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リトルスター〜鄙びた旅館の女将になった私がテッペンを取るまで。  作者: 間宮芽衣


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【第二十五話】それでも、認めてほしかった。


『残念ですが、今回はご縁がありませんでした』


──数日後。


 改装も終わり、『リニューアルした宿特集』にまで載せてもらい、順調に進んでいた…はずだった。


 桐谷さんの言葉に私は何も言えなくなってしまった。


 ──アワードに落ちた。


 その事が私の胸に重く落ちてくる。


「…そう、ですか…」


どうしよう、うまく頭が働かない。桐谷さんが何か言っているけれど、全て耳を滑っていく。


『もしもし。河南さん? 申し訳ありません。電波悪いですか?』


桐谷さんの声でハッとする。


「あ、すみません…。大丈夫です…」


けっぱった。

手応えがあった。

いいように変わっていった。宿も、私も。


 ──それでも、ダメだった。


「──っ、」


就活で何度も何度も落とされたけどこんなに気持ちになったことは一回もなかった。


『…それで。来年の新春シンポジウムなのですが、一月24日に開催される予定です。


 ──参加されますか?』


行きたくない。

うち以外が表彰されるところなんて見たくない。

──どうして、どうして、どうして?


「…検討、させて下さい」


やっとのことで声を絞り出す。


 すると、受話器の向こう側で桐谷さんが息を呑んだのがわかった。


『──わかりました。まだ、申し込み締切まで時間があるので、検討してみてください。それで──』


「──あの!!」

電話を切ろうとした桐谷さんを思わず引き止める。


『…はい。』


「…うちの宿のどこが駄目だったんでしょうか? どうしてうちは、賞が取れなかったんだか?」


すると、受話器の向こうから沈黙が流れる。


『そうですね。まず、アワードの評価というのは12月から翌年12月までの評価や、宿泊者の流通売上、それに我が社のイベントへの貢献度やプランなどを通して決められます。


 のんびりやさんは、まず11月に一ヶ月間休館なさっています。


 それに、去年のこの時期から始めては下さいましたが、始めから全て順調だった、というわけではありませんでしたよね?』


その言葉に目を見開く。


 ──そうだ。去年のあの頃は私はまだ管理画面を触りはじめたばかりで、写真すら入っていなかったし、プランも本当に基本プランしか入っていなかった。


 努力してどんどん変わっていったという自覚はあった。


 けれど評価される一年間でずっと結果を出し続けたかと言われると、確かにそれは違う。


「そうですか…」


私は小さく息を吐く。


 悔しいけれど、それと同時にいきなり来年アワードを取りたいといったことが急に恥ずかしくなってきてしまった。


 卒業式でオフィスに行った時に花園さんに言われたことの意味がここにきてようやくわかった。


『…大丈夫、ですか?』


桐谷さんの気遣うような声が聞こえてくる。


「ごめんなさい、行きたくないです…、恥ずかしすぎます。私ったらあんな大口叩いて…」


すると、桐谷さんがふぅっと息を吐き出すのが聞こえた。


『僕は、来年こそは河南さんならいけると信じてます。期待させるようなことを言ってしまった僕も悪なったですね。


 でも本気で今年ももしかしたら…と思っていました。


 …今年受賞した施設さんも去年は同じ想いを抱いていた施設さんも多いんです。


 ──でも、折れずにここまで一緒に走り続けてくれました。


 その…ですから、気が変わったら教えてください』


(受賞した施設さんも去年は同じ想いを…)


「わかりました…」


私は受話器を置いて、オシャレになった事務所をぐるりと見渡す。


 前は冴えない灰青色の色褪せた事務用椅子に座っていたけれど、今はお洒落な椅子を買い直した。


 壁紙も少し黄ばんでいたものを全部直したし、ロビーのソファも色褪せていたけれど、新しくてお洒落な木製のソファを父ちゃんと賢治が一生懸命作ってくれた。


 改装後は、お客様の評価は目に見えて変わった。


──それでも。


確かに、一年前から先月までの評価と考えると『結果』はまだ出ていなかった。


 結果が出たのはここ最近のことだ。


 はじめから今回アワードを狙うのは厳しかったのかもしれない。


 けれど、『結果』は見えなくても私やスタッフの皆にとっては『努力』を重ねた一年だった。


(…まだ結果は出せてなかったけど、努力したことは誰かに認めて欲しかった)


 私は一人唇を噛んだ。


◇◇


「そっか。落ちちまったか」


結果を伝えると、爺ちゃんは複雑そうな顔をした。


「──桐谷さんの言ってることは最もだってわかるんだべよ。


 けど。悔しいし、なんだか恥ずかしいし、結果は出てなくても誰かに努力したことは認めてほしかった…」


声を震わせる私に爺ちゃんはポンポンと背中を叩いてくれた。


 ──その瞬間、目の前の景色が涙で歪んでくる。


「──日菜子はけっぱった。本当にけっぱった。取引先のOTAさんでそう言われたとしても、爺っちゃも、婆っちゃも。そして、一緒に働いている『のんびりや』の皆が一番わかってるべよ」


そう言って優しい顔で笑った。


 気づくと、頰に涙が伝っていた。


「うん、うん。そうだよね…。ありがとう…」


「──行ってこい」


泣きじゃくる私に爺ちゃんはそう言った。


「…え」


一瞬何のことか分からずに私はぐしゃぐしゃになった顔を上げる。


「アワード。悔しいのなら、だからこそ、行ってこい。日菜子のお陰で、宿、潤ったべな。去年はシンポジウムに行く金すらねぐて、婆ちゃんのへそくりで行ったけどよ」


そう言って爺ちゃんが顔を綻ばせていた。


「去年、悔しい思いした施設さんが、どういう想いで壇上に上がるのか、見てこい。


 ──きっとまた、違う景色が見えるから」


◇◇


「河南さんっ!!」


1月24日になった。今年は結局賢治も仕事だったので、私は一人で『新春シンポジウム』に参加した。


「川中さーん! 二ヶ月ぶりですね!」

「河南さんは今日は一人で来たの?」

「はい。賢治は仕事でしたし、出たい講習も2回目だから去年よりは絞り込めそうでしたし」


そう言った私を川中さんはじっと見つめてくる。


「…なんですか?」

「いや、一年で河南さん、大人っぽくなったなって。去年はまだ大学生でなんとなくキャピキャピしてたのに。──なんていうか、本当に仕事をしてる人の顔になった」


そう言われて思わず笑ってしまう。


「…なんですか、それ」


二人で談笑していると、桐谷さんが来てくれた。


「川中さん、河南さん。青森からはるばる来てくださって、本当にありがとうございます」


「いえいえ!! 今日はステイリンクのコンサルタントさん達、お忙しそうですね。でも、ちゃんとご飯は食べてくださいねっ」


川中さんがそう言うと、桐谷さんは「はい」と、言いながらはにかんだ。


 そんな彼に私はぐっと拳を握って切り出す。


「桐谷さん、私、アワードに行きたくないなんて言って御免なさい…」


すると、彼は目を丸くしたあと、微笑んだ。


「いいんです。──頑張ったからこそ、悔しかったんですよね? まだ結果を出せていなくてもこの一年で河南さんがずっと努力なさっていたのは、僕だって知っています。

 ──ですから、その上でここにこうして来てくださったことに、とても感謝しています」


その言葉に、私は彼を真剣な目で見据える。


「今年は落ちちゃいましたけど、また私、アワード目指して頑張りますから!」


すると、彼は嬉しそうに頷いた。


「…はい! また一緒に頑張りましょう」


そう言って一礼して、桐谷さんは去っていった。


 そんな彼はやっぱり国宝級イケメンだった。


「河南さん。行こっか」

「はい」


川中さんと午前の講習を受けた後、午後のアワードで壇上に上がる支配人や女将をジッと見つめる。


 そこには、去年とは違って、ただの感動だけではない感情が渦巻いていた。


(あの人達も、去年はここでこの壇上を見つめていたのかな。次こそ、『のんびりや』は絶対にあの場所に立つ)


悔しさ、羨望、恥ずかしさ。


 ──絶対に全てを乗り越えて、次こそは、あの場所で笑ってみせる。


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