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デモンズラビリンス  作者: 漆之黒褐
第二章
33/73

2-18

◆第七週 六日目 地源日◆


 死因は毒殺だった。

 その毒には、俺以外のほぼ全員が被害にあっていた。


 何故俺だけが?


 いや、俺が犯人ではない。

 確かに俺は毒が作れるし、俺だけが毒の被害にあっていないので疑われるのは最もな意見だろう。

 これは名探偵が必要――そう思い、毒の被害にあった者達を聴取していく。


 数人聴取しただけで匙を投げた。

 全員が全員、アリバイが無さ過ぎる。

 加えて、どの種族でも毒はまともに管理されておらず、誰でも入手可能。

 つまり全員が犯人になりうる。


 だが問答無用で全員に毒を盛るという動機が分からなすぎる。

 話にならない。

 それに、俺だけを狙っていないのが不思議すぎる。

 俺だけを狙ってくるのならば幾らでも心当たりがあるので納得出来るのだが……。


 という訳で、今度は俺が聴取を受けた。

 聴取をするのは俺。

 自問自答とも言う。


 彼等と俺で異なる点は何か?


 ――心当たりが多すぎる。


 事件は迷宮入りした。

 事件が起こった場所も迷宮だがな。


 その毒で亡くなった者は、コボルト集落からは5人。

 ゴブリン集落からは8人。

 バグベア集落からは2人。

 合計で15人。


 その全てが、捕らわれていた女性達だった。

 皆、死んだ瞳を本当に死んだ瞳へと変えて息を引き取っていた。


 苦しんだ様子が見られなかったので、彼女達は知らないまま旅立っていったのだろう。

 それだけが救いである。


 ただ、幾人かの女性達はお腹を孕ませていた。

 つまり、これから生まれる予定だった命も一緒に失われていた。


 女性達と子供達の死に対し、コボルト達は悲しみにくれる。

 ゴブリン達は、女性達に対してのみ悲しむ。

 バグベア達は、子供達に対してのみ悲しむ。


 娯楽を失った事に対する悲しみと、家族に対する悲しみ。

 各種族の見解に多少の違いはあれ、そこには予想通りというか他人種に対する差別意識、認識の相違がハッキリあった。

 それは、俺の知る人間という種族の考え方とほとんど違わない。


 また一つ、俺の中で人とモンスターの境が曖昧になった。


 亡くなった女性達の冥福を祈りつつ、ダンジョンの外へと運び出し埋葬する。

 その作業には、他の誰にも手伝わせなかった。


 何故なら、ゴブリン達の瞳が食事をする時の色に変わっていたからだ。


 放っておけば間違いなく女性達は彼等に喰い散らかされていただろう。

 恐らくコボルト達もバグベア達も喰う事に対し躊躇いを持っていない。

 それはあまりにも不憫だったので、ここはリーダー特権を使わせてもらった。


 願わくば、彼女達の来世に幸があらんことを。




◇◆◇◆◇




 【掘削】が想定外の嫌な役に立ったあと、唯一生き残った奴隷のもとへと向かう。

 人間達は全員毒にやられてしまったが、蛇女鬼(ラミア)のラミーナだけは生き残っていた。

 しかし、かなり危険な状態にあるらしい。


 俺は医者では無いし、解毒薬の知識も無いが――いや、スキル【薬鑑定】と職業《薬鑑定士見習い》《調合士見習い》が手に入っているので、多少の心得はあるだろうが――彼女の苦しみを一時的にでも和らげる事は出来る。

 毒は時間が経てば自然に抗体が出来て回復する。

 だが、長い牢屋生活で体力が落ちていたラミーナは毒に対する抵抗力も一緒に落ちていたらしく、見舞いに行くとかなり苦しそうにしていた。


 ラミアは間違いなく3種族よりも上位のモンスター。

 なので毒に対する抵抗力も高いと思っていたのだが、話をしてみると意外にも3種族より毒に対する抵抗力は低いらしい。

 蛇の親戚なのに毒耐性が低いらしい。


 いや、奴等は生でも問題無く喰える悪食種族だから、胃袋がラミーナよりも遙かに丈夫なだけか。

 危うくコロッと逝ってしまうところだった、と俺を魅了しながら言ってくる。


 肌からつつっと流れ落ちていく汗が妙に艶めかしいな……。

 ちょっとぐらい舐めても……。

 あの豊満な胸に顔を埋めたら、どれだけ至福なのだろう……。


 触りたい……。

 揉み揉みしたい……。

 ぷにぷにしたい……。

 パフパフしたい……。


 ――はっ!?


 危なかった。

 どうやらラミーナは【魅了ノ魔眼】を使ってでも何とか助かろうとしているようだ。

 自分がそっちの事で未だに役に立っていない奴隷であり、下手すればこのまま見殺しにされるだろう事を随分と恐れている。

 前に見た時にはそこまで心の弱い女性だとは思わなかったのだが。

 もしかしたらいつまでも助けに来ない仲間達に業を煮やし、日々恐怖を募らせていたのかもしれない。


 回復には慎重を期して【破邪の癒し手】だけを使用した。

 右手でスキル、左手で魔法を使えば同時に効果がある事は自分自身の身体を使って確認した事がある。

 しかし、正真正銘(ヽヽヽヽ)モンスターであるラミーナに神聖魔法を使うと、もしかしたら攻撃魔法扱いになるかもしれない――その可能性を考えて、今回は魔法を使わない事にした。


 魔法の詳しい知識を持っていない状態で、人の生死が関わる魔法は極力使用を控えておきたい。

 人間が覚えていた魔法なので人間に対しては間違いなく有効だろうが、モンスターに対しては絶対とは言えない。

 俺もモンスターだが、俺は純粋にモンスターだとは言い切れない。

 可能性は低いだろうが、代替え手段があるのだからわざわざ危険な橋を渡る必要はない。


 あと、悪魔な俺が対極に位置していそうな神聖魔法を使えるというのが実はかなり異常ではないかという考えもあった。

 別にばれても良いのだが、ばれる時にはもう少し友好関係を築き上げてからの方がやはり良い。


 ラミーナにとって、牢屋の外にいる者は全員が恐怖対象。

 この時点で余計な恐怖を与える必要は無い。


 俺はラミーナともっと仲良くなりたい。

 そして、あの魅惑的な身体を無茶苦茶に――。


 ああ、まだ【魅了ノ魔眼】の効果が残っていたか。

 平常心平常心。




◇◆◇◆◇



 ラミーナの体力を回復させた後、『また後で様子を見にくる』と言ってから――どうも【魅了ノ魔眼】の効果が抜けきらないが、暫く離れていればじきに消えるだろう――今度は水源へと向かった。

 元々の予定では、多くなりすぎたスキルや魔法、職業の確認をして過ごそうと思っていたのだが、宴と毒の影響でそうも言ってられなくなったからだ。


 水を大量に使用してしまったうえに新たな水源をまだ確保出来ていなかった事で、3種族から――主に綺麗な水を必要とするコボ族からエマージェンシーが発動。


 コボ族は他2種族ほど胃が丈夫ではないため――生肉を喰える時点で十分だと思うが――このままでは一族全員が倒れてしまうとか。

 現に、毒の影響はコボ族が最も強く、まだ回復していない者が半分近くいた。

 一応、彼等は遠方の地にある水場を知っているらしいが、危険度が高く、また労力の問題もあって今はまともに水を汲みに行けていない。

 故に、早急になんとかする必要があった。


 俺の住む家の隣に新しく出来た水源には、それなりに(ヽヽヽヽヽ)汚い水でも全然問題無いという非常に頑丈な胃袋を持っているゴブ族バグ族が団体様でいた。


 邪魔なので彼等を追い出す。

 というか、泳ぐな。

 幾ら清浄化されるとはいえ、汚い御前等の体液が混じっていた水を生活水にしたくない。

 くそっ、立ち入り禁止にすべきだったか。


 水質は、一昨日よりも幾分か改善されていた。

 しかしまだ俺の求める水質には程遠い。

 いや、恐らく奴等が水浴びに使用していなければもう少し透き通っていた筈だろう。

 まぁ、どちらにしても条件を満たす水質ではなかったが。


 池の片隅では、ミミクリーアクアリウム達がのんびりと寛いでいた。

 俺が飼い始めたモンスター達だ。


 仕切りで区画を作り、極力こちらには足ならぬ蔓を伸ばせないように工夫している。

 奴等の生態はまだ良くは分かっていないが、ミミクリーアクアリウムは水を浄化してくれる。

 故に俺は奴等を飼い、綺麗な水場の確保に動いた訳である。


 仕切りをした区画だけに住まわせれば、奴等はこちら側にはほとんど害を及ばさない。

 つまり、安全に水を汲む事が出来る……予定。


 ただ、流石に昨日今日でこの量の水を浄化するには処理能力が足りなかった。

 しかし、綺麗な水は今すぐにでも欲しい。

 ならばどうすれば良いのか?


 答えは、処理速度をあげればいい。


 という訳で、俺()が出張ってきた。

 スキル【浄化】の使い手である俺と、よく分からないがそれらしいスキルを持っているらしい三匹(ヽヽ)の力を合わせて水質を綺麗にする。


 俺の左右で、2人が――フォルとクズハの姿をした未確認生命体(UMO)が不気味な笑顔を浮かべて池に飛び込み、次の瞬間にはドロッと溶けて跡形もなく消滅。

 いや、本来の姿に戻ったのだろう。


 彼等はあの日、突然に俺の前へと現れた。

 全裸だった。

 片方はどうでも良いとして、流石にうら若き乙女があられもない姿で人前にいるのはどうかと思ったが、あの時の俺は猛烈に眠かったのでスルーしてしまった。


 次に会った時には服を着ていたのでほっとする。

 子供達も流石にあのままにはしておけないと思ってくれたのだろう。


 兎も角、それから2人はずっと俺の隣に在り続けた。

 言葉は喋らないし、普段は見えない所が――口の中とか傷口とかがスライム色だったりして明らかに人のそれではなかった――絶対に本人達ではない事だけは分かっていた。

 しかし深く追求する気にもなれない。

 だって、アレだしな。


 触らぬスライムに祟りなし。


 【スライムの加護】の影響も否めないが、天敵がわざわざ俺を気遣い別の姿をしてくれているのだから、そこは甘えておくべきだろう。

 俺もウネウネっとしたあの姿でなければ意識を飛ばす程の恐怖を感じる事はないようだし。

 うん、これはリハビリには丁度良い。


 まぁそれ以前に、そもそも言葉を喋らない彼等の意志をどうやって確認すれば良いのか分からない。

 故にずっと彼等の好きな様にさせていた。


 そんな彼等だが、俺の頼みをとても良く聞いてくれる。

 彼等の意志はまるで分からないが、俺の言葉は理解出来るみたいなので、とても頼りにさせてもらっている。

 見返りは……きっと俺が寝ている時にでも色々と何かをしているのかも知れない。

 目が覚めると身体中を何かが這っていた様な感触が残っている事があった。

 推測だが、きっと俺以外の子供達も彼等の毒牙にかかっていると思われる。

 きっと俺には想像のつかない何かを得ているのだろう。


 水の中に溶けてしまった2人と、その2人と同一の存在である俺の右腕の力を借りて、大量の水を浄化していく。

 彼等の持つ力は俺の【浄化】とは恐らく異なるので、最終的にちょっと甘い水が出来上がるかもしれないが、飲み水としては問題無い筈。


 暫くして水質の浄化に成功した。

 早速、コボ族に連絡して水を汲みにきてもらう。


 ゴブ族バグ族は、当然ながら暫く出入り禁止。

 彼等も汚い水よりは綺麗な水の方が良いだろうが、自業自得だ。

 諦めろ。


 壺や桶などを持って次々とやってくるコボ族の中には病を押して頑張っている者達がいたので、ここは恩をいっぱい売っておくため回復魔法(ヽヽ)を使ってやった。

 いや、別に彼等ならたぶん大丈夫だろうという悪魔的思考が働いた訳では無い。

 これは人助け……いや、魔物助けだ。

 決して一石三丁ではない。


 勿論、もしもの時を考えて、一番最初に元気な若者を選んだ訳だが。

 何事も無くてウィンウィン。


 感謝の言葉を述べて去っていくコボルト達を見送り、俺も喉が渇いたので煮沸した水を飲む。

 やはりちょっと甘みがあってまろやかだった。

 砂糖水とまではいかないが、がぶがぶ飲むのは躊躇するレベル。

 今回は緊急だったので仕方なく彼等にも手伝って貰ったのだ、が……?


 …………あ。


 そういえばまだあの2人が池の中に溶けたままだった気が……。


 まぁ良いか。

 飲んでも死にはしないだろう……?















S壱「プルルンプルルン(僕達は飲むと胃腸が元気になるんだよ)」

S弐「プルッププルップ(でも、飲みすぎに注意してね。僕達、一応〇ライムだから、色々溶かしちゃうんだ)」

S壱「プルップルッ(ちなみに、大量に接種すると体内で僕達の分身体が発生する場合もありまーす」

S弐「プルーンプルーン(つまり、胃腸が頑丈な人だと、僕達は×××から産まれるって事だね)」

悪魔「ゴクッゴクッゴクッ……ぷはぁ。なかなか美味い水だったな。ちょっと飲みすぎたか」


後日、デ-モンスライムが発生したとの報告があったとか、なかったとか……





子狼「あれ、本当に出番が……」

子狐「スライ〇に役が取られてる!?」


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