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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第二章
32/73

2-17

◆第七週 五日目 風源日◆


 泥水が広がっている空間を見て、俺は一人ほくそ笑む。


 昨日はあの後、大量の水棲系モンスターも一緒に現れ、暫く阿鼻叫喚の絵図が描かれたが、既に事態は終息していた。

 何処かの水源と繋がってしまった穴は既に塞ぎ、水面は静かに揺蕩っている。

 大規模工事はまだ終わりではないし、予定よりも早く繋がったが、何も問題無い。


 むしろ2日目で水源が確保出来たのは幸運だ。


 状況が遷移するのはもう少し時間がかかるので、水場を後にする。

 大広間に戻ると、昨日開催した宴で食い倒れてそのまま眠った者達で埋め尽くされていた。

 予想以上の数で攻めてきた水棲系モンスターが、そのまま宴の食材へと変わったからだ。


 不可思議で混沌とした歪な彩りをした海老型モンスター、アナザーシュリンプは、浅い水深の底を尾で叩き、勢いよく水面の上に跳び出して攻撃してきた。

 拳ぐらいの大きさでも、その身体から繰り出される尻尾アタックは大の大人でも軽々と弾き飛ばされるほど強く、最初の奇襲で何人ものコボルト達がやられてしまうほど。

 だが動きが単調なので、跳び上がった所に石を投げつければ容易く倒せた。


 続いて現れた巨大蛞蝓(なめくじ)アクエリアンスラッグは、ノソノソと水場の淵から登ってきたかと思うといきなり強烈な水弾をぶっ放してきた。

 最初は身体の何処かに溜めていた水を吐き出しているのかと思ったが、水弾は尽きる事が無く、逃げ惑うゴブリン達を正確に次々と昏倒させていく。

 やはりゴブリンは弱い。

 救援で駆けつけたコボルト達が最初は機動力で圧倒して仕留めていたのだが、最後に現れたモンスターとの相性で再び戦線は劣勢となる。


 水面にプカッと浮かんだ、六角形の模様が描かれた丸い甲羅。

 最初はレイククラブか?と思ったが、それらが陸に上がると違う事がすぐに分かる。


 ウォーキッシュタートル。

 レイククラブよりも堅い甲羅を持つ、とても獰猛な性格をしている戦上手の肉食獣亀。

 それが一気に十数匹も上陸した瞬間、コボルトとゴブリン達の顔が一斉に引き攣った。


 急遽伝令が走り、バグベア達へ救援要請。

 ウォーキッシュタートルとまともに殺りあえるのは、俺を除けばパワーに秀でているバグベア達しかいないのだとか。


 戦線は膠着した。


 遠距離攻撃合戦を行うゴブリン集団、VS、アクエリアンスラッグ集団。

 ウォーキッシュタートルが戦線に現れた事でアクエリアンスラッグ達は壁へと登り陸から距離を取ってしまったので、遠距離攻撃が可能なゴブリン達が対処しなければならなくなった。


 ゴブリン達は数で攻める。

 アクエリアンスラッグ達は質で攻める。


 しかし、アクエリアンスラッグ達は攻撃を受けてもすぐに水場へと逃げ込み体力を回復させる事が出来るので、なかなか数が減っていかない。

 そして次々と負傷するゴブリン達は仲間の手によってずるずると安全な場所へ引き摺られていった後は、二度と戦場へは帰ってこない。

 時間稼ぎにしかならなかった。

 

 近接戦闘を繰り広げるコボルト/バグベア連合、VS、アナザーシュリンプ/ウォーキッシュタートル連合の戦いも、こちらが劣勢だった。

 バグベア達が救援に駆けつけてきたは良いものの、十数匹ものウォーキッシュタートルを簡単に仕留められる訳ではなく、むしろ全く仕留められずに現状維持が精々といったところ。

 互いに守りを固めてほとんど動きがない。


 そんな壁がある御陰で、コボルトとアナザーシュリンプも攻勢に出られないでいた。

 単身で突っ込めば敵陣で袋だたきにあい、徒党を組んで攻めようにも互いの後方から放たれ続ける弾幕のせいでそれはなかなか許されない。

 つまり3種族連合同士のこの戦の勝敗は、そのままでいけばゴブリン達が劣勢を強いられている事でこちらの負けがほぼ決まっていた。


 ――俺?

 勿論、頑張っていたとも。


 俺はダンジョンの外に大きな岩を取りに行っていた。

 何故なら、敵の侵入経路を塞がないと延々と敵モンスターは現れ続けるからだ。

 しかし困った事に、手頃な大きさの岩がなかなか見つからなくて少し困った。

 ちなみに、ようやく岩を見つけて帰ってきた時の状況が、先程の説明である。


 後はお察しの通り、俺達が勝った。

 俺ツエーである。


 ウォーキッシュタートルの様な堅い敵には〝徹し〟が良く効く。

 遠くの壁に貼り付いていたアクエリアンスラッグは、【機動力強化】【疾風走】【一騎突貫】を発動させた状態で壁走りし、【薙ぎ払い】で一掃。

 最後に残ったアナザーシュリンプは、地道に皆で【投擲】して――【集気】で気っぽいモノを集めて【練気】で石に練り付けてみたら威力がちょっとだけあがった――片付けていった。


 俺が戦線に加わるとアッサリ決着が着いてしまった事に皆が心底驚愕し、俺に感謝と同時に畏怖の念を込めた視線を向けてくる。

 器用なモノだと思うが、かなり鬱陶しい。


 というか、原因は俺にあるのでもう少し責めて欲しかった。

 確実に十人は帰らぬ者となってしまっているのだ。


 正直、かなり心苦しかった。

 ほとんど付き合いの無かった相手ではあっても、隣人として認めてしまった者達が亡くなったのだ。


 人と、モンスターと、俺と。

 まだその境界がうまく整理し切れていないところに訪れた遠くもあり近くもあった者達の死に対し、俺はどう思えば良いのだろうか?

 それが分からない。

 ただ、俺の我が儘に巻き込んでしまい命を散らせてしまった彼等の同胞達の心境まで分からない訳では無い。


 流石に悪いと思ったので、強引に宴を開催する。

 故人を偲ばせつつ、決して暗い雰囲気にならないよう全員を発散させた。


 そんなもので償いになるとは思わないが――っと思っていたのだが、予想以上にうまくいってしまった。


 どうやら彼等にとって死はかなり身近にあるものらしい。

 死んでしまった者達はそっちのけで、思い切り宴を楽しんでいた。


 それが昨日の夜から明け方にかけてのこと。

 騒ぎに騒ぎまくったその成れの果てが今ここにあった。


 ――しかし、こいつらよく寝るな。


 昨日は夜通し騒ぎまくったとはいえ、老若男女全員が爆睡とは。

 恐らく、アクエリアンスラッグに酒精が混じっていたかしたのだろう。

 アクエリアンスラッグからは酒の匂いっぽい香りがしていたし。


 俺は流石に生では喰いたくなかったのでしっかり焼いてから喰ったのだが、俺以外の者は生で喰っていた。

 今度、俺もちょっと生でチャレンジしてみようと心に誓う。


 それはそれとして。

 全員がのびているので、折角だからコッソリ奴隷達の様子でも見に行こうと思う。


 この前は他の奴等がいたので色々と(ヽヽヽ)出来なかった。

 チャンスだ。


 俺は周囲を確認した後、いそいそと奴隷部屋へと向かう。


 最初に向かうのはコボルト集落。

 途中、綺麗な水が入っている水瓶と拭布を数枚拝借。

 そう言えば【蛇毒生成】スキルがあるんだったな。

 もしもの場合に備えて、証拠隠滅用の毒薬でも作っておく。


 奴隷部屋に辿り着く前に、女性達を発見する。

 やはり昨日の宴でしこたま使われたようである。


 彼女達は全身を穢されたままの姿で床に横たわっていた。

 悲惨過ぎる。

 胸には噛み痕が残り、直視してはいけない場所もかなり酷い色になっている。

 衣服や毛布は見当たらず、しかも寒い部屋に放置されたまま。

 そんな状態で捨て置かれたら、風邪を引いてしまう――を通り越して死んでしまうだろうに。


 そんな彼女達を一人ずつ介抱していく。

 必然として女性特有のやわっこい肌の隅々まで触れる事になったが、全然嬉しくなかった。


 真っ先に顔を綺麗に拭ってみるも、目が完全に死んでいるので死体じみて却って恐怖を感じてしまう。

 例え美人でも、感情の色が無い瞳と感情が壊れて死んだ瞳とではこうも違うものなのかと改めて実感する。


 なお、1人はお腹を大きくしていた。

 それが誰の子なのか――生まれてくる子供の種族が何であるかは考えないようにする。


 身体を綺麗にした後は風邪を引いてしまわないように布でくるみ――既に手遅れの様な気もするが――彼女達をお姫様抱っこして部屋へと連れて行く。


 ふと、何で俺はこんな事をしているのだろう?と思った。

 恐らく見ていられなかったからだろう。

 昔は俺も人間だったので、道徳的に見過ごせなかったのだ。


 本当なら助けてやりたいが……果たして、毒で楽にしてやるのは彼女達を助ける事になるのだろうか?


 答えのないまま、全員の移送が終わる。

 部屋には粗末なモノを出しっぱなしのコボルト達がいたが、作業中に(ヽヽヽヽ)起きられても困るので外へと放り出す。

 念の為、部屋の入口も塞ぐ。


 さて、5人か――。

 全員となると、やはり結構な重労働になるだろうな。


 しかし俺はやると決めた。


 躊躇はしない。


 最初のターゲットは、見た目で一番若い女性を選ぶ。

 推定年齢は、恐らく十代半ば。

 女性というより少女。

 5人の中で一番小柄であり、不健康な毎日を送っているのに肌に一番艶があった。

 恐らく、若い方から始めていった方が色々と具合が良いと思われるので、まずは彼女から毒牙にかける。


 俺は少女の裸体にゆっくりと触れた。




[リトちゃんはスキル【料理】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【薬草摘み】を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《下級調理士(ノーヴィス・コック)》を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《調合士見習いアマチュア・ブレンダー》を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【地図生成】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【記憶力上昇】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【方向音痴】を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《地図生成士(マップクリエイター)》を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【薬鑑定】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【回復効果上昇】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【道具鑑定】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【錬金術】を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《薬鑑定士見習いアマチュア・ドラッグアプライサー》を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《道具鑑定士見習いアマチュア・アイテムアプライサー》を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《錬金術士見習いアマチュア・アルケミスト》を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【敏感肌】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【雷光耐性】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【体内魔力制御】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【外界魔力収集】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【治癒ノ領域】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【信仰心喪失】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【〈カーウェル皇国〉文字筆記】を対象よりスティール]

[リトちゃんは魔法【簡易治療・弱】を対象よりスティール]

[リトちゃんは魔法【再生力強化・弱】を対象よりスティール]

[リトちゃんは魔法【慈悲の光】を対象よりスティール]

[リトちゃんは魔法【光弾】を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《治療法術士(ヒールウィザード)》を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《雷光法術士見習いアプレンティス・シャイニングウィザード》を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【栽培】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【収穫】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【裁縫】を対象よりスティール]

[リトちゃんはスキル【危険察知】を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《農夫(ファーマー)》を対象よりスティール]

[リトちゃんは職業《下級裁縫士ノーヴィス・ウェーバー》を対象よりスティール]





 ご馳走様でした。


 ――いや、別にそういう意味で言った訳では無い。


 勘違いしている者がいるかも知れないので一応説明しておく。

 俺は彼女達に対し、子供には決して言えない大人な事(ヽヽヽヽ)をした訳では無い。

 何度も何度も繰り返し女性達の身体を突いたのは確かだが、その突きは卑猥な表現に属するものではない。


 文字通り、(つつ)いていただけである。

 つついて、つついて、つつきまくった。


 それはもう大変な重労働だった。

 職業のスティールに成功する確率はとても低い。

 そのアタリを引くまで、俺はただひすらに女性達の裸体をつついていた――だけではもちろんない。


 俺の持つチート級スキル【ライフスティール】は、相手から体力を奪う。

 つつけばつつくほど対象は衰弱していく。

 それはつまり、やり過ぎれば対象を殺しかねないというリスクも負っている。

 もしかしたら対象の体力が一定値以下だと効果を発揮しないという可能性もあるのだが、流石に彼女達を使ってその確認を行おうとは思わない。


 それ以前に、彼女達は最初からかなり衰弱していた。

 故に俺は、女性達の一挙手一投足をつぶさに確認しながら――ほっぺた、脇腹、胸、太腿、足裏など、身体のどこに触れてもほとんど反応を見せてくれない彼女達の体調に気を使いながら、つつく必要があった。


 だから、彼女達の中に【簡易治療・弱】や【再生力強化・弱】などの、種族問わず体力を回復させる事の出来る回復魔法の使い手がいたのはとても幸運だった。

 アクティブスキル【破邪の癒し手】ではモンスターしか回復出来ないのは確認済みだったので、もしその魔法をスティール出来なければ、俺は当初の目的の半分も達成出来なかっただろう。

 ようやくスキル【不幸・弱】の爆鎖から抜け出す事が出来たか?


 兎にも角にも、遠慮する必要がなくなった俺は、彼女達にひたすら百烈拳ならぬ百烈つつきをしまくった。

 つつきまくりながら魔法を使って彼女達の体力を回復した。

 体力とスキルと魔法と職業を奪って、代わりに俺が魔力っぽい何かを消費して彼女達の体力を回復する。

 等価交換……からはかなりかけ離れた暴利ではあるが、心が壊れている彼女達にはもはや無用の長物となっているそれらを俺が有効活用するため、徴収させて貰った。


 勿論、この恩はいつか何らかの形で彼女達に返す予定である。

 具体的に言えば、既に三種族の長老達に要求済である生活環境の向上や、待遇の改善。

 可能であれば、心の方もどうにかしてやるつもりだ。


 もしかしたらそういうスキルや魔法があるかも知れない。

 彼女達から受け取ったそれらを踏み台にして俺はもっと強くなる。

 俺が強くなればなるほど、いつかどこかでそれに巡り会う可能性も高くなる。


 一方的で勝手な言い分だが、今の俺が彼女達を真に助ける術はそれぐらいしか思い付かない。


 力尽くで三種族から彼女達の身柄を解放する事は可能だろう。

 だがそれをしても彼女達はハッピーエンドには絶対に至らない。

 俺が彼女達を養っても何も解決しない。

 何処かの街に連れて行っても、心が壊れた彼女達が幸せになるとは到底思えない。


 心が壊れた時点で彼女達は既にほぼ詰んでいる。

 彼女達が救われる道は、俺の持っているスキルの可能性に賭けるか……それとも死か。

 楽にしてやるために毒まで作ってみたが――その覚悟は残念ながら俺には持てなかった。


 故に、俺は彼女達から色々と頂いただけで、他には何もしてない。

 身綺麗にした無防備の女性5人と密室の中にいたので、そのうち肉体的なアレの方にも徐々に興味が復活してきたが――前世では俺も健全な一男子だったばかりなので、それは仕方のない事だろう――そもそも今の俺は7歳児の子供未満の身体。

 それ以前に、あまりに彼女達が可哀想で、それでいて背徳的すぎて理性が圧勝。

 スキル効果で体力全快状態ではあったが、作業を終えた時には精神が物凄く疲弊しており、もはや何もやる気が起きなかった。


 本当なら他二種族が抱えている奴隷達も介抱して御相伴に預かる予定だったのだが。

 疲れた俺はそのまま家に帰り、眠りに就く。


 眠りに就く前にリリーを抱き寄せ、暫くモフモフ。

 あぁ、幸せ……。




◇◆◇◆◇




 ――夜、目が覚めたあと、彼女達が亡くなったと聞く。



悪魔「ごっつゃんです」

最長老「お主も好きのぉ。フォッフォッフォッ」

悪魔「(見られてた!?)」


一方その頃


子狼「えっと……なんかさっきからクリティカル多いね。どうしたの?」

子狐「ん、なんとなく」

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