非常事態に備えて
まだまだ暑いけれど、段々と吹く風が涼しく感じられて、落ち葉が敷き詰められた木陰で休むには心地よい季節になってきたわね。
いつものように気持ちよくうとうとしていたのに、誰かが来た気配で目が覚めてしまったわ。
わたしの眠りを邪魔した鴉の行動をしばらく見ていたのだけれど…相変わらず、よく訳の分からないことをしているようね。
苔むした石畳と崖とをぴょんぴょんと往復しているわ。
崖を二〜三回ぴょんぴょんと跳び上がったら、石畳に着地…落ちているのかしら?
羽はどうしたのかしら?飛べないの?
気になることはいくつかあるけれど、崖をぴょんぴょん跳び上がっては落ちることを繰り返しているのを見ていたら、なんだかうずうずしてきたわ。
「ちょっと!! ナニしようとしてるの!?」
うずうずしたまま、そらそろかしら?と機をうかがっていたら、カースケが振り向きざまに喚き出したわ。
「ナニって…そろそろイイかと思って、絶好のチャンスぽいでしょ?」
「何にも良くないよ!良くないから!ちょっと!早く狩の姿勢をといてよ!!」
レディの眠りを邪魔しただけじゃ飽き足らずに、愉しみまで奪おうとするなんて、不粋な鴉ね。
「ちょっと戯れようとしただけじゃない、大袈裟ね。」
「いやいやいや ちょっとの戯れで飛べなくなるのは困るんですけど!?」
「あら?飛べなくなったんじゃないの?ぴょこぴょこ跳んじゃって、何をしていたかしら?」
「おぉぉぉ…… 飛べなくなったら、即オモチャにされそうな予感…いや、そうじゃなくて!! いざという時のために脚を鍛えてたんだよ…。濡れたりして、飛びにくくなった時に走れたらいいだろう?」
「濡れたぐらいで飛びにくくなっちゃうのね。跳ぶ練習してたら、脚で走れるようになるのかしら?」
「可能性は無限大さっ!!現に走れる鳥もいるのだからっ」
バサバサと羽を広げて大袈裟に演説してるけれど、胡散臭さが増しているだけね。
可能性は無限大というよりも…可能性は未知数じゃないかしら?
まぁ、鴉が跳ぶ練習をして、鶏みたいに走れるようになるとは思えないけれど、何かを信じて頑張れるって素敵なことよね。
わたしは立派なレディだから、何かを信じて努力してる人を笑うなんて、そんな無粋で失礼なことはしないわよ。
貴方が何か信じて頑張っていることがあるのなら、応援するわ。
無理をせずにほどほどに頑張ってね。




