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悪の腹心  作者: Kaz
9/9

Ⅰ‐8

このチャプターでいったん完結となります。


最高に残酷です。中学生以下は知る必要のない史実が含まれています。今のうちにあたたかいお家にお帰りください。

8


 八月も終わりになると、処刑の規模はこれまでとは比較にならないほど大きくなり、ユダヤ人の殺戮は我々の生活の一部となっていた。

 聞いた話では、ある日ラセイニャイのゲットーが解体され、夥しい数のユダヤ人がたったの数日間で殺されたという。我々第二中隊はゲットーの解体を見届ける暇なく、北東の街パネヴェーシスへの移動を命令された。シャウリャイ周辺で浄化作戦を繰り広げていた第三中隊と合流し、パネヴェーシスのユダヤ人コミュニティを斬首せよというのだ。


 八月も終わろうかという某日、パネヴェーシスに着いたら即座に近郊の森へと出動を命令された。第三中隊が先に森の中で処刑任務を行っているが、予定よりもだいぶ遅れているという。リトアニア人とウクライナ人からなる《補助警察(ヒルフスポリツァイ)》と、特殊部隊の分遣隊が一緒に参加しているというが、それでも人手が足りないという。そこで第二中隊にお声がかかったのだ。我々はその日もやはり無様に酔っ払ったマイヤー少尉の指揮のもと、森の中へと侵入していった。任務の詳細はぎりぎりまで明らかにされなかったが、今更説明されなくともだいたいわかっている。

 大方の予想通り、森で処刑が行われていた。いたるところにスコップで即席の穴が掘られていて、信じられない数の人々が横たわっていた。しかも人々は死に切れず、穴のあちこちから我々に対する恨みの言葉がつむがれ、蠢く肉の山を見て思わず吐く者もいる。

 トラック、或いは徒歩でユダヤ人の老若男女が区別なく続々到着し、次から次へと列に並ばされ、処刑の順番を待っている。

 とある穴の縁で、両腕に女を抱いた男が目を閉じて何やらぶつぶつと呟いていた。服を脱がされており全裸だ。親衛隊の下士官が拳銃を抜いて歩いてやってきて、女、女、男の順番で首筋を撃ち抜いた。三人は穴の底へ落ちて行き、しばらく痛ましく体を痙攣させたがやがて動かなくなった。

 私はその光景を見て震え上がった。今まで体験したどんな銃殺任務よりも、その日の処刑は規模が大きかった。もともとパネヴェーシスはユダヤ人が沢山住んでいて、付近の村々から連行されてきたユダヤ人とあわせれば、とてつもない数に膨れ上がっていた。それら全てを今日一日で処刑しようとしているのか、あたかもそう見えた。雲の厚い薄暗い日で、既に夕暮れ時だがまだまだ生きて列に並ばされ、服を脱がされて、処刑されるのを待つユダヤ人たちが山といた。


 私もすぐにとある一角を受け持つよう指示され、ユダヤ人たちが続々送り込まれてきた。任務の説明もないまま、とりあえず見よう見まねで穴を掘らせ、服を脱がせ、後ろを向かせて銃殺した。隊員たちの中には、まだ銃殺に慣れていない者も多く、自由裁量で撃ってしまうと弾丸は頭に直撃し、返り血で軍服がべとべとに汚れてしまう。《精神的緊張》に晒された警官の中には、任務を外して欲しいと泣きながら懇願する者も稀にいる。処刑場の外で封鎖線を張るだけの任務や、もっと楽な任務にまわされるらしい。特別に罰則が与えられたような記憶はない。我々は銃殺を拒否しようと思えば拒否できたのだ。しかし、現実に銃殺を拒否する者はごくわずかだった。


 慣れぬ事態に非効率な処刑を続けていると、見かねた大隊の軍医がやってきていかにして撃てば苦しみを与えず即死させられるか、返り血が少なくなるかなどの簡易的なレクチャーをしてくれた。ベテランの警官にとっては常識だが、新兵にとっては重要な情報だ。

 いたるところで、機関銃を使った処刑も行われたが、機関銃は穴の縁に並ばせた人々を一気になぎ倒すのには良かったが、大抵殺しきることはできず、結局誰かが穴の中に降りて行ってとどめを刺さなければならない。本当に辛い仕事だ。呻き声を上げる人々を更に撃つのも、死んだふりをする人々に銃剣を突き立てるのも、実に気が重い作業だ。

 私はこのようにして、撃ったり突き刺したり銃床で殴ったりして、ユダヤ人を数え切れないほどたくさん殺した。子供もたくさんいた。むしろその日、人々の半分は未成年者だったと思われる。親を既に失い、生きる術を絶たれた子供たち。泣き叫び、親を探して泣き叫んでいた。子供たちを殴って穴の縁に連れて行き《武装親衛隊》に引き渡した。不可能な場合には自らに暗示をかけてこの手で殺した。この子たちはもう生きられない、親はもう死んで育てる者もない、仕方がないのだと。言い聞かせながら数え切れないぐらい引き金を弾いた。


 しばらく銃殺を行っていると、我々の士気は目に見えて下がった。見計らったように灰色の制服を着た親衛隊少佐(シュトゥルムバンフューラー)がやってきた。後ろには髪や髭がぼさぼさで、みすぼらしい格好をしたリトアニア人の傭兵たちがぞろぞろとやってきて座り込み、食事を始め急ピッチで酒を飲み始めた。少佐も同じく飲み始め、あっという間に千鳥足になった。少佐は、全裸で穴を掘るユダヤ人からスコップをひったくって地面に寝そべるように命令し、後頭部をスコップで殴りはじめた。二度、三度と強烈に殴られたので両の〇〇が飛び出し、口から大量の血を吐いてびくびくと痙攣を始めた。少佐は愉快そうに笑い、拳銃で後頭部を撃ってとどめを刺した。

 横で見ていたユダヤ人たち(約半数は子供だった)は半狂乱に陥り、皆がそれぞれの方向に逃げようとした。酔って興奮していたリトアニア人たちは命令もまだなのに即座に撃ちまくり、あっという間に大地は蠢く肉の山となった。死体の片付けを別のユダヤ人にさせ、更に酒を飲みまくり、また何組かのユダヤ人たちを殺すと、傭兵たちはその場で寝そべっていびきをかきはじめた。

 吐き気を催して森の奥へと進んでいくと、かなり深い穴が掘られている。ユダヤ人たちは穴の底に寝そべるよう命令され、寝たままの姿勢で撃たれた。次の列が死体の上にさらに寝そべるよう命令され、機械的に銃殺が繰り返された。その様子はオイルサーディンの缶詰を連想させた。よく見たら、マイヤー少尉が千鳥足で穴の中に入って拳銃でユダヤ人を撃っていた。少尉は酔っていて狂犬のようだった。女だろうが子供だろうが、見境なしに撃ちまくり、弾が切れたらまた補充し、酒を飲み、撃ちまくっていた。私はその光景を見て立ったまま嘔吐した。戻ってみると、部隊の仲間たちも同じように酒を飲んでおり、酔っ払ってむちゃくちゃに撃ちまくっていた。

 あたりは徐々に暗くなり、銃殺班は酔っ払うばかりだった。すると、銃の狙いはよりあてずっぽうに、よりいい加減なものとなり、ユダヤ人に一発で致命傷を与えるのは難しくなっていった。私も素面でいるのに耐えられなくなり、酒を飲んでこの状況を乗り切ろうと考えた。配給のシュナップスを浴びるように飲んで、裸のユダヤ人を数え切れないぐらい撃った。ほとんどは一発で死に切れなかったに違いない。わけがわからなくなってもとりあえず引き金を弾き続けた。それでも処刑はいつまでたっても終わらなかった。


 夜中、トラックのヘッドライトの眩しさで目が覚めた。喉がからからに渇いていた。猛烈な尿意を感じた。周囲は騒がしく、まだ処刑が続いているらしい。

 見ると、同じようにシュミットやゲアハルトやハンケやブックが酔い潰れて地面で寝ていた。私は体を起こして排尿できそうな場所を探した。付近をうろついていると、裸のユダヤ人の女たちが集められているのを見た。必死の形相で泣きながら命乞いをしていた。銃を持った男たちがそれをにやにやと笑いながら見ていた。男たちは大抵リトアニア人だったが、ドイツ国防軍の制服を着た者もいれば、親衛隊も警官もいた。よく見たらマイヤー少尉もその中にいて、ユダヤ人たちの裸をみて、げらげら笑いながらはやしたてていた。

《品位なき態度》

 そんな言葉をふと思い出した。

 そう言えば、割と最近までそんな言葉を巡って悩んでいたものだ。

 私はその時のマイヤーの顔を思い出し、目の前の酔っ払いと見比べた。そんな言葉で、そんな程度で。悩んでいたのだ。

 もう何年も昔に思えた。あの頃は、まだ一人殺した程度で死ぬほど落ち込んでいたのだ。懐かしくさえあった。

 急に目の前の光景がとてつもなくおかしく思え、皆と一緒に大笑いした。私たちが笑えば笑うほど娘たちは泣き喚いた。しばらく泣き声と笑い声が盛大に大合唱していたが、ハンケが突然現れてMP短機関銃を滅茶苦茶に撃ちまくり、女たちは丸裸のまま惨めに地面になぎ倒された。ハンケは血走った目のままルガーを抜き、女たちの頭を一発一発順番に銃撃してとどめを刺した。私たちはその光景を黙って見ていたが、そのうち誰かが噴き出し、場は爆笑の渦に包まれた。ハンケは千鳥足のまま元来た道を歩いて行き、また座り込んで呆けたように虚空を見つめていた。そのまま動かなくなってしまった。

 私はハンケの隣に座った。ハンケは木の根元に胃液を吐いた。

「くそ、ずたぼろだぜ」

「何人殺しましたか」

「覚えてねえよ。もうわけがわからねえ。貴様はわかるのか?」

「わかるわけありませんよ」

 ポケットから煙草を取り出してハンケに勧めた。火をつける時に気付いたのだが、手が小刻みに震えていた。

「この国の煙草だったか? 不味い煙草だ。でもドイツのよりはましだな」

 同感だった。私とハンケはしばらく無言で煙草を吸った。

「このくそ処刑はいつまで続くんだ?」

 ハンケが言った。

「全部殺すまでですよ」

「一体何人いるんだ、本当に全部殺すつもりなのか」

「分隊長殿、そんな質問ばかり貴方らしくありません。そんなこと言われてもわかりませんよ」

「貴様、一丁前の殺人者になったな。おれはもう耐えられねえ。こんなことはもうしたくねえ」

「そういえば」

「なんだ、どうした」

「そういえば、小便が漏れちゃってました」

「それがどうした。俺はくそもだ」

「ユダ公の血と内臓と脳みそ、ドイツ人のゲロと小便とくそ」私は笑った。「この世は汚いです」

 ハンケのつらそうな顔を見てますますおかしくなり、私はのけぞって大笑いした。

「よく笑えるな貴様」

「分隊長殿、傑作です。こんなおかしな話がありますか、聞いたこともありません。現実とは思えません。そうでしょう、分隊長殿!」



第一部完

お読みいただきありがとうございました。

酷い話でしょう?

これでほぼ史実なんです。信じたくないですよね。

是非感想をお寄せください。


文学賞の応募規定を満たすため長く書く必要があり、実は続きがあります。ただ自分が伝えたいことは一部のみで語り尽くしておりいったん完結としました。

続きはいつか載せるかも。リクエストあればお寄せください。

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― 新着の感想 ―
知恵とは何なのかってこと。 ハンケがとどまり主人公が踏み越えたのは、なぜだかスカッとした。 ハンケありがとう。
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