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リトルスター〜鄙びた旅館の女将になった私がテッペンを取るまで。  作者: 間宮芽衣


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【第十話】付き合ってねーよ。〜桜庭賢治視点


◇◇桜庭 賢治視点


(──あの壇上に立ちたい、か。)


俺はキラキラした目で拳を握る日菜子を横目で見た。


 あいつのあんな顔、久しぶりに見た。中学の時、文化祭で優勝狙うって言った時と同じ顔だ。


(…あれは本気だな。)


そしてふと、その横の桐谷さんを見る。


 恐ろしい程整った顔にビシッと着こなした高級スーツ。そして、ハキハキした口調に気配りの細やかさ。


 昨日部屋に戻ってから読んだ『東京カレンダー』にモデルとして出ていても違和感がないくらいにカッコいい。


(日菜子は、ああいう男の横に立つ方が、確かに似合うのかもしれねぇな。)


一方俺は、地元の建築事務所で図面を引く、ただの男だ。劣等感に少しだけ胸が騒めく。


 …でも。


(なら、俺は日菜子の夢が叶うように側で精一杯支えるだけだ。)


「…桐谷さん、ご飯食べないんですか?」


キョトンとしながら日菜子が尋ねている。


「今日僕達はおもてなしする側ですから、この場ではちょっと。その分、河南さんがいっぱい召し上がって下さいね。」


近くでそう言われて日菜子が顔を赤らめている。


(…まあ、あれだけのイケメンに至近距離で話しかけられたら誰でもああなるか。)


そう思いながらも、胸の中に嫉妬の感情が溢れてくる。


「おい。日菜子、これ美味かったぞ。」


日菜子の好きそうなケーキをお皿に置いてやると、日菜子の顔が輝いた。


「うわぁっ!賢治!ありがとうっ!!」


もぐもぐとケーキを頬張る日菜子を、つい目を細めて見てしまう。

 

 そんな俺達を川中さんがニヤニヤしながら見ている。


(…俺ってそんなにあからさまかな?今日初対面の人にすらバレたのに、なんで本人は全く気づかないんだろう。


 ──冗談めかして言ったけど、『嫁に来い』って言ったのも、結構本気だったのに。)


そんな事を思ってしまった。


◇◇


「それでは皆さんお気を付けて!」


立食パーティー後『新春シンポジウム』はお開きとなったが、青森の施設さん達で飲みにいくようだ。


「賢治ー!私もちょっとだけ行きたい!一緒に行こうよー。」


言いながらコートの裾を引っ張る日菜子が可愛すぎて不覚にもドキドキしてしまった。


「…明日朝早く部屋にガス会社の人が来るんだからな?一次会だけだぞ。」


俺の言葉に日菜子が嬉しそうに微笑んだ。


「うんっ!!」


そんな俺に工藤さんはニコニコと笑う。


「桜庭さん、先はなかなか長そうですね。頑張って下さい。」


「──そうですね。」


俺は思わず苦笑してしまう。


 俺達は会場近くのチェーンの居酒屋に入った。


 施設さん同士で普段から一緒に飲んでいるのか、和気藹々とした雰囲気だった。


 普段の悩みや、トラブルを聞いているだけで勉強になりそうだ。


 十和田湖近辺の施設さんが溜息混じりに言った。


「いやー、聞いてくださいよ。この前いらっしゃったお客様が、何で予約しましたか?って聞いたら某値段比較サイトからって言いまして。


 出した覚えのない値段で予約が入ってて、見たら海外のOTAで勝手にセールを始めてたみたいで。


 結局そのサイトの提携してる全く知らないインドネシアのサイトから予約が入ってて。


 いやー。チェックインで混み合う時間だったので、なかなか見つけられなくて焦りました。


 数えきれないくらい提携してるもんだから、なかなか探せなくて参りましたよ。」


十和田湖の施設さんが続けて言う。


「値段比較サイトって、あれ、宿が直接出してるわけじゃなくて、OTAの価格をサイトの方で勝手に拾って表示してるだけなんですよ。だからどこ経由か宿の方は分からないんです。


 正直ユーザーにとっては便利かもしれないですけど、宿としては結構困るんですよね。」


「…へえ。そうなんですね。」


俺が相槌を打つと、工藤さんがこんな事を言った。


「そう言えば皆さん海外OTAってどこに力を入れてますか?


 うちはオランダ系と欧米系の某サイトです。」


「うちもそれだけですね。あまり多いと管理も大変ですし。客層によっては、とんでもないことするインバウンドのお客様とかいますからね…。」


青森市内の違う施設さんの言葉に日菜子がキョトンとする。


「…どんな事したんですか?」


「一回びっくりしたのは火災報知器が鳴って慌てて客室に行ったら、客室で持ち込んだコンロで焼肉してたんですよ。


 …あれにはびっくりしましたね。」


(いやいや、どんな状況だよ!!)


俺は心の中でツッコミを入れてしまう。


 施設さん達の話は奇想天外な話が多く、面白かった。


「──まあ、この仕事をしてると、国によって本当に文化が違うんだなぁと感じさせられますねぇ。」


その言葉に何人かが頷く。


「そういえば、今日横浜の某チェーンホテルのレベニューマネージャーとお話ししたんですけど、部屋数1700室ですって」


「うわ、絶対やりたくないです。200室超えると、きついですよね。」


そんな話をして大いに盛り上がっている。だが、時計を見ると、もう21時を回っていた。


「日菜子、そろそろ行こうべか。」


「あ、そうだね。


 ──それじゃあ皆さん今日はありがとうございました!青森帰っても宜しくお願ぇしますっ!」


そう言って二人で外に出る。


 冬なので東京とはいえ、少し肌寒い。


「──楽しかったなぁ!!お金かかったけど参加して正解だったべな!!」


隣でお酒も入って少し頰を赤くした日菜子が笑っている。


 俺はその顔に少しドキドキしてしまった。


「それにしても、桐谷さん。

 …あの人、めっちゃモテそうだな。超イケメンだべな。」


俺の言葉に日菜子が笑う。


「ふふっ。確かに。婆ちゃんも国宝級イケメンが来たって言ってたもんなぁ。


 あ、でも賢治も中学の時めっちゃモテてたべな?!高校でも同じ学校行った友達が桜庭先輩モテてたって言ってたし!」


その言葉に、俺は思わず黙り込んでしまった。


「……俺、そんな事言われてたんだ。」


「ねえ、賢治今まで何人と付き合ったの?めっちゃ経験多そうっ!」


俺はなんて答えるか迷ってから、溜息を吐いた。


「…付き合ってねーよ。」


「え。」


そんな俺に日菜子は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていて思わず笑ってしまった。


「──俺、好きな子いたし。」


(お前だけどな。)


そんな事を思いながら口の端を上げる。


「…ていうか、お前、大学の時彼氏いたらしいじゃん。だからお前の方が──」


──そう。本人が大学一年の夏休みに帰郷した時に無邪気に報告してきた時の絶望と言ったら半端じゃなかった。


 悪気がなかったのがまた憎らしい。


 すると、日菜子が何故かモジモジし出した。


「…あー。確かに彼氏はいたけど、そういう事ってしたことないんだよね。」


その言葉に俺は目を見開く。


「──は?」


「彼氏が同じサークルの子と浮気してるのがわかってさ。気持ち悪くなって、そうなる前に追い出しちゃった。」


その場に沈黙が落ちる。俺の心の中にジワジワと喜びが満ちていく。


「…そう、なんだ。」


日菜子がジッとそんな俺の方を見てくる。


(いやいや、浮気されてたとか言ってるのに流石にニヤつくのはまずい。)


俺は必死で取り繕って、なるべく優しい声で慰める。


「つらかったべな。」


でも口元は、どうしてもほんの少しだけ上がってしまう。


 すると、日菜子が頰を膨らませた。その顔すら可愛くて仕方ない。


「…賢治、何ニヤニヤしてんの?」


「──してねぇよ。」


すると、日菜子がムキになって言い返してきた。


「絶対してた!もーこれだから賢治は!!絶対私のことバカにしてるべな!」


「…いやいや、馬鹿になんてしてねぇって!」


(よっしゃああああああああ!!!)


──俺は心の中で思わずガッツポーズを取ってしまった。


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