【第十七話】イケメンに庇われたら、好きにならない方が無理だべ
「うわぁ…!こんなの…、会社じゃなくて本当にお洒落なお店のカフェでねぇですか!」
カフェテリアについた私は感嘆の声を上げる。
すると、桐谷さんは優しげな顔で微笑んだ。
「ええ。まあ、僕達もデザイナーさんに感謝ですね。あそこに僕達の会社のゆるキャラがいるので良かったら写真を撮影して行って下さい。12時になったら混むので、まずは席取りしてしまいましょうか」
そう言われて、二人で窓際の眺めのいい席に席を取る。
衝立には観葉植物の鉢が置かれていて、木製のテーブルに合わせて置かれている椅子はベンチ型である。
(うわぁ、わったいい眺め!)
思わずうきうきしてしまう。
荷物を置いて、桐谷さんと列に並びながらお盆に並んでいる料理を取り分けていく。美味しそうなものが多くて悩んでしまう。
結局エビの入ったサラダとパンと、キャロットラペ、それにグラタンっぽいお惣菜とローストビーフとアボカドのサラダ、ペンネのトマトソース味を少しずつ取り分けて会計した。
「あ、僕河南さんの分も払います。せっかく東京まで来てくれたので」
そう言われてキュンキュンしてしまう。
(はぅっ、イケメンな上に紳士だとは!)
密かに心の中で私は心臓を抑えてしまう。
「い、いいんですか? ではお言葉に甘えて。本当にありがとうございます!」
(国宝級イケメンにランチをご馳走になってしまった…!)
私はテンションが上がりすぎてジタバタしたくなるのを堪えながら御礼を言う。
席に着くと、桐谷さんがお盆を置くとにっこり笑って席を立った。
「僕、二人分お茶を取ってきますね。」
「っ、はい。」
そう言われて桐谷さんが戻ってくるまで窓の外を見る。
(…はー。心臓に悪いべ…)
そんな事を思っていると桐谷さんが戻ってきた。
「…待っててくださったんですか?すみません、食べててくださって良かったのに」
「いえいえ!一緒に食べた方が美味しいので」
私の言葉に彼は目を丸くしたあと、ふっと笑った。
「…そうですか。ありがとうございます」
「それにしてもわった景色がいいですね。見て下さい、あのビルに空が反射しててなんだか幻想的ですね」
私の言葉に彼がクスクスと笑った。
「…普段から来ているとそこまで見ていませんでした。河南さんから見えている世界はなんだか素敵ですね」
「…うーん、田舎者なもんで。つい都会すげぇってなっちゃうんですよね。一応東京の大学さ、通ってはいたんですけど」
すると彼は顔を上げた。
「初めてお会いした時そうおっしゃってましたよね。お住まいはどちらの方だったんですか?」
「町屋の方ですね、ちょっと下町っぽい感じが気に入ってて。電車も通ってますし」
駅の方には安くて美味しい定食屋さんもあったので、仲の良いチハルとよく通っていた。
「では、早稲田大学も近かったんじゃないですか?」
「あ、はい。割と。全然早稲田大学じゃないですけどね。でも、一回だけ友達と早稲田生の顔して授業に潜り込んだことはあります。
まあ、でも授業受けてる人達がみんな顔からして賢そうで。顔でバレるんでねぇかとドキドキしました」
私の言葉に桐谷さんが吹き出した。
(──うわ、この人こんな風にも笑うんだ)
なんとなく嬉しくなってしまう。
「いや、顔でバレるって…。絶対そんな事ないですよね…」
「まあ、田舎もんの憧れってやつです。あー…なりたかったな、都会のOLさん。結局戻って女将になっちゃいましたけどね…」
すると、桐谷さんが笑いすぎて少し涙を拭いながらながらこう言った。
「──でも、女将の河南さんも素敵ですけどね」
その言葉に顔が熱を持ってしまう。
「っもう、そんなに褒めてもなんもでねぇですよっ!」
なんとなく桐谷さんと仲良くなれたみたいで嬉しくなったしまう。
「そう言えば、今回東京に用事で来られるっておっしゃってましたけど…」
「あ。卒業式です」
私の言葉に桐谷さんが目を丸くする。
「──そうか、まだ河南さんって学生さんでしたよね。しっかりされてるからなんとなく忘れていましたけど」
「ええ、しっかり…? 私がですか? そんなことねぇですよー! 私就活の時も『イケてるOLさんになりてぇ』って言って50社くらい受けて落ちましたし…」
すると、桐谷さんはこんな事を言った。
「…それは皆さん見る目がないですね。学生のうちから室単価を二倍にして、稼働率までたった二ヶ月で上げられる人材はなかなかいないと思いますけど…」
「…もうっ、さっきから褒めすぎですってば」
ついニヤニヤしてしまいそうになるが、桐谷さんにキモいと思われたら嫌なので慌てて顔を引き締める。
すると、お盆を持ちながら座る所がなくて、キョロキョロしている社員さんがチラホラ見えた。
(…あ、譲ってあげた方がいいかも)
「あ、そろそろ混んできたみたいなのでいきませんか」
私がそう言うと桐谷さんが微笑んだ。
「はい。そうですね」
二人でお盆を置いてエントランスに向かおうとしている時だった。
「──桐谷先輩っ!」
驚いて振り向くとそこにはまるで私が想像したキラキラOLを体現したような女性が立っていた。
可愛らしいネイルを施した爪に、目の大きい可愛らしい顔、そして手入れの行き届いた長い髪に少しハーフのような顔立ち。
(すんげぇ美人な人…。青森でこんな人見た事ねぇ…)
服装はビジネスカジュアルといった感じでまるでファッション誌から飛び出してきたようだ。
「…花澤」
桐谷さんがポツリと漏らす。すると、花澤さんと呼ばれた女性は私に今気づいたようで目を丸くする。
「…あら?──すみません、クライアント様ですか?」
「はい。『湯宿のんびりや』の河南です」
私が名刺を差し出すと、花澤さんも名刺を差し出してくれた。
「ステイリンクの花澤エリーです。宜しくお願いします。まあ、青森からいらっしゃったんですか?!」
そう言って目を丸くしている。
(本当にハーフの人だったー!)
「はい。丁度東京に用事がありまして、せっかくなので桐谷さんに時間を取って頂いたんです。まだOTAさんを始めたばかりで右も左もわかってねぇんですけど…」
すると花澤さんが目を丸くする。
「はー…、そうなんですね」
「──花澤。河南さんは是非来年アワードを取りたいって言って今一緒に頑張って下さっていて」
桐谷さんがそう言うと、花澤さんが首を傾げる。
「…あ、そうなんですね。でも、今OTA始めたばっかりって仰ってたような…。」
「はい、この前やっとサイトコントローラーも入れたばっかりで…」
私の言葉に花澤さんが驚いた顔をする。
「え、え、その状況でアワードですか?! ちょーっと…まだ厳しいかもですよ〜? でも、これからって感じですね!」
「──花澤っ!」
すると桐谷さんが少し怒気を含んだ声で花澤さんを呼ぶと、彼女がビクリと震えた。
(…ビックリした。桐谷さんが怒ってるの初めて見た…)
「ふぁい…」
一方花澤さんは縮こまってしまった。
「努力している人にそういうこと言うなよっ! 河南さんは提案した事をすぐに実践してくれるフットワークの軽い人だ。 色んなクライアント様がいるけれど、『やる』と言いながら本当にやってくれる人は本当に一握りだ。
──河南さんのようにすぐに挑戦する『素直』な人は伸びる。
僕は『のんびりや』様が絶対にアワードが取れると信じている。」
その言葉に私は呆然としたあと、目頭が少し熱くなってしまった。
「も、申し訳ありませんっ、そう言うつもりじゃなかったんですけど…。ついポロッと…。」
そう言って花澤さんが慌てて謝ってきたので、私は首を振る。
「いえ、いいんです、まだまだなのは本当なので。」
私がそう言うと、桐谷さんが眉尻を下げた。
「…行きましょう。」
そういって、振り向いた彼の横顔を見てこんな事を思ってしまった。
──ああ、私、この人のこと、本当に好きになってしまうかもしれない、と。




