第4話 魔法のアイテム
ヴァレリウスはそれを言うべきかどうか悩んでいて、その迷っている様子が表情に出ている。
それを感じ取ったラジールは、
「ははは、私は神ではありません。間違うことだってありますよ。気にせず…どうぞ言ってください」
「はい……でも、たいしたことではないのです。言うほどのことでもなくて…」
「かまいませんよ」
「結果的には間違っていないので、まったく重要なことではないのです」
「大丈夫です。言ってください」
「ええ、では…」
「どうぞ…」
「ラジール様は、私がプチャ沼で足を汚したと思ってらっしゃるようですが…」
「違うのですか?」
「ええ、もう少しすると水路の泥上げ作業の予定があるのですが、その時のために、水路のまわりの草刈りなどをしていて、これはその時に汚れたもので、私は……沼には入っていません」
「ほう、ではその水路のあたりでウィルオウィスプを見たのですね」
「いえ、違います」
「ではどこで?墓場ですか?それとも戦場跡地?」
「いえ、沼でも、水路でも、墓場でもなく。畑から帰る途中の小道です」
「ほう…」
ラジールは顎に手を当てて聞いている。
「私は畑から帰る途中の坂道で、農作業の合間に食べようと思って作っておいた、きび団子のことを思い出しました。それを腰袋から取りだそうとしたのですが手を滑らせてしまい、落ちたきび団子はコロコロと後ろに転がっていき、それを目で追おうとして振り返った時」
ラジールが「ゴクリ」と唾をのむ。
「私は自分の目を疑いました。そこにあったのは、とてもこの世のものとは思えない…草むらの奥の七色の光です。そして、その七色の光は、揺れながらこちらに近づいてくるのです」
「七色の光……」
「申し訳ございません、私は見てはいけないものを見たと思いすぐに目をそらしてしまったので、それ以上のことは…ごめんなさい…」
ヴァレリウスは自分の臆病さを恥ずかしく思った。
「いえいえ、とても貴重なお話をありがとうございます」
ヴァレリウスが帰った後、ラジールはイスに座り考え込んでいる。
ラジールはヴァレリウスの真剣な様子から、その発言が嘘であるとは思わなかった。勘違いか、錯覚か、幻覚か…あるいは本物か……なんにしても、嘘を言っているとは考えなかった。
数日後
「不思議な物を入手しましてな。…しかしこれが何なのかさっぱりわかりません。……そこで、ラジール様のお知恵をお借りできたらと思ったのです」
町の有力者、フッゲルンはそう言って、短いひものようなものをテーブルの上に置いた。
遠くから見れば、ただのロープの切れ端かもしれない。しかし、それは、見れば見るほど奇妙だった。
「触ってもよろしいか?」
「ええどうぞ」
触れた感触も奇妙だった。
「植物か?あるいは水中の生物…貝の仲間だろうか?」
「ラジール様でもわかりませんか…」
「うむ…」
「私はですね。ラジール様。魔法のアイテムではないかと思うのです。よく見てください、ここ…何か呪文のようなものが書かれています」
「確かに…なるほど。それで私のところに持ってきたのですね」
「ええ、ラジール様なら何かわかるのではないかと思いまして」
「いや…これは……まったく分からない。期待に応えられず申し訳ない」
「いえいえ、頭を悩ませていましたが、ラジール様でもわからないのであれば諦めがつきます」
「しばらくお借りしてもよろしいですか?何かわかったことがあれば必ず連絡いたしますので」
「どうぞどうぞ、むしろありがたいです。もしかしたら呪いのアイテムでは?とも思い始めていたので…」
「いや、邪悪な気配は感じられません。かといってこれが何なのかはさっぱりわかりません」
七日後、
ラジールは研究を続けたが、分かったのは、人の手、あるいはそれ以上の存在の手によって作られたということ。厚い皮のようなものに包まれていて、中に何かがあること。端と端をつなげると輪になるということ、くらいだった。
ラジールはお茶を飲みながら、
「今日の午後にでもフッゲルンに会って、外の皮を切り開く許可をもらってこよう」
と思った。
テーブルの端に置かれた謎の輪を見つめている。その視界の先の道を一匹の犬が歩いている。
「変わった犬だな…」
それは博識のラジールでも、まったく知らない犬種だった。
「なにが叡智の魔導司祭か。この世はまだまだ私の知らないことだらけではないか」
◇◇◇◇
午後になり、ラジールがフッゲルンと会っている頃。
ヴァレリウスは妙な犬と出会った。
初めて会ったはずの妙な犬は、妙にヴァレリウスになついていて離れようとしない。
「やれやれ」
犬はヴァレリウスの家で、もう一度、幸せな一生を生きた。
終わり




