3.
「何ィ? ドラゴンを倒してくれだァ?」
【旅に出て、ほどなくして立ち寄った山村ドルス。カナトはその村の村長よりそんな要求をされていました】
「実は、この村では年に一度、ドラゴンへと生贄を捧げる習慣がありましてな――」
恰幅よく、山村には不釣り合いな程じゃらじゃら宝石をつけた村長。豚に真珠なその人物が、頼んでも無いのに語り始める。
かつては貧しいながらも平和な村だったドルス。だが、150年前より山に一体のドラゴンが住み着いた。
それ以来、ドラゴンは気まぐれにふらりと村に現れると、家々を焼き、家畜に牙を剥き、そのたびにドルスは壊滅状態に陥った。その強大な力に、誰も成すすべなく、ただ、いいようにされるしかなかったのだった。
そんなあるとき、ドラゴンが生贄を要求しはじめた。自分の力は分かっただろう。これから半年に一度、生贄を捧げよ。そうすれば、これ以上村を地獄の業火が覆うことは無い、と。
そして、逆らう術を持たぬ村は、渋々従う他なかった。かくして、村はドラゴンに襲われることは無くなり、表層の平和程度には手にすることが出来たが。
「儂としても、村の中から毎年生贄を選別するのは心苦しくてですな。そんな折、あなたが通りかかったというわけだ」
「ちょちょちょ、ちょっと待て、待ってくれ! 通りすがりの旅人にドラゴン退治をお願いするとか、正気の沙汰じゃねーぞ!?」
「儂も、ただの旅人ならこんな頼みはしませんよ。ですが、あなたは例の魔王とやらを一人倒したとのこと。こんな山奥の村でも、その話は伝わってきているのでね」
「マジかよ――」
どう考えても都市部から村としか思えないここにも、情報は行き届いているらしい。相当に、あの騒ぎは世界中に拡散しているようだ。一時収束も含め。
俺はいきなり旅に出る直前のことを思いだす。
魔王と自らを名乗る男をグーパン一発でノックアウトしたために、俺は地元のイニピール公国じゃ大騒ぎの有名人にあっという間に早変わりした。
そんなワケだから、俺が魔王城へ乗り込むと言った時、どれだけ勇者の再来と期待を持たれたことか。同級生の熱い掌返しは、フライ返しで返される肉を思わせた。
だが、俺の目的は大魔王とやらではない。元々の目的は今頃一人寂しく膝を抱えているであろうサイカを救いだすことだ。その他大勢の、自分のことしか考えていない奴らのことなど、俺には何の関係もない。
だからこうして、奴らの手下である、今は魔力スッカラカンのインキュバス、アレックスに鞭打ち、道案内までさせているのだ。
なので、気の毒だとは思うけども、こんな辺境の村で、全く関係ないことにまで首を突っ込むつもりはない。こうしている間にも、あの小さな友人がひどい目に合わされているかもしれないのだ。
「その顔は、断ろうとしている顔ですな」
「っ! わ、悪いかよ! いきなりそんな事言われても、こっちは困るんだっての!」
「無論、ぶしつけな頼みであることは重々承知。ですが、道で行き倒れかけていたあなたがたを助けたのは、一体どこの誰でしょうなぁ?」
無論無論、この村の方々です! しかも、山奥とは思えない豪華な食事でもてなされ、それはもう勢の限りを尽くさせていただきました!
――今になって考えてみれば、そのための伏線だったのか。うまい話には裏があるとはよく言ったものだ。まさか文字通りになるとは思わなかったが。
「カナト、引き受けよう!」
「アレックス――? って、何やってんだお前は!?」
振り返ると、クソインキュバスがいた。それはもうセクシーで派手な姿できわどい服装の女性二人を両側に侍らせて。
「だってさぁ、この村のヒト達が、それはもうそのドラゴンとやらを怖がってるみたいでさぁ」
「アレックスさまぁ、わたしこわぁい」
「次の生贄になんか選ばれちゃったらと思うと、あたしぃ」
「アッハッハッハッハ! 二人とも、安心したまえ! この僕が、君たちを悪い竜の魔の手から退けて見せるさァッ!」
「「きゃァ~~~~~~~~~~~~~~~っ! アレックスさまぁ~~~~~~~~~っ!」」
「お前が言ってるのはこの村の『娘』達じゃねーか!」
と言うか、今のこいつは魔力が0なので戦えないハズだ。要するに、仮に対峙しに行くとしても、戦闘は俺の仕事になる。――やっぱり肉壁として使ってやろうか。
「ふふん、誘惑の魔力が無くったって、カッコいい僕はスマートにモテモテなのさ!」
「うるせぇよ道案内! また腹パン喰らいてぇか!」
「君はその暴力に訴える癖を直しなよ!?」
「安心しろ。お前意外にこんな手を使ったことは無い」
「淫魔差別反対ぐぼらぁっ!?」
――ちょっと肉壁としては不安が残るか?
「では改めまして救世主様、何卒! 何卒、我が村ドルスのために! よろしくお願いします!」
「は? ま、待て、俺はまだ了承してな――」
「今しがた、お連れ様がやる気を見せてくれたではありませんか! なぁに、魔王を一撃で殴り倒せるあなたのこと。ドラゴンごとき、目ではありますまい?」
「ンなモン知らねーよ!? ふざけんな!」
正直言うと、気が進まない理由は他にもあった。一見にこやかに見えて、村長の目が笑っていないのだ。どこかギラギラした眼差しが、魔物とは別の、ベタついた怖さを放っている。
まだ理由はある。それは、この村の様子だ。
この村はドラゴンの脅威にさらされているハズ。しかし、そんな事などどこ吹く風、とでもいうかのように綺麗なのだ。小さな町よりよっぽど発展している様は、怪物に対して不安を抱いているようには見えないのである。
そこへきて、この村長の目。胡散臭いどころではない。気にくわない。
【しかし、そんな目を向けられているからこそ、カナトとしては断りづらくもありました。仮にも世話になった以上、その礼をしないことは彼の主義に反するからです】
またもや、声が響く。うっとおしい限りだが、その一方で、事実でもあった。
なぜなら、俺はあいつらとは違うから。タダ飯食らって自分は何もしないわけにもいかないのだ。