デリカシーは売っていない
女の胃は二つある。
ひとつは男の前で発揮する「あんまり食べられな〜い」な『乙女の胃』。もうひとつは本当の胃袋「実はがっつり食べれます!」な『底なしの胃』。
女はいつでも女優だ。それはもちろん私だって。男の前なら、かわい子ぶって少食ぶる。「もうおなかいっぱ〜い」なんて猫なで声で言えば、「美弥ちゃんかわいいね」なんて言ってもらえたりするのだ。
だがしかし、演技したところで一体なにが得なのだろう? その場しのぎのかわい子ぶりっ子でもてたって、その後はどうするというのだ。どうせそれで付き合ったところで、「美弥ちゃんって、最初のイメージと違うね」なんて言われて、恋は燃え上がるどころがあっという間に終焉を迎える。
ああ、矛盾。
それでも、ついついかわい子ぶりっ子してしまうのは、女の哀しい性ってやつだ。
「今日の合コン、どうだった?」
「……」
「……」
沈黙はNGの意思表示。今月二回目の合コンは、今回も当たりなし。世の中は無情。幹事としては、手痛い沈黙だ。
私と彩とサチは、合コン仲間だ。言うなれば、彼氏いない同盟。月に何度かこうして合コンをセッティングするが、私たち三人は男運に見放され、「これだ!」という出会いに恵まれない。
「つうか、腹減った」
沈黙を破る彩の一言。
「ラーメン屋が目の前にあるよ」
「ラーメン食おうぜ」
深夜ニ時。合コン用に女らしい格好でばっちり決めた女三人が、こんな時間にラーメン屋。ふわんふわんと揺れる優しい素材のスカートが、「場違いですよ」と訴えている気がするが、気にしてはいけない。
お酒を飲むと、ラーメンが食べたくなるのは生理現象ってやつだ。仕方ない。
ラーメン屋といっても、広い店内はファミレスのよう。これならゆっくりできる。
私たちは端っこの席を陣取り、適当にラーメンをたのんでゆく。
「つうかさぁ、あの居酒屋、なんなの?」
テーブルに頬杖をついて、サチが愚痴る。合コン会場に選んだ居酒屋のコース料理が異様に少なくて、私たちはかなり不満を抱いていたのだ。しかもおいしくなかった。
あの居酒屋に予約を入れたのも、コースで頼んでしまったのも、男側の幹事だ。私たちは女の子ぶって「大丈夫だよ。このくらいがちょうどいいよ」なんて言っていたけど、内心「足りねえよ。もっと食いてぇんだよ」とイライラ。
そのせいもあって、彩とサチの男たちへの印象はかなり悪いものになってしまった。食べ物の恨みは恐ろしい。
「ねえ、サチは今日は何キャラだったの?」
話題を変えようと、私はサチに話しかける。サチのブームは合コンでキャラを作ることらしい。この前は姉御キャラ。その前は妹キャラだった。
「んー。今日はツンデレ」
「ああ……それで」
合コンの間中、サチはずっとツンツンしていたっけ。ってあれ? いつデレるの?
「ツンデレって何?」
彩が興味津々といった顔で私に詰め寄る。
「皆といる時はツンツンで、二人になるとデレデレする子のことだよ」
「へー。それじゃあ、今日のサチはただのツンツンじゃん」
今日の合コンで二人になる機会なんてなかった。デレないツンデレは、一体なんのためのツンデレなんだ。いくらツンデレが世のブームだとしても、デレないツンデレはただのタカビーだ。サチは何がしたかったんだ。ツンがしたかったのか? デレがしたかったのか? ああ、もうツンだとかデレだとかわけがわからなくなってきた。
程なくして、湯気がほわほわとあがるおいしそうなラーメンがテーブルに並んだ。私の好きな太麺だ。嬉しい。
私たちはいっせいにラーメンをすすり、あったかさで鼻水がたれてくるのを、必死に耐える。
「居酒屋のコース、チゲ鍋だったじゃん」
しばらく黙々とラーメンを食べていたサチが、ふと顔をあげる。温かいラーメンを食べたせいか、頬が赤く染まっていた。
「あれだけはおいしかったね」
チゲ鍋はおいしい。辛くて汗が吹き出てくるのが、どうにも合コン向きではないと思うけど。
「あたしさぁ、切れ痔だから、あれ、けっこうきつかったんだけど。明日絶対つらい」
「……」
「……」
店員さん、デリカシーを下さい。売ってないですか? ……そうですか。
女は女らしく、なんて時代錯誤なこと言いたかないけど。やっぱり女は女としての節度が必要なのだ。失いゆく美徳を噛み締めながら、私はラーメンをひたすらすすった。
わかるよ。わかる。辛いもの食べたら、痔になるっていうもんね。もともと切れ痔なら、悪化するかもね。
……私たちに彼氏が出来ない理由が、なんとなく分かった気がします。
人のふり見て我がふり直せ。
私は明日からの自分を省みようと、初めて思ったのだった。
すいません……えげつないですね(笑)
こんな会話をしている女の子も、いると思うのですよ。
いますよね? あれ? いないですか?(^^;




