第31話:平均的マイホーム、あるいは超過密の寝室
岩晶竜の協力(という名の労働)もあり、浮遊大陸の中心部には勇の「理想の家」が完成した。 地上の石材を勇の密度で圧縮して作った「特製耐荷重フロア」と、中和クリスタルのエネルギーを直接引いた「重力安定ベッド」。
「……ついに、ついにこの時が来た。一人で、誰にも密着されずに、広々と大の字で寝るんだ!」
勇は感動に震えながら、自分の部屋の扉を閉めた。 地上の地下倉庫では叶わなかった「プライバシー」という名の贅沢。勇はパジャマに着替え、ふかふかの(しかし芯は岩盤のように硬い)ベッドに身を投げ出した。
だが、消灯して数分。 ――カチャリ。
「……勇、起きてる? 新しい部屋、重力中和の術式が安定してるか心配で、一応確認に来たわ」
セレナが当然のように枕を抱えて入ってきた。
「師匠! 新築の家には魔が差すと言います! 護衛として、このヒルダがベッドの右翼を死守いたしますぞ!」
続いて、完全武装(のパジャマ姿)のヒルダが飛び込んでくる。
「……勇。夜風が少し強いわね。私が翼で窓の隙間を塞いであげなきゃ、貴方、風邪を引いちゃうわよ」
窓から滑り込んできたリネットまでもが、勇の左側のスペースを確保した。
「おい……! ここは俺の部屋だぞ! 平均的なプライバシーはどうなったんだ!」
「何言ってるの。貴方の質量が安定してるか見守るのは、共同生活者の義務でしょ?」 「左様であります! 師匠の隣こそが、私の指定席!」 「……いいじゃない。部屋が広くなったんだから、全員で寝ても余裕があるわよ」
結局、地上の時と同じ――いや、部屋が広くなった分、彼女たちの「リラックス度」が増し、以前よりも激しい絡みつき方で勇を包囲していく。
さらに追い打ちをかけるように、部屋の外から「ドスン!」という大きな振動が響いた。
『親分! 部屋の外で異変がないか、この岩晶竜が扉の前で丸くなってお守りいたします! 安心して、ぐっすりとお眠りくだせえ!』
扉の向こうに、巨大な竜が番犬のように居座ってしまった。もはや脱出不可能である。
「……はぁ。やっぱり、こうなるのか」
右にはヒルダの温もり、左にはリネットの柔らかな翼、胸の上にはセレナの心音。そして部屋の外には忠実な竜の気配。 勇は天井を見つめ、苦笑した。
一人で寝る自由は手に入らなかった。 だが、自分という「重すぎる存在」を、これほどまでに当然のように、そして温かく受け入れてくれる仲間たちがいる。
(……まぁ、これも一つの『幸せの形』として、平均点ってことにしておくか)
勇が諦めて目を閉じると、三人は満足げに彼に寄り添い、静かな寝息を立て始めた。 一万倍の質量を持つ男の、騒がしくも穏やかな浮遊大陸での夜は、こうして更けていくのであった。




