4.
「キミねぇ、勝手に動かれたら困るんだけど」
ゴシックドレスに身を包んだ金髪の少女に、ボクは眉をひそめて物申す。すると、魔王の一人である彼女、踊魔王ニコバルトカリは、まるで対抗するかのように、同様にして眉間に皺を寄せた。
「何よ? あたしら魔族に刃向かうクソムシを潰そうと忙しかったのに、いきなり呼び出したりなんかして」
「カラオケにでも誘ったと思ったかい? アニソンで三日は打線を繋いでみせるよボクは」
ボクはしもべの魔族に探し当てさせたスイーツを上品にいただきながら、川をドンブラコと流れるカナトの姿を眺める。空間の一部を裂いて目の前に映し出される映像の向こうでは、ズタボロにやられた彼と、例のインキュバスの姿があった。
「とにかく、彼に関しては、ボクが言うまで手を出してはいけないよ? 分かったね?」
「…………」
「分かったら、返事したまえ」
「返事しない以上、あたしの言いたいことは分かってるでしょ?」
「ボクの言うことを聞きたくないって?」
「なんであたしが、この踊魔王様が、あんたの命令聞かなきゃならないって言うのよ?」
まァた面倒臭いこと言いだしたよ、この娘。
ニコバルトカリと言う魔王は、ソルフェリーノ同様、「魔王」であるためその力は魔族の中でも文字通りトップクラスに当てはまる。
しかし、性格の方に難があり、とにかく、とにかくこちらの言ったことに抗ってくる。言うなれば、反抗期の子供みたいなもので、右と言えば左と力いっぱい睨み返して応えるような、天邪鬼魔王なのだ。
「それとも何? あたしらを召喚出来たからって、言うこと聞かせられるなんて思ってる? ご恩に何でも言うこと聞いちゃいますぅ~と言うとでも? ウンコクサいわね」
「オマケに精神年齢も小学生並と来た」
「何の話? あたしのことバカにした?」
「うんにゃ、キミはとぉーっても、スバラシイなって」
「嘘つけ! あたしが仕立てたドレス、着ようともしないクセに! なんで人間の学校のローブずっと着てんのよ!」
「ボクは厨二病なんてとっくに卒業してるんだ! コスプレでもない限りゴシックロリータなんて着ない!」
「しょんべんクサいガキ体型を強調するから着たくないんでしょ!?」
「爆破!」
「ぎゃあああああああああああああっ!!?」
うん、言うこと聞かない悪い子には爆破のオシオキだよ。だいたい、ボクがゴスロリ着たらゴシックドレス着ているキミと間違いなくキャラが被る。
誰だい? 体格違うから被らないって言ったの? 爆散したいのかい?
「まァったくゥ、ニコバルトカリはこれだからヤだわァ」
「っ、ソルフェリーノ――ッ! 何よ、このあたしに文句あンの?」
獄魔王ソルフェリーノが、正面の巨大な扉をくぐって玉座の間へと戻ってくる。カナトに打ち負けた傷を癒すために使った魔力は、まだ回復しきれていないようだ。
「もォっと、全身に閉じ込められたラヴを解放すれば、可愛げあるのに、残念ねぇ」
「あ? 今あんたなンつったのよ? ラヴ? ハッ、そんなんだからお飾り筋肉のあんたはゴミのようにぶっとばされンのよ」
「んなっ!」
「どうせ頭脳がシモについてる筋肉の塊。考えてることだってち○こしゃぶるかま○こ舐めるか程度なんでしょうに。ラヴとかよさげな言葉使っても、結局性欲じゃない」
「ちょォっとォ! この全身から滾り、かつ世界を包む(予定)のラヴを馬鹿にすることだけは許さないし許されないわよォッ!」
ぎゃいのぎゃいの。玉座でおやつ食べるボクを前に、やかましいったらありゃしない。と言うか、食事中なんだけど。放送禁止用語まで飛ばさないでほしいな。
「と言うかキミたち、結構キャラ被るよね」
「なんでそんな風に見えるのよォッ!?」
「眼球腐ってるんじゃないの!?」
全く、仲がいいんだか悪いんだか。ボクが聖徳太子並の聞き分け能力を持ってなきゃ、重なって双方とも聞きとれなかった。
「――ともかく。ニコバルトカリ。キミは、ボク言うまで戦ったりしちゃいけないよ。でなきゃおしりペンペンだからね?」
ボクは踊魔王へと釘を刺す。ほとんど効果が無い事は分かっておきながらも、である。
こう言えば絶対に勝手をやらかす、とは言え、やってもいいとか言うと嬉々としてやりに行く程度にはボクの意向を理解しているのだから質が悪い。
かといって、注意しないわけにもいかず――このボクをもってしても、このにっちもさっちも行かない加減には本当に手を焼く。
――全く、そう言うところ。少しカナトに似ている気がするよ。




