予想できない
寝室に着くとすぐにベットに下ろされて、椅子代わりに座らせられる。
「ちょっと待ってろよ」
言うなりすぐに行ってしまったが、果たして大人しく待っていて、いいものか迷いどころだ。とりあえず、あたりを見回して見る。
今座っているベットは濃い青がベースの掛け布団だ。手触りも柔らかい。そして二人寝ても余裕なサイズだ。でも普段からそんなに必要なのだろうか。
(…寝相が悪かったりするなら、わかるかもしれけど)
余計なことを考えながら、次に目が止まったのは本棚。びっしりと隙間なく本が埋まっている。中には英語で書かれた背表紙もちらほら有り読書が好きなのかな。あとは鑑賞植物も窓側に置かれ、元気そうに育っている。床はやっぱり絨毯が敷かれている。ふかふかそうだ。そして机。机の上には紙束とパソコン。あと目につくのは、衣装棚と時計くらい。あっベットの脇にも小さい机。そして電気スタンド。有ったら便利だもんね。目星ものはこのぐらいだろう。
大体見終わったあたりで雅人さんが帰ってきた。白っぽい四角い箱を持ってきたのが見えた。僕の隣に雅人さんが座る。
「手を出せ」
「あっはい」
言われたとおりに手を出す。箱から出されたのは白いシートのものを手首に貼られた。冷たくて気持ちいい。
「冷湿布だ。しばらく付けとけよ」
「ありがとう」
道理で湿布臭い。剥がれないようにテープも巻いてくれた。もう片方も丁寧に治療していく。
(そういえば治療してくれるって言ってたもんなぁ)
ふとリビングでの事を思い出した。引き留めるのは治療のためも有ったのかなと思うが、何もあんな運び方は遠慮したかった。気持ちはありがたいけど、なんだか素直に喜べない。
手首に両方巻かれると、なんだか変な感じだ。じっと見てしまう。箱の蓋が閉まる音がして顔を上げると、雅人さんがこちらに真剣な顔をして、
「実…一様だが他に怪我はないよな?」
「えっあっうんないよ」
じっと見つめれ戸惑うけど、僕も雅人さんを見つめ返す。
「…まぁ信じるよ」
納得はしてなさそうだったけど、深く突っ込まれなくて良かったとほっと胸をおろした。実はあるなんて言えない。
よく転ばされたり、不意討ちで殴られたりもしたから、膝とか脇腹に小さな痣とカサブタがちらほらとある。治りかけだから言う必要もないし、余計な心配をかけたくない。雅人さんは優しいから、きっと心配してくれる。けど……。只でさえ多忙な彼にこんな事を、煩わせる訳にはいかないから黙っていたい。……なぜだかそう思う。
「実はまだ歯磨きまだだろう?」
「あっそういえば…まだだね」
不意に聞かれたことにワンテンポ遅れてしまう。帰るつもりで居たからすっかり忘れていた。
「今用意するから先に洗面所に行ってろよ」
「えっあ…うん。わかった」
思わず頷いてしまった。雅人さんはそのまま出てってしまったけど、果たしてこの状況はいいのだろうか?
(さっきお姫様抱っこして運ばれた意味ってあるのかな?もしかしてただ反応が面白かったから、からかっただけなのか?)
急にもやもやする。複雑というか。でも言った本人はこの部屋にもういないし、また反抗して変な事をされても堪ったものではないから、さっさと向かう。
確か洗面所は脱衣場と兼用だったはずだ。入り口のドアを手をかけたときに、肩を叩かれ振り向けば、雅人さんに歯ブラシとコップを渡された。仕事が早い。お礼をいい、歯磨きをする。が、鏡越しから見えてしまった。じっと見つめる視線がこちらに向いていることを。
雅人さんはドアを背にして僕を見つめている。まったく反らさないから余計思う。耐えきれなくてつい声をかけて、
「なっなんか用?」
「別に」
「そう」
そう言われては黙るしかなく、また歯磨きに戻るが、目線がチクチク刺さるから居たたまれない。早々に歯磨きを終わらせるしかないと手を動かした。
すっきりしたのは良いことなんだけど。歯磨きを終わらせるなり、さっさか寝室に戻された。どうやら見張りだったのか、そんな逃げだすつもりはもうないのに。でも嬉しいことが一つあった。無理矢理に大きいバスタオルは借りてきたこと。雅人さんに怪訝されたけど、柔らかさに惚れたとか、適当な事を言って、今この手にある。これまで流されてきたけど初勝利な気がする。そう思うとにやけてしまうが。
(まぁ僕にだって意地があるもん)
雅人さんも頑固なら僕だって頑固になる。今回に限りだけど。
僕は雅人さんと一緒にベットに寝る気なんてない。雅人さんが寝静まったあとにこっそり床で寝るためにバスタオルを借りたなんてバレてはいけない。バスタオルは柔らかいし、僕にとって十分な待遇だ。きっと明日の朝怒られるとしてもいい。僕は床で寝る。そのためには寝たフリを頑張らねば。
ベットサイドに座って、ぎゅっとバスタオルを抱き締めていると、雅人さんがフェイスタオルを差し出してきた。急になぜフェイスタオルを渡されるのかわからなかったが、受けとると水気を含んでいたが程よく暖かい。なぜこんな物を渡されるか解らず、それを眺めていたら、
「目に当てとけよ」
「へっ」
「結構泣いただろう。まだ赤いし、目に被せとけ。…やっとかないと明日目が腫れるぞ。後使い終わったらそこの机にでも置いとけ」
「はあ…わかった」
どうやら、目を腫らせないためらしい。瞼の上にタオルを被せる。これはけっこう気持ちがいい。和んでいたら肩を押されて体が傾く。そして背中に柔らかい感触が、
「っわ!!」
情けない声を上げ、ゾクッと震えた。視界が暗闇最中に押されると恐怖だ。たぶん押し倒されたと思う。びっくりし過ぎて硬直してしまい動けない。上からまた柔かい物がかかる。もう何事だ。パニック状態で、タオル取ればいいのかと思い付いたときは、
「寝るぞ」
「えっえっ」
「電気消すからな」
パチっと軽い音がして、左側が沈んだ気がした。
(えっと……。これは……)
考えてみるものの状況が追い付かない。まず、タオルを取ってみる。暗く何も見えない。でも隣からは静かな呼吸音。たぶん寝に入った状態。さっきの柔らかいものはどうやら掛け布団。
(早く寝ろってことかな?)
なんだか一々雅人さんの行動に疲れる。これはこれで振り回されてる気が…これではびっくり損ではないのか。普通に声をかけてくれればいいのに。小さくため息を吐く。
手に持っていたタオルをまた目に被せる。せっかくタオルを用意してもらったんだ。これを付けて目が慣れるのを待つことにしよう。
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暫くすると寝息の音が変わったことに気づく。眠くなるのを堪えながら、雅人さんが寝るのをじっと待った甲斐があった。眠らなかった自分を誉めたい。
静かにだけど一定のリズムを刻む呼吸音。夢の中に旅立ったのだろう。冷たくなったタオルをそっとサイドの机に置く。小さい声で『雅人さん』って声をかけてみた。が、返事はない。変わらない静寂だ。
(よし!!今ならいける)
そっとベットの端に寄り、足を外に出す。掛け布団を引っ掻けないように雅人さんの方に追いやって、音を立てないように床に降りた。もちろんバスタオルを持ってだ。
柔らかい絨毯に横になりバスタオルを広げて寝る。今の時期はちょっと寒いけど寝れなくはない。眠気にすぐさま襲われすぐに意識を手放した。




