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リトルスター〜鄙びた旅館の女将になった私がテッペンを取るまで。  作者: 間宮芽衣


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【第二十七話】賢治はダメですっ!


 プルルルルルル…


「はい、『湯宿 のんびりや』です…」


桐谷さんがアメリカに行ってから一ヶ月が経った。


 事務所で予約を確認しながら受話器を取る。


『かーわなーみさんっ!』


その声だけで誰かわかってしまった。


「…花園さん。今日はどうしましたか?」


『えへへっ! 実は来月、女子旅にお勧めの宿特集をやるんです! 夏休みの旅行の下調べをしている人達も多いですし、知名度を増やすチャンスですよ。


 …ってことでやりません?』


その言葉に私思わず考え込む。確かに売り上げも上がり、広告などに回せるお金も増えた。


「うーん…。いくらですか?」


『五万でーす。でも、今ならバーターでのんびりやさんになら東北のトップ画面に出てくるミニバナーもサービスしちゃいますっ』


(えっ! むしろ特集よりこっちのミニバナーに載せたいっ!)


流石にステイリンクさんともなると、エリアごとのTOPページのPVが半端じゃないのだ。


「…んだば、やってみます」


『きゃー! さすが、河南さんっ! ところで、この前提案した近くの観光地の写真って撮影出来ました?』


つい先日、花園さんが、宿のサービスとは関係なくても、近隣に何があるかがページを見ているユーザーの決め手になるパターンがあるから入れた方がいいと提案してくれたのだ。


「あー…すみません。まだです」


(賢治が最近忙しそうなんだよな…)


ついつい今も写真撮影は上手なので賢治にお願いしてしまっている。


 ──あれから賢治とは今まで通りだ。


 特に二人ともその事には触れないが、なんとなく実家に帰れば結構な頻度で賢治が遊びにきているし、ご飯に誘われれば行くような感じである。


(うーん…何か言った方がいいのかな)


そんな事を思いつつ、今更照れ臭くて何か言えそうにない。


「そうですか。まあ、忘れてなかったなら全然いいんです。今度出張で青森行くので、周辺の施設さんがどんな写真入れてるか見せますね。


 写真担当の方が別にいるんでしたっけ?良かったらその方も同席頂けると嬉しいです」


言いながら花園さんは最後まで明るいテンションで電話を切った。


 うちの宿を引き継いでからの彼女はいつもこんな感じだ。


 ──桐谷さんとは違い、広告もバンバン勧めてくるし結構圧が強い。

 けれど、それと同じくらいの色んな提案もくれる。

 そして、ダメなところはハッキリと気持ちいいくらいズバズバ言う。


(まあ、でも、けっぱってくれてるな)


そんな事を思って私は口の端を上げた。


◇◇


「初めまして、花園エリーですっ。あ、これ名刺ですー。宜しくお願いしますっ」


二週間後、初めて賢治に会ったいつもと同じように高めのテンションで名刺を渡した。


「…初めまして。桜庭です。写真を担当しています。宜しくお願いします」


花園は丁寧に周辺施設の稼働率やリードタイムについて、説明してくれた後、写真の提案や、最近人気のあるプランについて教えてくれた。


「へえ…お誕生日プランって宿でも結構出るんですね」


「はい! 何よりケーキとかシャンパンとか特典付けとけば結構単価も取れますし。良かったら是非プラン作ってみてくださいね」


すると、賢治が頷く。


「もしケーキとかの写真も撮るなら一緒に撮れるといいですね」


「ですねぇー! ケーキが難しかったらスイーツのプレートとかもアリです! こんな感じで花火とか付けてあげると映えますよー」


そう言って花園さんがいくつか写真を見せてくれた。


(…なんか、花園さん、賢治に近くね?)


なんとなくそう感じてしまい、モヤモヤする。


「なるほど。それは良さそうですね。これなら菅谷さんなら作れるんでね?」


賢治の言葉にハッとしてしまう。


「んだな。ちょっと菅谷さんにも聞いてみる」


「よし、そんな感じでじゃあお願いしまーす!

 あ、そうだ!! 桜庭さんって今彼女とかいます?」


そう言って花園さんがなんと賢治に彼女がいるか尋ね出した。


(…へ?)


すると、賢治は少し戸惑ったような表情をした後、ポツリと呟いた。


「今は…いねぇですけど」


「えー! 本当ですかっ! いえ、青森のお取引先の女性に合コン開いてって頼まれたんですよっ。まだ人数足りてなくて。──良かったらきません?


 桜庭さん爽やかマッチョイケメンだしきっとモテると…」


花園さんが言いかけた時だった。


「──賢治はダメですっ!」


反射的にそう割り込んでしまっていた。


 すると、花園さんが目を見開き、賢治が信じられないような顔でこちらを見てくる。


 恥ずかしくて顔がだんだん熱くなってくる。


 すると、一拍置いてから花園さんがニヤニヤ笑い出した。


「──ふんふん、なるほど! そういうことでしたか!  私ったらすみませんっ、そうとは気付かずにっ!

 お幸せにっ! よし、じゃあ写真の件、お二人で仲良く撮影して下さいねっ!


 じゃ、邪魔者は退散しまーすっ」


(そ、そういうことって何ー!)


私が心の中でツッコミながら口をパクパクさせていると、「それじゃっ」と言いながら花園さんは帰ってしまった。


 ──二人で取り残された私と賢治の間には気まずい空気が流れる。


 恥ずかしくて下を向く私の顔を賢治が顎に手を添えてグイッと上げてくる。


「──っ、」


「…日菜子、今の何?」


真剣な顔で言われて私は、カッと身体の体温が上がっていく。


「わ、わかんねぇ!! ──でも、花澤さんの取引相手の人に賢治が取られると思ったら嫌で…」


捲し立てるように言うと賢治の頰が緩む。


「…ふーん。…それって日菜子も俺のこと、好きって事…?」


その言葉に、私は思わず耳まで赤くしながら目を逸らす。


「…そうかも」


──そう答えた瞬間。


「っ、やった!!!」


そう言って賢治が私を横抱きにして。くるくる回り出した。


「っちょ! 賢治!! 事務所で何やってんの!」

「仕方ねぇべ! 嬉しいんだから!!」


その言葉に思わず笑ってしまう。


「──賢治」

「ん?」

「待たせちゃってごめんね」


こうして私と賢治は紆余曲折を得て、正式に付き合うことになった。


◇◇


「それじゃ、行ってきまーす。」


 ──そして、季節は巡る。

 ついに新春シンポジウムの季節がやってきた。


 私は白い息を吐きながら、賢治と手を繋いで新幹線の駅に向かう。


「懐かしいな。あれからもう二年か」


そう言って賢治が懐かしそうに笑った。


「うん、そうだね。あの時はまさか賢治と付き合うとは思ってなかったな」


そう言った私に賢治が少し口を尖らせる。


「…俺はあの時からこうなったらいいと思ってたけどな」


その顔に思わず笑ってしまう。


「ふふっ、シンポジウムのあと、ディズニーランド行くのが楽しみ!」


 ──一ヶ月前。


「女将ー! ステイリンクの花園さんから電話です!」


 予約がいっぱいでバタバタしていた時に花園さんから電話が来た。


(あれ? いつもはこんな時間に電話なんてしてこないのに。…何かあったのかな?)


「はい、河南です。──何かありました?」


すると花園さんの声がいつになく弾んでいる。


『か、わ、な、み、さん!!

 出ましたよー!! アワードの結果が』


その言葉に私は思わず目を見開く。


(…え、え、まさか…)


『おめでとうございますっ! 今年の東北地方のリトルスター賞は、湯宿のんびりや様が受賞しましたー! ぱちぱちぱち!!』


そう言われて一瞬意味が理解できなかった。


「え、う、嘘…、ほ、本当ですか?」

『はいー! こんな事でクライアントさんに嘘言ったら私が上司にしばかれますよ。


 ──今のお気持ちは?』


そう言われて、私は思わず涙ぐんでから、笑顔で答える。


『…最高です!』


電話の奥で花園さんがクスリと笑ったのを感じた。


 こうして私はワクワクする気持ちを胸に、新春シンポジウムに足を運んだ。


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