「飛び膝蹴りされて、ほぼ無傷の奴がか弱いわけあるかボケ、それで用件はなんだ?」
「ああ忘れてた、ワタポンに自転車を直して欲しくて来たんだった」
「俺は、業者じゃねぇぞ?」
「そこんとこお願いしやす!」
「はぁ〜ったく、とりあえず見せてみろ」
「流石、それでこそワタポンだぜ!」
「さっきまで、暴力教師っつてた口だと思えない手のひら返しだな」
そんな訳で、ワタポンもとい石綿先生の自宅にお邪魔する。
ワタポンは、俺が子供の時からよく遊んでくれた兄貴みたいな人だ。
口は悪いが、基本的に優しくて押しに弱い。
昔は、『デスメタル』と言われる手がつけられない不良だったのに、まさか教師になるなんて思わなかったな。
しかも、生徒指導の先生だから、昔のワタポンを知ってる俺からしたら、説得力のかけらもないんだよね。
今でも、ワタポンの知り合いから、それで笑われるって言ってたし。
まぁ、俺もそんなワタポンに憧れて、ガッツリ不良してたから人の事は言えないけど。
「折角の休日を潰しやがって、ちゃんと後で働いてもらうからな」
「へいへい、分かってるって、それでどう?直りそう?」
「そんなすぐにわかるか、ちょっと待っとけ」
「はーい」
ワタポンが、自転車を見てくれている間、俺は携帯電話をいじり始めた。
しばらくして、家と扉が開いて1人の女の子が飛び出して来た。
女の子は、寝癖が爆発していて、薄着のパジャマが着崩れて、右肩がはだけていた。
「おじさ〜ん、歯磨き粉の替えってどこっ……え!?卯月さん!?」
「おっ、紫ちゃんおはよう〜」
「あっ、ちょ、えっと!失礼します!」
紫ちゃんは、慌ただしく家に戻った。
家の中から、激しい足音が聞こえる。
そして、20分程してまた家から出てきた。
爆発していた頭も綺麗な茶髪のロングストレートになっており、服装も少し大きめの白いトレーナーに黒いジーンズを合わせていて、しっかりお洒落な格好をしている。
「う、卯月さん、お、おはようございます」
「紫ちゃん、急いで着替えてたみたいだけど、どこか遊びに行くの?」
「ああ、いえいえ、いつも私はこんな感じですよ!」
「そうなんだ?」
「……ははっ」
ワタポンが、何故か笑っている。
紫ちゃんは、そのワタポンを鋭い眼差しで睨みつけていた。
紫ちゃんは、ワタポンの姪っ子。
訳ありで今は、ワタポンの家で一緒に暮らしている。
確か、中学2年生で風鈴と同い年だったはず。
「まだ修理に時間かかると思うし、紫の勉強見てやってくれ」
「りょ〜かい」
「ええ!!それはちょっと……」
紫ちゃんは、困った表情でこちらを見ている。
額には、少し汗をかいている。
あれ?嫌だったかな?
「嫌ならやめとく?」
「あっ!えっと……そういうつもりでは無くて!……10分!後10分待ってだけ待っててください!準備しますので!」
紫ちゃんは、そう言って再び家に戻った。
「ワタポン、俺って嫌われたかな?」
「はぁ〜知るか、自分で考えろ」
「冷たいな!」
ワタポンが、呆れた表情でしている。
あれ?そんな嫌われるような事したっけなぁ?
気をつけないと行けないな。
10分後、息を切らせた紫ちゃんが家から出てきた。
「はぁ……はぁ……卯月さん、どうぞ」
「お、おう、お邪魔します」
やっぱり、中学生といえば多感な時期だしな、必要以上に気をつけないとな!
俺は、覚悟を決めて家に入った。