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拒否権を下さい

 嫌な予感はしてた。でも、洗濯に出されてたなんて…。優しい気遣いだけど、このままじゃ外に出られない。


(どうすればいいだろう…)


愕然としてる最中に雅人さんが、


「あれ?てっきり泊まるもんだと思ってたんだが」


「……えっ」


顔だけ上げる。空耳だろうか。とんでもない事を言ってた気はする。けど、きっと、きっと、空耳――


「聞こえてなかったか?泊まるだろ?」


空耳だと思い込もうとしたのに、それで終わらせてくれなかった。力が抜けてぺたりと床に座る。


(なっなにを言ってるんだこの人は…)


雅人さんの言っていることが信じられない。急展開過ぎて頭がついていかないのが正しいのか…。同じように座ってくれた雅人さんを見つめてしまう。でも、もしかしたら聞き間違えかもしれないから、もう一度確認をとってみる。


「泊まりって…ここで?」


「それ以外どこがあるんだよ」


「あはは…そうだよね……」


「ああ」


簡潔に言われた。拒否権はないのだろう。こういう雅人さんは頑固だ。これはいくら言っても聞いてくれないパターン。数時間前に経験しているからわかる。が、無駄だとわかっていても、行動してみなければ何も始まらないと思いたい。普段なら諦めるけど、もしかしたらという思いもあるから、無駄だとわかっていても聞く。


「でも…僕は帰りたいだけど」


「うーんっ…なんか帰りづらそうだったろう?」


「っ…たったしかにそうなんだけど」


「なら泊まればいい。俺は歓迎だぞ」


この優しい眼差しで言われたら反論の言葉も喉に飲み込まれて出来なかった。思わず目を反らす。


(恥ずかしげもなく、こんなセリフ言えるなんてなんか卑怯)


友達もいなくなって、こうも好意的に言われるとぐらっとものがある。

でも結局のところ、僕はこの笑顔に弱いだ。こうも抵抗出来ないのだから。やっぱり説得は無理そう。…なら発想を変えるしかない。あの部屋に帰れなくてよかったと。この格好で外に出ず目撃者も作らなくて済んだと。そう考えようによっては助かったのかも……しれない。

 僕にとっては今の格好は情けない格好だから…。もし転校生に見つかって問いただされるよりはマシだ。と、考えることにする。明日問い詰められることを先伸ばしにするだけかもしれないけど。不安の影がチラ付くが気にしたら負けだ。


「…じゃあ……うん、泊まる。布団は貸してくれる?」


「もちろんだ。って貸さない方が可笑しいだろう」


「あっまぁそうだけど。うん、ありがとう」


雅人さんに怪訝な顔されたが、笑って誤魔化すしかない。だって目的があるんだもの。後ろに向き、ソファーの腕を置くところを触る。ふかふかだ。ベットの代わりとしても立派に使えそうだと目星をつけていたのだ。


「枕は要らなそうだね」


雅人さんが首を傾げ、眉をピクッと器用に上げていた。


「もしかしてここで寝る気か?」


「あたりまえでしょ」


「どこが!!!」


飛び付いてきそうな迫力に驚いた。何がそこまで雅人さんを駆り立てているのか。今度は僕が首を傾げる番。


「ソファーで寝かすなんてありえねぇだろ!!!」


「いっいや…だって他に寝る場所ないでしょ?あっ絨毯でも構わないよ」


「俺が構うわぁああ!!!」


折角思い付いた案は数秒で消え去った。本当に絨毯でよかったのに。柔らかいし、ふわふわだし。でもまさか、雅人さんにツッコミを入れられるとは思わなかった。


「じゃどこに…?」


「普通にベッドだろ」


「まぁうん、普通はそうだね。あっでも来客用の部屋があったね。そこ?」


今まで忘れていたけど、確か物置になってる来客用の部屋が有ったはず。きっとそこかと思って聞いたのだが、雅人さんにじっと見つめられた後、


「違う。あそこには荷物しかないから。俺ので十分だろ。…実の大きさ的に」


最後らへんは小声だったが聞き取れた。聞き捨てならない言葉があった。かなり(しゃく)である。


「決めた!!やっぱりここで寝る」


「はぁ!?なんでそうなるんだよ」


「雅人さんの隣でなんて寝れるか!!」


勢い任せで言ってしまった。だって、どう考えても親衛隊にバレた場合恐ろしくて、一緒になんて寝られるわけない。なんとか、避けるためにソファーだの、絨毯だの、言ってたのに全然気付いてくれない。


(この人は危機感ってものがないのか…)


僕から襲うってことは絶対ないけど。もし僕が本性を上手く隠して雅人さんを襲うって人物だったら大変なのに。そんな心配を考えないのだろうか。…体格的に僕から襲うなんて無理だけど。でも多くの方に想われている立場だと自覚して欲しい。不用意に部屋に入れることもだ。

 僕の立ち位置は本来なら一緒に居るだけでもお咎めがある立場。こんな巻き込まれことがなかったら、雅人さんと話すことだってなかった。それに僕はただの一般生徒だ。こうして良くしてくれるだけで感謝しなきゃいけないのに。なんでこう肝心なところで察してくれないんだ。本人がこの状態じゃそんな期待をするのは無意味な気がする。

 だから僕が言った事は正しいはず。…だったのに言ったとたんに部屋が1・2度下がった気がする。目の前に見える黒い笑顔に思わず目を背けてしまった。黒い笑顔って表現はどうかと思うが、そう例えるしかない。


「そんなこと言うのか…」


声もあの優しい声とは違う。でもなんだか楽しそうに聞こえるが、さっきあんな表情をしてたんだ。絶対に楽しいわけがない。何を考えてるか怖くて顔を上げられない。


(あれ?言葉が足りなかったかな…)


雰囲気が違いすぎていつの間にか手が震えてしまってる。隠すために、ぎゅっと握りこぶしを膝の上で作って耐えようとしたとき。ふいに抱き込められた。この状態になったのを理解するのに数秒かかったが、どうやら雅人さんの胸に顔を押し付けられているようで…?


(あれ?なんでこんなことになってるんだ?どういうことなの?)


頭の中が疑問だらけ。だってたぶん雅人さんを怒らせたはずで、怒鳴られたり、手を挙げられたりするのが、普通なはず。怒った人が抱きしめたりなんて普通しない。なぜこんな行動を雅人さんがどうして取るのか、わからず戸惑った。雅人さんの顔を見ようと顔を動かすが、頭を固定されてるようであまり見えない。もぞもぞしていたのに気付いたのだろう。今度は僕の肩口に雅人さんが顔を埋めた。しかも低音ボイスというべきか、わざわざ僕の耳に囁いて、


「逃がさねぇ」


これをいい声と言うのだろう。ぞわりと背中を逆なでされたように、寒気がした。


「どっどういう意味だよ!」


「どういう意味って…」


言うなり、背中を抱えられて、膝立ちにさせらたとたんに、ひょいっと持ち上げられる。


「こういう意味だけど」


にやりと笑う雅人さんにまたお姫様抱っこされた。確信犯である。これには驚いて思わず声を上げる。


「なななっなんで!!」


「移動しなきゃ何にもならないだろう。実は頑固だし」


「それはお互い様でしょ!」


「まぁそうだけど」


笑いながら歩き始める。が、堪ったものではない。逃げなかきゃと暴れるが目的地が近くて無意味だった。


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