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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第三章
49/73

3-1

◆第十週 ?日目 ?源日◆


 何者か等が俺の存在を求めている――そんな気がして、促される様に目を覚ます。

 世界は闇に包まれていた。

 薄暗いどころではない。

 完全な闇だ。


 いや、貝殻(ベッド)に入って寝ているのだから、蓋を閉じていれば外の光は入ってこないだろう、とかそういうレベルではなかった。

 【空間視】を使用しても、本当に何も見えなかった。

 いったいどういう事だ?


 ――はっ、まさかここは死の国!?

 俺は死んでしまったのか?

 そりゃ確かに重傷だったが、死ぬほどではなかったように思……いや、あのキマイラもどきとの戦いは数十回ぐらい死んでいてもおかしくない激戦だったから、死んでいてもおかしくないのか。


 そうか、俺は死んだのか。

 なら仕方ないな。

 諦めよう。


 次に転生した時は、記憶無しで一からまた始めさせてくれ。


 という訳で、お休みこの異世界。

 Zzz……。






◆第十週 ?+1日目 ?源日◆


 やっぱり何者か等が俺の存在を求めている――そんな気がして、また目が覚めた。

 相変わらず世界は闇に包まれていた。


 ……面倒臭そうだな、このループ。

 さっさと切り抜けた方が良さそうだ。


 さて、これは夢だろうか。

 頬を抓ってみる。

 痛くない。

 どうやら夢のようだ。


 完。




◇◆◇◆◇




 ――いや、そうではなくて。


 何だか妙に頭が回らない気がする。

 起き抜けだからとかそういう理由ではないだろう。

 何故なら、俺は寝起きは非常に良い方だからだ。


 というか、前世ではそんな余裕などなかった。

 無防備に寝ていたら、何処からともなく現れるあの人によって容赦なく殺される。

 空中回転肘落としドライビングエルボードロップとかそんな生易しいものではなく、それまで俺の頭があった場所にマジ物の刃物が突き刺さる。

 何度それで枕を買い換える羽目になったか……。


 そんな過去の良い思い出?はとりあえず置いといて。


 危機的意識の高い俺の頭が、寝起きでこんなにもモヤモヤするような事はない。

 となると、原因は外部的要因によるもの。

 もしくはスキルか。


 スキルで考えるなら、真っ先に候補があがるのは【不幸・弱】。

 キマイラもどきとの戦闘では、実は脆弱系だと思われるスキルも一時的にONにして駆使しまくっていたりする。


 【不幸・弱】もその一つで、敢えて自分を不幸にする事で、本来あり得ない何かを呼び込み利用させてもらった。

 たまたま足下が崩れて、倒れた先に鋭く尖った金属片が待ち受けていたり。

 唐突に気流が変化して、キマイラもどきが放った火焔弾の軌道が急に変わったり。


 ほとんどが碌な物ではなかったが、その御陰で金属片という武器を一時的に手に入れたり、火焔弾に巻き込まれたと見せかけて油断を誘えたりしている。


 という様な感じで、戦闘中に色々とON/OFFを繰り返していた。


 戦闘が終了すると、そのままの状態で帰宅して眠りに就いた。

 つまり、現状何がONになっているのか把握していない。


 それらを一々確認するのも面倒なので、全部OFF。


 結果、原因はやはりスキルによるものだった。

 急に世界が開け、寝慣れたあの狭い空間の寝心地がやってくる。


 そこは貝殻(ベッド)の中だった。

 やはり何らかの効果で、色々な感覚が惑わされていたようだ。


 候補にあがったのは【停滞思考】【天涯孤独】【痛覚遮断】の3つ。

 冴えた頭が一瞬でその解答を導き出す。

 そりゃそうだろう。

 以前には無かったのだから、新しく増えたスキルを疑えば良いだけだ。


 【停滞思考】で頭の回転を鈍らされ、【天涯孤独】によって独りぼっちの世界にいると思わされ、【痛覚遮断】で頬の痛みをカットされた。

 また妙なスキルを手に入れたものである。


 一先ず問題が解決したので、貝殻の蓋をパカっと空けて伸びをする。

 その途端、今までにない程の飢餓感が襲い掛かってきた。


 突き動かされる様に、部屋の片隅にこっそり作っていた隠し倉庫を探り、非常食(へそくり)を口に放り込む。

 よく熟成されていて美味かった。

 噛めば噛むほど旨味がどんどん溢れてくるような、これまでにない味覚にやや翻弄されつつも、あっと言う間に非常食の全てを平らげる。


 そこではたと気付く。

 目の前にある食材を口に運んでいる手が、以前見たものとは異なっていた事を。


 それはつまり……。


 ――っと、それを確認する前に、背中に不意打ちを食らった。

 背中から心臓を突き抜けて、ぶすり……などという攻撃ではなく、それはただ俺の身体に抱き付くという行為だった。


 振り向くと、醜悪な顔をした乙女ゴブリン2匹の姿。

 乙女だと分かったのは、俺が2匹の顔と性別を知っていたから――ではない。

 抱き付く前に俺の事を『お師匠さま』と呼んだからだ。

 そんな風に俺を呼ぶのは限られている。


 2匹の乙女ゴブリンは、アクリスとエリアスだった。


 意外に俺への深い情を持っていた2匹の丸い頭を2つあった腕で(ヽヽヽヽヽヽヽ)撫でながら――女の子なのにゴブリンだから髪が無い――俺は別の事を考える。

 2匹の頭は、以前よりも低い場所にあった。

 しかし見た目はまるで変わっていない。

 つまり変わったのは俺だということ。


 予想通り、俺は『存在進化(ランクアップ)』していた。


 体色は赤黒いままで変化無しだが、7歳児程度だった身長は12歳程度まで伸びていた。

 加えて、手の甲から前腕にかけて黄金色の産毛がうっすらと生えており、それは足の甲からも脛にかけてもあった。

 幸いにして胸毛は無かったが、代わりに背毛が。

 爪は無駄に伸びて尖り、口元を確認すると鋭い犬歯。


 見た目の変化はそれだけではなく、全体的に筋肉のボリュームが増え、ずっと気になっていた痩せ体型のお腹はボコリと割れた腹筋があり、見事な胸筋も相成って思わずポーズを獲ってしまったほどだった。


 それと髪。

 赤ん坊の頃は無毛、前回は爽やかな少年ヘアーだったのが、今度は背中まで伸びる長髪に。

 後で確認したところ、何故か天然メッシュも入っていた。


 そして何より違うのが、健全な腕が(ヽヽヽヽヽ)2本あったこと。

 ああ、この腕についてはまた後で考えるとしよう。

 違和感無く使えるみたいなのでこれは助かる。


 前回の『存在進化』だとまだ成長という枠に収まっていたが、今回のは明らかに進化と言った方が早い。

 ざっと実感出来るだけでもスペックは相当あがっているようだった。


 危うく力加減を間違えて、撫でていたゴブリンの頭をぶちゅっと潰してしまうところだったとだけ。

 涙目になったゴブリン2匹の顔が汚い。

 乙女に対し〝顔が汚い〟とはちょっと口が悪すぎるか。


 しかし、《幻魔悪鬼(アルドメキアインプ)覚醒種(アウェイカー)》とは、これまた随分と大層な種族名になったものだ。

 悪魔ではなく悪鬼か。

 ……微妙にランクダウンしてない、か?


 覚醒種というのも初めて聞く。

 何か秘められた力を持っていると考えて良いだろう。

 こう、覚醒したら力が数倍に跳ね上がるとか、限界を越えて覚醒したらもう元に戻れなくなるとか、髪が逆立って金色になるとか、覚醒2や3があるとか。

 ちょっとワクワク感が止まらない。

 俺も男だな。


 スキルや能力の確認は後回しにする。

 いや、メインのスキルだけは先にONにしておく。

 但し、ここ最近は【空間視】に少し頼りすぎていた所為か、アクリス達が抱き付いてきた時にちょっと察知が遅れてしまったので、暫く【空間視】は封印しておく。


 2匹に連れられて居間に向かう。

 そしたら王城にありそうな謁見の間っぽい場所に辿り着いた。


 ――ちょっと待て。

 寝室の隣には居間があったよな?

 いつの間に俺は王城に引っ越した?


 部屋の広さは以前の倍以上。

 内装がガラッと変わり、リリーのためにせっせと作った遊具は何処にも見当たらず、部屋の中央に玉座が。

 その玉座から家の入口方面に向けて毛皮の絨毯が続き、壁には幾つもの燭台が炎を灯している。

 これであと天井が高くて豪華なシャンデリアがぶら下がっていれば、まんま謁見の間だろう。


 そんな予想外の光景に唖然としていると、玉座の隣に立ち、大きな扇を玉座に向けて煽いでいた見覚えの無い女性2人が俺に気付き、驚きの声をあげられた。

 驚きというか、悲鳴。

 そして2人は顔を赤らめて思い切り顔を背ける。


 そこで俺はようやく気が付いた。

 『存在進化』したことで服が千切れ飛び、全裸になっていたことを。

 股間にある立派なそれを惜しげもなく曝していた事を。


 実は前回『存在進化』した時も、抱き付いてきたクズハが後でそれに気付き盛大に悲鳴をあげていたりする。

 あの時はほぼ見た目同い年で、しかもまだ互いに子供だったのでその悲鳴は可愛らしいものがあったのだが――7歳なのに意外とおませだよな。でも一緒に風呂に入ったりしたが――先程2人から聞いた悲鳴は高い叫声だった。

 それなのに、その後チラチラとこちらを盗み見るのは、さて何故だろうな。


 少し悩み……しかし、隠す物を取りに部屋へと戻る前に、こちらへと振り向いた玉座に座っていた人物を見て――というか回転式なのか、その玉座。どういう玉座だ――俺はまた驚く事になる。

 そこにはラミーナが座っていた。


 理解が追いつかない。

 ラミーナが玉座に座っていて、見知らぬ2人が大きな扇を煽いでいたりと、俺が寝ている間にいったい何が起きた?


 ラミーナは俺を見ると玉座を飛びだし抱き付いてきた。

 抱き付くと同時にお腹へナイフを突き刺してきた。


 ナイフの切っ先がお腹に触れた瞬間、内蔵を締め上げてナイフの軌道上から待避させると同時に、反射で腕を一振り。

 ズパンッという空気を殴る音に遅れてラミーナの身体が吹っ飛んだ。


 走り寄ってくる速度以上の速さで来た道を帰る事となったラミーナの身体が玉座にぶちあがり、玉座が崩壊する。


 おっと、手加減したつもりなのだが予想以上の威力が。

 まぁ別に良いか。

 俺を殺そうとしたのだから自業自得だ。


 とりあえず、嗤って誤魔化す。

 そしたら全員が怯えた。


 アクリスとエリアスの二匹は互いに抱き合い、緑色の顔を真っ青にして余計に醜悪な顔になっていた。

 玉座の側にいた謎の女性二人のうち片方はペタンを座り込み、股の間から温かい何かを放出し――えっと、目を背けた方が良いのか?――その濡れた地面へと向けて、気絶したもう一人の女性がバシャッと倒れ込む。

 更にその二人の向こう、見通しの良くなった玉座の向こうに隠れていた槍持ちのコボルトが、直立不動のまま全身から大量の汗を流し――あれ、見覚えがあるな。確か倭ノ介だったか――汗も滴る良い男犬と化している。


 ……なるほど、彼等にとってはもう俺は理外の力を持った化け物でしかないのか、と苦笑する。


 そしたらもっとビビられた。

 具体的には、アクリスとエリアスは一目散に逃げ、倭ノ介は仰向けになって無防備なお腹を曝していた。

 いくら何でもそこまで怖がる事はないだろうに。


 暫くすると、玉座の破壊音と逃げた二匹からの情報で、家の中から(ヽヽヽヽヽ)ゾクゾクと知っている顔がやってきた。

 もちろん彼等は全員戦々恐々としていたが、『俺だよ、俺』などという詐欺じみた台詞で無害を主張し続ける事で、何とか怯えの色を消す事に成功する。

 若干一名、とある淫香を放つ水溜まりの中で羞恥な格好で倒れている例の女性二人に気付き股間を膨らませて興奮していた老人がいたが、あれは例外だろう。


 流石にいたたまれなくなったので、女性二人を一端隣の部屋へと運び、着ている物を適当に引っぺがして身を軽く清め貝殻(ベッド)の上に放り込んでおく。

 異臭を放つ衣服は隠し倉庫へ隠す。

 こっそりコレクションに加える予定だとか、そんな計画的犯行では決してない。

 ハンカチと一緒だ、と言えば理解してくれるだろうか?


 謁見の間と化していた居間に戻ると、ラミーナが復活していた。

 そして、ラミーナの前で全員が跪き頭を垂れていた。


 何となく状況を察する。

 相当なダメージを受けた筈なのにピンピンしていたラミーナは――そういえば蛇女鬼(ラミア)は【破邪の癒し手】を持っていたんだったか――両手を広げ、笑顔で俺を迎え入れようとする。

 俺も人の良い笑顔を浮かべ、ラミーナへとゆっくり歩み寄り……。


 ガシッとアイアンクローを決めた。


 身長差があったので持ち上げる事は叶わなかったが――目の前に豊満な胸がス○イムのように震えていたと言えば分かるだろうか?――ラミーナの身体を後ろに倒し、海老剃りならぬ蛇剃りにする。

 ラミーナの下半身は蛇なので人間のようにバランスを崩す事はなかった。


 ただ、きっとブリッジよりも辛い体勢だっただろう。

 顔を掴んでいたので完全に倒れる事も出来ず、関節が存在しない下半身の筋肉がメキメキと悲鳴をあげても逃げる事も出来ない。

 それなのに『妾は殺したいほどお主を愛しておるぞよ』とか、この女は何を言ってるのか本当によく分からなかった。


 とりあえず、暫くの間ラミーナの叫声が謁見の間に響き渡ったとだけ。


 アイアンクローのお仕置き後は、長い下半身を一人では決して解けない結び方で結んで天井から吊した。

 本当は更に下で焚き火を炊いて、火攻めと煙攻めも行いたかったが、そこは流石に自重しておく。

 初っ端からフルコースを体験させるのも何だしな。

 こういうのは小出しの方が色んな意味で面白い。





蛇女「く、はぁ……これは、たまらんのう」

悪魔「? もう一発いっとくか?」

蛇女「主様は底なしかや。頼めるかえ?」

悪魔「ああ……(やはりMか。殴られて喜ぶとは)」

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