82話 宿題ですが脈ありでしょうか?
夏休み最終日。
別名『決戦の日』。
そう今日は、宿題との戦いの日である。
ここで全てを終わらせないと、明日から地獄を見る羽目になる。
という訳で楓ちゃんの家に来た。
楓ちゃんの家は、マンションの三階にある。
マンションの入り口の集合玄関を通り、インターホンを押す。
「ごめんください!」
「新聞の勧誘は結構です」
ガチャリと楓の声が途切れる。
私はもう一度インターホンを押す。
「ごめんください!」
次は、声も無しにガチャリと切られた。
え?酷くない?流石に私も泣くよ?
すると、カチャ!と前の扉が開く音がした。
私は、前の扉を開けて、すぐそばのエレベーターに乗って三階に向かった。
三階に到着し、楓ちゃんの部屋のインターホンを押す。すると、扉が開き気怠そうな楓ちゃんが中から出てきた。
「おはようございます!」
「……ふあっ〜朝から元気ね、おはよ」
楓ちゃんは、寝癖全開で大きな欠伸をしながら私に挨拶を返してくれた。
「宿題なら見せないわよ」
「そこをなんとか、神様、仏様、楓様!」
「……私の言う事を一つ聞くならいいわよ」
「喜んで!なんでもします!」
「ふふっ、分かった入っていいわよ、今日は親居ないし」
「やったぁ!」
「その代わり宿題が終わるまで、帰れないと思いなさい」
「うん!頑張るよ!」
私は、楓ちゃんの家に入った。
玄関からすぐ正面のドアからリビングを経由して、奥のドアを開けて洋室にたどり着いた。
「ここが私の部屋だから、思う存分宿題しなさい」
「ありがとう!それで……宿題の方を写させてもらえませんか?」
「はいはい、どうぞ」
楓ちゃんは、学校のバックから宿題を取り出して、私に渡してくれた。
「ありがとう!これで終わったも同然だよ!」
「ちゃんとやりなさいよ?私は、朝ごはん食べるから、紫陽花もいる?」
「お願いします!」
「分かったわ」
楓ちゃんは、そう言って部屋から出た。
それにしても、楓ちゃんの部屋って久しぶりに来たなぁ。多分中学の春休み以来かな?
あの時は、20kmぐらい走って楓ちゃん死にかけてたなぁ、懐かしい思い出だ。
至る所に、アニメのグッズやポスターが貼ってある。そして、大量の画材。
楓ちゃんは、同人誌を書くのでそれ用だと思う。
っていけないいけない!
楓ちゃんの部屋を観察する前に宿題しなきゃ!
それから、宿題写しを始めた。
「ご飯作ったわよ」
30分くらい経って、楓ちゃんが朝ご飯を持ってきてくれた。メニューは、目玉焼きにソーセージ2本、付け合わせのレタスに白ごはんだった。
目玉焼きの黄身を箸で割ると、とろっと中から半熟の黄身が溢れる。
そこに醤油を垂らし、白身をつけて食べる。
これが格別に美味い!
「やっぱり朝は、目玉焼きだね!」
「そうね、他のもの考えるの面倒だし」
朝ごはんを早く食べ終わり、再び宿題に戻る。
まだ問題集の5冊中の1冊目だから早く終わらせなきゃ。
それから1時間が経ち、最も警戒していた事態に遭遇していまった。
集中力が、切れてしまった。
くそぅ、まだ1冊しか終わってないのに。
うぅ〜やる気が出ないよぉ!
私は、宿題の冊子に顔を埋めた。
「もう集中力切れたの?」
「ぐぬぬぬぬ、勉強を受け付けない体になってしまった……」
「仕方ないわね」
後ろで楓ちゃんが、なにかを操作している。
すると、部屋に置いてあるスピーカーから音楽が聞こえてきた。
「おお!作業用BGMってやつ?ありがと!」
「違うわよ」
「へ?」
すると、そこから聞き馴染みのある歌声が聞こえてきた。つーか私の歌声だ。
つーかこれ例のYouTubeのやつやん!
「ええ!?ちょちょ!!」
「紫陽花が、ペンが止まる度に再生してあげる」
「鬼!悪魔!」
「あら?大音量で聞きたいの?」
「いえ、なんでもありません!」
私は、涙目になりながらシャーぺんを走らせた。
「お、終わった……」
「お疲れ様」
6時間の死闘により、全ての宿題を終わらせた。
これで、晴れて自由の身だ!
ひゃあふぉい!!
「さてと、じゃあ約束通り、言う事を聞いてもらうわよ?」
「……やくそく?」
「覚えて無いとは言わせないわよ?」
そういえばそんな事言ってたなぁ。
今になって思い出した。
まぁ、いいや。今ならなんでもやれる気がするよ!
「何をすればいいの?」
「それはね……」
楓ちゃんが、私に耳打ちする。
それを聞いたと同時に、私の額から冷や汗がだらだらと流れ落ちる。
「あ、あの〜楓さん?」
「なぁに?」
「私を殺す気?」
「そんな事ないわよ」
「先程の要件は、そのレベルなのですが?」
「まぁ約束だし、精々頑張りなさい」
楓ちゃんは、意地悪そうな微笑んだ。
すぅ〜まじか。
明日、台風来ないかな。
そんな、現実逃避しか私には出来なかった。