背中の傷は剣士の恥
次の日の目覚めは最悪だった。
半ば気絶する様に自分の吐いた吐瀉物の上で寝た正義だったが、何も着ていない裸状態で夜を過ごした為に低体温症になってしまっていた。
夜中に寒さから一度目覚めたが、その頃にはもう体の節々が悲鳴を上げていて、十分に体を動かすことができない状態になっていた。
凍えるほどの寒さの中で寝てしまえば死んでしまうかもしれないという恐怖を感じながら、体を丸めて夜を明かしたので、ろくに休むこともできずに疲労は限界状態だ。
そんな彼に近づく影が一つ。
「いつまでそんな所に居座ってんだ!失せろ、邪魔なんだよ!」
昨日とは違う見張り役が、村の入り口で倒れている正義を退かしに来たのだ。
そいつは虫に似た顔をした獣人で、毛は一本も生えていない。
虫なのに獣人と言うのか。と見当違いな感想を抱いていた正義に対して虫獣人の見張りは、その虫に似た細い脚を使って思いきり蹴飛ばして来た。
「邪魔だって言ってんのが聞こえねえのか!」
かなり凶暴な性格の様で、動けない正義に対して何度も蹴りを放ちつづける。
「ちょっと、待てって!昨日の夜に見張りしてたやつに、服全部奪われて寒くて動けないんだよ。」
「ガルドの奴にやられたのか?って事はお前は悪りぃ奴ってことか」
そう言って手に持った槍を構え始める虫獣人にたまらず焦りながら弁解する。
「いや、違う!村に入れてくれって言ったら、騙されて服を盗られたんだ!」
「騙された?マジかよ!ガルドなんかに騙されるとかお前バカすぎねぇか?」
笑いながら言うそいつに若干殺意を抱きながらも話を続ける。
「だから、俺の服取り返してくれないですかね?そしたら直ぐどっか行くんで。」
「はぁ?なんで俺がテメェのためにそんな事するんだよ?」
「俺も動きたいけど寒くて動けないんで、服返してもらえれば邪魔にならずにここ退くんで。退いてほしいんでしょ?」
「いや、動かねえんなら動かすまでだ。そもそも騙されたって言ってるが、オメェ戦っても負けたんだろ?そんなバカでザコな奴の言うことなんて聞く必要無えな。」
そう言うと、その虫獣人は正義の脚を掴んでズルズルと引っ張り始めた。
脚を持たれて引っ張られると言う事は、背中と地面が擦れる訳で。
裸の正義がそんな事をされればどうなるかと言えば、当然背中は傷だらけになる。
「痛い痛い!」
引き摺られる痛みで、口から悲鳴が溢れるが、お構いなしに引き摺られていく。
しばらくして森の側まで引きずられると正義は解放された。
「ふう、てこずらせやがって。ほれ、もうこっちに来るんじゃねぇぞ。まあ、裸のオメェじゃどこに行くまでもなく野垂れ死ぬだろうがな」
そう言って笑いながら立ち去るそいつを睨みながら。体の感覚を確かめる。
朝になって暖かくなったこともあり、だいぶ体も動かせる様になって来た
それと同時に、強引に引き摺られた時に暴れた事によって背中は傷だらけだが手足の感覚はだいぶ戻って来て立ち上がれるまでにはなっていた。
それからしばらく悪戦苦闘して、木につかまってなんとか立ち上がる。
「ふぅ、これからどうするか。」
先程の村に戻るという手もあるが、あそこまでの対応をされた後では絶対に入れないだろうし入りたくも無い。
とはいえ、服は取り返しておきたいが、まず無理だろう。
「こんな姿じゃあ他の集落に向かっても門前払いされそうだ。」
そもそも、こちらの世界にきて人里を探していたのは安全の確保のためだった。
しかし昨日から森の中で過ごしていたが、全然危険な目には合わなかった。
「やった事ないが、森の中でサバイバルでもしてみるか?」
現状何も持っていないが、お腹は空いているし喉も乾いている。
正義の過ごした日本は飽食の時代と言われるほどに食べ物が有り、サバイバルの経験など全くすることなく生きていたが、そういった映像は動画サイトでよく見ていた。
「森の中だし、食べれる物も多分あるだろ。それに、村のそばにだったら水源とかも有りそうだ。」
他にいい案も浮かばないし、ひとまず食べれる物を見つけたい。
そうして、正義は森の中へと歩いて行った。




