男と女が求めるもの
前回の『デリカシーは売っていない』と同じ登場人物です。が、話がつながっているわけではありません。
いつの間にか女は打算的になる。
なぜだろう。
昔は雰囲気や顔や性格だけで好きだと言えたのに、それだけで付き合ってもいいと思えたのに、妙に慎重になる。
結婚が視野に入りだしたから? 幸せになるためには、どうしても『お金』が必要だから?
お金がなくったって愛があればいい、なんて言うけど。愛はお金がないと冷めやすいものなのかもしれない。ある程度の生活が保障されて初めて『愛』が活きてくるのかもしれない。
金の切れ目は縁の切れ目。
先人の言葉はやはり間違ってはいないのでないだろうか、なんて最近思う。結婚していく友達が増えだして、こんなどうでもいいことを考えてしまう、今日この頃。
彼氏のいないあたしと美弥とサチ。あたしたち三人は彼氏がいないがゆえによくつるんでいる。彼氏がいる友人はみんな彼氏が最優先。女の友情はなんと儚いものなのか。結束の固さを感じるのは、彼氏がいない時期くらいのものだ。
つまり、彼氏がいないあたしたちは今のところ、素晴らしいほどの結束力を持っているというわけだ。
今日はあたしたちの共通の友人の結婚式だった。結婚式場で働くサチは職業柄なのか、披露宴会場を値踏みするように隅々まで見ていた。
結婚式といえば、出会いだ。合コンより高確率でいい男がいる。あたしたちは友人席で談笑しているふりをしながら、新郎側の招待客をちらちらと観察する。
「美弥、どう? 好みはいる?」
「いるけど……あれは彼女いる顔だよ」
どんな顔だよ。
「サチは?」
ショートボブの髪を今日はクルクルに巻いたサチは、なんだかかわいらしい。身長は低いし、顔だって童顔気味でかわいいのに、しゃべりだすと毒を吐きまくるために、彼氏が出来ない。
サチはボーッと新郎を見ていた。
「サチ? なに、まさか新郎が好み?」
まさか、と思う。新郎はどうひいき目に見てもかっこよくない。新婦――留美という――はきりりとした顔立ちの美人だからつりあっていないように見える。
新郎はいまどきそれはどうなの? って聞きたくなる七三分けだし、眼鏡もおしゃれじゃない黒縁めがね。身長だって低い。留美の方が背が高いはずだ。
ただ、新郎、会社の社長の息子なのだ。つまり、留美は玉の輿に乗ったというわけだ。
サチは男の経済力に関してはあまりとやかくいうタイプではない。だからこそ、サチが新郎が好みなわけないと思うのだが……。
「サチ、聞いてんの?」
「あ、ごめん。何?」
やっとサチはあたしの方を見る。
「どうした? ぼーとしてさ」
「ん、ああ。いや、職場でさ、同僚とよく話してることなんだけど」
サチはもう一度、新郎新婦を見据える。幸せそうに微笑む留美。同じように幸せそうに笑う新郎。その二人をパシャパシャと写真に収める新郎の友人たち。
あたしの完璧な偏見だけど。
女より男の方が類友率が高いのではないだろうか。類は友を呼ぶってやつ。新郎の友人たちはみんな、どこかダサく、ファッションセンスが無いように見える。スーツの質は良さそうだからみんな金持ちっぽいけれど、そのスーツの良さをぶち壊す、ダサい雰囲気。
男は顔ではない。雰囲気だ。にじみ出る格好良さは、顔面偏差値なんて関係ない。まあ、それは女にも言えることかもしれないけれど。
今日は出会いに期待していたけど、どうやらあたしたちはやっぱり男運がないらしい。
「あたし、結婚式場で働いてるからさ。カップルをよく見るんだけど」
サチの話は続いていた。どうでもいいことを考えていた脳みそを、大急ぎでサチの話の方に向ける。
「滅多に無いんだよ。美男とぶちゃいくな女で結婚するカップル」
「へぇ!」
「美男美女とか、普通と普通とか、ぶちゃいく同士とか、あとは今日みたいにぶちゃいく男と美女のカップルはよくいるんだけどね」
今日みたいに、とか言っちゃったし。失礼だよ、サチ。
「つまり、それってあるひとつの結論が出ないかい?」
もう満腹だというのに、新たに肉料理がテーブルに置かれる。どんどん膨れ上がる腹が、ドレス越しにばれやしないか、ほんのり不安になる。
結婚式ってなんでこんなに大量の料理が次から次へと出てくるのだろう。おいしそうなフォアグラののったステーキが、今はおいしそうに見えない。
「あ、で? ひとつの結論って?」
「男は女を顔で選び、女は男を金で選ぶ」
格言出ました!
「もしくは、無難なところでまとまる」
わおっ! 結婚する幸せカップルを無難とか言っちゃった!
「人間ってのは、どうしようもないね」
サチはひとりで納得いったのか、ステーキの上にのったフォアグラをぱくり頬張る。
幸せそうに食事を続けるサチを見ると、なんだかため息が出た。あんなによく食べるのに、なんでサチはやせているのだろう。
そんなことより。
サチの出した結論が、本当なら。本当に人間ってのはどうしようもない生き物なのかもしれない。
「女は顔じゃない」とか「男は経済力じゃない」なんて言う人はいるけれど、実証されるように、カップルたちはそれぞれの欲望に忠実に結婚相手を選ぶ。
『顔』であったり『金』であったり、己が幸せになるためにふさわしい相手を、気付いているにせよいないにせよ、本能的に選んでいるのかもしれない。
「顔で女を選ぶな」とか、「男に経済力を求めるな」とかいう人もいるのだろうけど。いいじゃないか。『幸せになりたい』と思うのだから、『幸せにしてくれる』人を求めるのだ。求めるものは人それぞれ。
「ま、どのカップルも幸せそうだから、それでいいんだろうけどね」
サチはそう言って、ワインをクイッと飲み込む。
あ、ステーキ全部食べ終わってる……。さすが大食い。
「あ〜、私も早く結婚したいなぁ」
隣で美弥が深〜いため息を吐いた。ああ、ため息が伝染する。はああ……。
ちなみに。あたしは、経済力より包容力。あしからず。
結婚式の料理って、すごい量ですよね。
あれはどんなに頑張っても食べきれない……。
今回の『美男美女、普通は普通……』というセリフ、あれも式場で働く私の友人が実際に言っていたことです。
言われてみれば、街中にいるカップルでも『美男とぶちゃいく』はあまり見かけないような、そうでもないような? うーん、どうなんですかね?(^^;




