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社交怪談 ~夜職には〈その先〉がある~  作者: 水山天気
第2章 この世のものとは思えないほど恐ろしい顔

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顔(海賊版)

 朱利の短い話を聞き終えたあと、金城は問題の〈煙草〉を見せるよう三宅に命じた。

 三宅は鍵付きの保管ケースから黒い小箱をとりだし、その(ふた)を開けた。

 中には紙巻煙草が2本。

 白い紙には、百合(ゆり)か短剣のように見える銀色のマークが印刷されている。


 三宅が金城に尋ねた。

「くわしい奴に口頭で訊いてみましたけど、写真も送っちゃっていいですか?」

「ああ、送れ」

 三宅は小箱にスマホを近づけた。


「問題は、まだ朱利しか見てねえ〈顔〉だよな」と金城が言った。「顔顔顔って、どんな顔だかさっぱりわからねえよ。説明しにくいのはわかるけどな、もうちょっと何かあるだろ」

「絵を()きます」と朱利は答えた。

「悪霊の似顔絵か」

 金城は自分の顔を変形させた。少しだけ笑ったようだ。

「この世に呪物を増やす気か、と普通なら止めるところだがまあ、カシラが朱利(おまえ)に期待してるのは、たぶんそういう役目なんだろうな。よし。描いてみろ」

「はい」

「三宅、書くもの出せ。紙は丈夫なやつだ」


 朱利は三宅から筆記具を受けとり、〈顔〉の絵を描きはじめた。

 朱利に絵心はない。

 美術の授業では、納得のいく絵を描けたことなどなかった。どう描いても、目の前にある物とはちがう。気持ちが悪かった。

 しかし、生物の授業でのスケッチは得意だった。

 顕微鏡の単純な透過光(とうかこう)。その〈陰〉だけを描く。

 〈顔〉のスケッチは、そちらの感覚に近かった。その〈顔〉を朱利に見せていたのは、複雑な反射光ではないようだった。顔とそのパーツと乱れた髪の輪郭(りんかく)だけが、光の線として暗闇に刻まれているように見えた。


「うわ。これはグロいですね」

 朱利の描き上げた絵を見て、三宅が言った。言葉に気をつけてほしい。

「口のききかたに気をつけろ。黙ってコピーをとれ」

 金城の指示で、〈顔〉の複製品が増えていく。


「よし。こいつを見せるのは、容疑者をあるていど絞りこんでからだな」

 と金城が〈顔〉の絵を手の甲で叩いた時、三宅のスマホが鳴った。気味の悪いタイミングだ。

 スマホを見ながら三宅が言う。

「煙草の銘柄、確定しました。ベイズン、という日本の煙草だそうです」

「……知らねえやつだな」

「えっと、国内では40年前に販売停止。海外でも、今はたぶん出回ってないそうです」

「おお。かなり絞りこめそうだな。裏は取っとけよ」

「はい」

「朱利。今日からホールで、三宅が目をつけた客に〈ベイズン〉の話を振ってみろ。それがおまえの仕事だ。三宅、適当に朱利をテーブルからはがして喫煙室にも行かせろ」

「金城さん」三宅が両手を合わせた。「アカリさんは煙草を吸いません。あと、昨日のオープンから動きっぱなしだったので、ずっと眠ってないはずです。ので、今日からはムリです」

「深夜からでもいい」

「アカリさんの体調しだいですね」


 金城は舌打ちをしてから朱利に言った。

「おまえ、今日は家に帰る気ねえよな。だよな。じゃあ店で休んで、目がさめたら三宅の言うとおりにしろ。それでいい」

「はい」

「三宅、うちの若いのを——」

 と金城が言いかけた時、店長室のドアが鳴った。

 ノックの音が4回。

「はい」と三宅が応えると、ドアの向こうから、

「店長。廣田くんが到着しました」

 山崎の声だ。

 金城の腰が浮いた。

 三宅が言う。

「どうぞ。入ってください」

「失礼します」

 ドアが開き、山崎と廣田が入ってきた。立ち上がった金城が、腰を折って頭を下げる。

「これでいちおう、皆さん無事、みたいですね」と三宅が言った。「じゃあ山崎さんたちはまず、睡眠をとってください。アカリさんも、もうしわけないけどスタッフルームのほうで」

「まあ、一人にはならないほうがいいでしょうしね」

 と山崎が言う。そして彼は金城に向かって、

「アカリさんのこと、よろしくおねがいしますね。私は、この手のことではまったく力になれませんから」

 と言った。

押忍(オス)。精一杯つとめます」と金城が応えた。

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