誘導
前回は戦闘シーンが少なかった雰囲気があるので戦闘シーンを少し増やして見ました。これから戦闘シーンはどんどん増えて行くと思います。
―――――ユウたち離脱組はリュウたち残留組たちが戦っている地域から必死に離れていた。指揮はユウが取っている...。
「全員急いでくれ!!リュウさんたちの作った時間を無駄にするな...!」
その言葉に全員が頷きスピードを上げその後魔物に襲われることなく拠点のある【練馬区域】に到着した。
練馬区域のような人間の居住区域は結界魔法を用いて囲まれていて、強力な魔物でもない限り魔物が入り込めないようになっている。強力な力を持つ魔物は自らのテリトリーを持っているため、めったに人間の居住区に入ることはない。そのため魔物に襲われる事はほとんどない。
練馬区域は1度魔物に破壊された練馬区を奪還して復興したものだ。今では背丈は低めだがビルも複数建っている。その内の一つがグラジオラスの拠点だ。
現在ではリーダーのリュウを含め十数名が不在のグラジオラスが拠点の広間に集まっている。
ユウは重苦しい雰囲気を放っているグラジオラスメンバーたちを見て口を開いた。
「問題はこれからどうするかだ.....」
ユウは頭を抱える。
「助けに行くにしても無策で行くのは危険すぎる...」
通常の二倍以上の大きさを持った獅子型...かなり戦闘能力も高い印象を受けた...。何も考えずに救助に向かうのは無謀すぎる。
「どうすりゃいいんだ畜生...」
そこで何かに気が付いたかのように顔を上げ
「セラ、リンカ、ミナキ、シスミ、ちょっと来てくれ!」
そう言って4人を集めた。
「どうしたんだい?」
そう聞いてきたのは金髪に銀色の瞳を持った、背の高い二十歳前後で長髪を後ろでまとめている青年ミナキだ。思慮深い性格でユウの良き相談相手でもある。
「これからの方針でも決めるのー?」
少し離れた場所から近づいてきたの は翠色の瞳で紅葉した葉のように鮮やかな色の髪をショートカットにまとめた小柄な少女リンカだ。周りの重苦しい雰囲気を察してか普段の活発さはなりを潜めている。
「......リュウさんたちを......助けに行くん......ですか...?」
恐る恐ると言った感じで言葉を発したのは深海のように暗い藍色をした髪を目元あたりまで伸ばした少女シスミだ。髪の間から金色の瞳がユウを見ていた。
「まあ手っ取り早く言えばそうだ」
とユウは答えた。その答えに今度はミナキが問う。
「具体的にはどうするんだい?」
「まずここにいる5人でリュウさんたちを救助しに行く」
「5人だけで大丈夫なんですか?」
セラが少し不安そうに尋ねた。
「むしろ5人くらいの人数の方がいいんだと思うよ」
セラの言葉にミナキが答えた。その答えに頷きながらユウは続けた。
「人数が多すぎると獅子型とか他の魔物に見つかる危険性があるからな。救助は少数でやる」
「でも......怪我人がたくさんいたら...どう......するん...ですか...?」
シスミの質問にユウは答える。
「そこで今回はリンカに助けてもらう」
「わたしー?」
リンカは首をかしげている。その様子を見てユウがリンカに聞く。
「リンカ、お前の魔法は植物を生成もしくは操る魔法だよな?」
「うん」
そこでさらにユウが質問を続けた。
「そこで頼みたいんだが怪我人を何人か運べるだけの大きさのゴーレムを植物で作れるか?」
リンカは薄い胸を張って答えた。
「できるよー!でもゴーレム操ってる間はそれ以外何も出来ないから魔物来たらやられちゃうよ?」
「いやゴーレムが出来るならそれで充分だ」
その言葉を聞いてリンカは首をかしげているがミナキはなぜリンカ以外の3人が集められたか納得したように言った。
「なるほどそこで僕達がリンカの護衛をするわけだ」
ユウは「その通り」と答え、こう補足した。
「あの獅子型が出たら俺が引き付けつつ適当に撒いて逃げるから他の3人は獅子型以外の魔物が来たら迎撃してくれ」
「それだとユウさんが危険すぎませんか?」
セラが聞いてくるがユウが「大丈夫だ」と答えたのでセラは渋々納得した。ユウはリンカの方に目を向け聞いた
「リンカ頼めるか?」
リンカが「いいよー!」と快諾したのでグラジオラス全員に今の話を伝え「もしリュウさんたちが戻ったら連絡してくれ」と言い、救助に向かうこととなった。多少の反対や自分も行くと言う者もいたが人数が増えると危険が高まることなどを説明して丸め込んだ。
拠点を出る前にユウは武器庫により
「これを持ってくか...」
投槍を数本ベルトについているホルダーに入れた。
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―――――――ユウたちは獅子型との戦闘地点付近まで戻ってきていた。廃ビル群があり少し見通しが悪い。魔力で身体強化し走りながらあたりを見回すが今は特におかしいものは無い。
「戦闘音は聞こえないね。もうリュウさんたちは離脱したのかな」
ミナキが言うがユウはなぜか嫌な予感がしていた。
「少し...急ごう」
ユウはそう言い速度を上げたのでほかの4人も速度を上げついてくる。
そして獅子型との戦闘地点についた時に5人全員が自らの目を疑った。
「なに......これ......」
シスミが口に手をあて掠れたような声を出した。他の4人も似たような反応だった。それも無理はないだろう。獅子型との戦闘地点にあったのは残留組、つまりリュウたちの死体だったのだから...。ユウは動揺を押し殺した声で4人に指示を出した。
「全員で手分けしてエンブレムを回収その後帰投する...」
エンブレムは団員証のようなものでドッグタグのような役割を持つ。ちなみにグラジオラスのエンブレムはその名の由来の花を象ったものだ。
4人はまだ動揺が抜けきっていないのか素直に指示に従った。ユウはリュウの死体に歩み寄りエンブレムを回収し物言わぬリュウに囁いた。
「リュウさん...あんたが死んでどうすんだよ...これからどうすりゃいいんだよ...」
リュウがユウを気にかけていたようにユウもまたリュウのことを慕っていた。ユウは涙を堪えるかのように顔を上げ他のメンバーのエンブレムを回収しに行った。他の4人は涙を流す者もいればユウと同じく悲しみに耐えるかのようにエンブレムの回収を続ける者もいた。
ちょうど全員のエンブレムを回収し終えたとき近くの数十m先の瓦礫の山が崩れる音がした。そこにはあの獅子型が立っていた。リュウたちが付けたのだろう、幾つか傷があった。こちらに気が付いたのか既に臨戦態勢に入っている。
「獅子型!?戻ってきたのか!全員スキを見て離脱して拠点に戻れ!!予定通り俺が引きつける!!」
『了解!』
ユウはベルトのホルダーから投槍を一本取り出し電撃を纏わせ投擲した。投槍は雷のような轟音を発しながら獅子型まで飛んでいく。魔力強化された腕力+電撃を纏ったために獅子型ですら反応できないほどのスピードだった。
「グルゥァァァア!!」
獅子型の右足に直撃する。普通の獅子型なら感電して即死、もしくは麻痺して動けなくなる攻撃だがこの獅子型は体格が大きすぎるためかそれとも他の獅子型より魔法に耐性があるのかこれといってダメージを受けている印象はなかった。
だがユウの目的は達成できた。獅子型が攻撃を行ったユウに注意を向けたからだ。
「今だ!!」
ユウが叫ぶとユウ以外の全員が離脱し、ユウと獅子型だけが残った。ユウは怒りを噛み殺しながら獅子型と対峙した。
(あいつがリュウさんを...!いや今は余計なことを考えていたら殺られる!)
「グゥォォォォォォォ!!!」
獅子型は数十mの距離を一瞬にして詰め飛び掛ってきた。
「くっ!」
すんでの所で攻撃を回避しもう一度投槍を投げる。
「喰らえ!!」
「グゥァァァ!!」
直撃はしているが獅子型は苛立った声を上げるだけでやはりダメージらしいダメージはなさそうだ。そこでユウは
「こっちだデカブツ!!」
右手を獅子型に向けて電撃を放ちながらセラたちが離脱した方と逆方向の廃ビル群まで誘導を始めた。廃ビル群は道が入り組んでいて身を隠す場所ための障害物も多数あった。ユウは獅子型の目を欺きながら廃ビル群を駆け回り瓦礫の山の一つに身を隠した。息を殺しながら獅子型が通り過ぎるのを待つ。
「このまま撒ければいいんだけどな...」
獅子型が近づいてくる...。ユウは頼むから通り過ぎてくれと祈るように息を潜める。獅子型はあたりを見回し周囲の匂いを探っている。
「.........グルゥァァァ!!!」
しかしユウの祈りも虚しく獅子型に気付かれ、隠れていた瓦礫の山が破壊される。ユウも衝撃で十m近く吹き飛ばされた。
「あぁ...クソやっぱりダメか!!」
魔力により身体強化を施していたのでさほどダメージはない。ユウはすぐさま立ち上がり誘導を再開する。背後からの攻撃を躱し、時に反撃しながら廃墟の街を駆ける。この街は任務の時に何度も通って地形を完全に記憶している。そのため袋小路に迷い込む事はない。しかしこのままではジリ貧だった。
「このままじゃこっちの体力と魔力が切れて追いつかれちまう......いや...確かこの辺に......」
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―――――セラたち4人は離脱した後予定通り拠点までの道のりを戻って来ていた。
「なんで...あんなことに...」
シスミが暗い雰囲気を出しながらそう呟いた。その言葉に他の3人も沈痛な表情を浮かべるがミナキは毅然とした態度で言った。
「考えるのはあとだよ...ユウの指示に従って拠点に戻ろう。今回のことを他のメンバーにも報告しなきゃね...」
「そう...ですね。でもユウさんは大丈夫でしょうか...?」
セラはミナキの発言に納得しつつユウのことを案じているようだ。
「ユウくんなら大丈夫!きっと無事だよ!」
リンカは普段通りに活発な声を出すが他の3人は空元気だということに気が付いていた。しかしセラはリンカに同意するように言った。
「そうですね。あのユウさんですし...」
「今はユウを信じるしかない。僕たちは早く帰投してユウの帰りを待とう。」
4人は目を合わせて頷きスピードを上げ拠点に向かった。
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―――――ユウは《とある場所》に獅子型を誘導しようとしていた。
「確かこの道を左に...」
ユウは獅子型と戦闘を開始した地点から、渋谷まで誘導を続けていた。
「あった!この交差点だ!!」
ユウが獅子型を誘導してやってきたのは渋谷スクランブル交差点だ。CTVが発生してからすっかり荒廃してしまい道路にも亀裂が入っているここが誘導したい場所だった。
しかし目的地まで誘導できたことで油断したのか、獅子型の攻撃を受けてしまう。
「グゥォォォ!!」
「ぐっ!!」
背中に爪がかすった。魔力による身体強化を施していても肉が少し抉れるだけのダメージがあった。意識が飛びかけるがなんとか持ち直し追撃を回避する。そして...
「追いかけっこはこれで終わりだ...」
交差点の中心まで来ていた獅子型の足元に威力を高めた電撃を放った。アスファルトに入った亀裂がさらに広がり大きな音を立てて地面が陥没する。ユウはすぐさま飛び退り落下を免れた。獅子型は地下商店街を突き破り、さらにその下の地下鉄の線路まで落ちていく。
「ガァァァァ!!」
しかし驚いたことに獅子型は落ちていく瓦礫を踏み台にしながら登って来ようとしてくる。
「終わりだって言っただろ?」
ユウは持ってきていた投槍の残りの全てに電撃を纏わせ獅子型に投げつけた。
「ガァ!?」
獅子型の動きが止まり再度重力に引かれ落ちていく。落ちていった穴は暗く獅子型の姿は見えない。仕留める事はは出来てはいないだろうがダメージは与えられた。これで足止めはできるだろう。
「......俺も...帰らなきゃな...」
気が付けば太陽が沈みかけていた。ユウは上着の一部を裂き包帯の様にして傷を塞いだ。傷付いた体を引きずりながらユウは帰路についた。途中魔物が数体いたが幸いユウが先に気付き身を隠して進んだことで戦闘にならずに済んだ。
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―――――ユウが拠点に着く頃には日が沈みかなり暗くなってからだった。
「ユウさん!大丈夫ですか!?」
セラがボロボロのユウを見て心配と驚きが混じったような声を上げた。
「おぉ...セラか。他の皆は?」
「そんなことより治療が先です!!」
セラはユウの言葉を無視しユウを医務室まで運んだ。
「やぁユウ君。リュウさんたちの事はセラ君から聞いたよ...いや、それより今は君の怪我の治療だ」
医務室で待っていたのは薄く紫がかったロングヘアでスタイルのいい妙齢の女性だった。メガネをかけていてその奥の翠色の瞳は知的な雰囲気を放っている。
「レンカさんすみません、お願いします」
ユウにレンカと呼ばれた彼女は治癒魔法が使える。ちなみにリンカの姉だ。凄腕の医者でもある。ユウの傷を見てレンカはセラに言った。
「これは少し酷いね。良くここまで戻ってこれたものだ...。私の魔法でも少し時間がかかる......セラ君、他のメンバーに今後の事などの細かい話し合いは明日だと伝えてくれ。どのみちユウ君がいなくては話ができないからね」
「なら治療は後回しで話し合いを...」
「悪いが君は直ぐに治療を受けてもらう。これは医者としての命令だ。それに君も疲労が溜まって限界だろう?」
「......わかりました」
ユウは少し納得がいかないようだが自分の傷が深いのも事実なので承諾した。
「それではセラ君頼んだよ」
「わかりました」
セラは医務室を出てメンバーが集まっている広間に向かった。
「さて治療を始めよう。疲れただろう?このまま眠ってくれていい。治療は済ませておく。」
レンカの声を聞き既に限界だったユウは意識を手放した。
魔法感染2話を読んで頂きありがとうございます。誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると幸いです。感想などいただけると嬉しいです。