辛酸を舐める
戦々恐々と森を進む正義であったが、数十分ほど歩いてあることに気がつく。
「全く何も出てこないな。」
そう。魔物の襲撃に怯えながらゆっくり慎重に進んでいたのは最初だけで、音を立てて乱暴に走ってみても魔物のまの字も出てこない。
唯一の遭遇は、ネズミかウサギのような見た目の小動物だけで、そいつもこちらに気づいた瞬間に脱兎の如く逃げて行った。
「やっぱ、死なないように配慮してくれたのかな?」
サンタさん曰く、ここは獣人の国らしいが、送る国が選べるのなら、危険なとこを避けるくらいのこともしておいてくれていそうだ。
「これは、感謝しても仕切れないな。」
ウィンウィンの関係で使徒としてここまできたが、それでもやっぱり彼女が居なければ今の自分という存在は無い。
「よし、じゃあ気合入れて早く人里見つけますか!」
もしかしたら、今までは運が良かっただけで本当はここらへんが危険地帯の可能性も有るが、今の俺はサンタさんを信頼して前より大胆な行動に移る。
森を走り回ってようやく村のような場所を見つけたのは、夕方のことだった。
日が落ち始めた頃になって若干焦りを感じていたのだが、暗くなったことで村の明かりを発見する事ができたのは結果オーライだった。
「ふー、やっとついたけど入るのはどうすればいいんだろう?」
神様製の体は凄い動きやすくて、休憩も少なからずしたにせよ一日中走り回ったのにもかかわらずあまり疲れてはいない。
しかし、今日だけで色々とあったこともあり精神的疲労がきているからこそ、安全な場所で休みたい気持ちが強くある。
村は木の柵らしきもので囲われていたので頑張れば超えることは出来ると思ったが、ここは無難に入り口を探して柵に沿って歩くことにした。
しばらく歩いたところで明るさがました場所を発見し、見張りらしき人も見えた。
「誰だ!」
少し近づいてみると、あちらもすぐにこちらに気がついたようで、声がかかった。
当然ながらその声には警戒色が強く現れている。
闇の中から知らない奴が近づいてくるのだから当たり前だ。
その声に少し緊張を感じると共に、きちんと意思疎通ができることへの安堵も持ちつつ手を挙げてゆっくりとあちらがこちらをはっきりと見える状態まで近づく。
「怪しいものじゃないです。少し道に迷ってしまったようなので、少し村に泊めていただきたく思って来ました。」
近くにきて気づいたが、よく見れば見張りの人の顔は毛むくじゃらで顔のパーツが全く見えない。
多分これが獣人という奴なのだろうが、ぱっと見じゃ何の獣なのかわからない。
当の見張りは警戒を全く緩めず、両手で持った1メートルちょっとの棒をこちらに向けながら様子をうかがっている。
「あのー」
俺が少し声を出すと、驚いたのか毛がビクッと揺れたがそれ以外の反応がまるで無い。
どうしたものかと迷っていると、急に動いたかと思えば手に持った棒をこちらに向けて突き出して来た。
突きは早かったがブレブレで当たりはしなかったが、それでもこちらは争いなんて無縁の全くの素人な訳だが、突いた後の棒を咄嗟に掴む事ができたのは僥倖と言えるだろう。
「なんすか!?いやまじで悪い事とか考えて無いんで。ちょっと休憩したいだけなんで!」
いきなりの攻撃に対して驚きながら、大声で害意は無いぞと捲し立てる。
「何しに来た?」
二人で棒を掴んでいることで膠着状態だったのだが、ここでようやく相手が口を開く。
「いや、だから道に迷ったんで一晩泊めてほしくて」
「怪しい奴は中に入れられん」
「何にも持ってないですし、悪い事しようにもできないですよ!確認してくれてもいいんで。」
この異世界には来たばかりで、持っているものなんて今着ている服ぐらいのものだ。
それに、なんの企もなくただ止泊めて欲しいだけなのだ。身の潔白は証明出来る。
「お前、村に知り合いはいるか?」
「それは…居ないですけど、本当何もしないんで、安全な場所で休みたいだけなんですよ。」
「持ち物を全て出せ」
持ち物なんて言われても、服しかない。
「今着てるこの服以外になんも持ってないです。」
「信用できない。その服の中になにか隠してるだろ」
「隠してないですって!」
もうそこまで言われるのなら、分かったよ。
証明してやるよ。
「じゃあ分かりましたよ!この服脱いで渡すんで、確認してください。あ、今から手離しますけど攻撃するのはやめてくださいね!冗談抜きで!」
そう言って恐る恐る棒から手を離すと、棒はすぐに引っ込められる。
「怪しい動きをすれば突く」
こっわ。
突かれないように少しだけ距離を取って服を脱ぐ。
「脱いだんで確認してください。そっちに投げますね。」
脱いだ服を投げようとしたら、少し慌てていたので配慮して見張りの人から少し離れた場所に服を投げる。一応と下着も脱いだ。
見張りも最初は少し警戒しながら棒で服を突いていたが、少ししたら近づいて確認し始める。
「もういいですか?中に入れてもらえます?」
ここまでやったのだから、入れてもらえるはずだと思った俺は少々楽観的だったのだろう。
「だめだ」
僕の問いに冷たい声が帰ってくる。
「は?なんで?」
「怪しい奴は村に入れられん」
服まで脱いで危険性がない事を見せてるのに意味がわからない。
「はー、じゃあどうすれば入れるんですか?」
「お前は村に入れない」
どうやっても入れてはくれないようだ。
「まじかよ…分かりましたよ。じゃあ服返してくれません?」
「だめだ。これはこちらで預かる。」
その言葉にブチ切れなかった自分の忍耐力は強かったのだろう。
こちらが真摯に向き合っているというのに、対するあいつはこちらを舐め腐っているとしか思えない。
異世界に来て初めて会ったのがこんな奴で、異世界人に対する印象もダダ下がりだ。
「意味わかんねぇよ。俺の服だろ、早く返せよ。」
少しイラつきながら言うと、相手も少し気圧されたのか少し後ろに引いた。
「こんな村入らねえよ。もう行くから服返せや!」
語気を強めて言ったのだが、その言葉に帰ってきたのは、
棒の一撃だった。
見張りから放たれた一撃は俺の腹に打ち当たった。
俺は激痛から倒れ、今まで感じたことのない痛みから声もでず、唯一出たのは嗚咽と腹の中の胃液くらいだった。
その日、俺は裸で土の上に寝て夜を明かした。




