【第十一話】『見違えました。』
「今日は、ステイリンクのコンサルタントさんが二名『試泊』されます。
──皆さん、精一杯おもてなししましょう。」
私の言葉にスタッフさん達が真剣な目で頷く。
今日は桐谷さんと同僚の青森担当のコンサルタントさんが泊まりに来ることになっている。
試泊なので、費用は宿泊費や食事代は全て宿持ちだ。
──何故こんな事をする事になったかと言うと、話は十日前に遡る。
「桐谷さん!どうしても私、『ステイリンクアワード』であの壇上に登りてぇんです。
──でも、今の『のんびりや』じゃ全然駄目だって分かってます。
…どうするのがあの壇上に立つための、一番の近道だと思いますか?」
青森に帰った後次の日、タイアップキャンペーンの案内で桐谷さんが電話をくれた。
──確か行政とのコラボで、プランの名前に【ほたてん】と入れると、特集ページにヒットするというものだった。
『そうですねぇ。『のんびりや』さんの強みや弱みを客観的に誰かに見てもらって教えて頂くのがいいと思います。あとは、どんな想いで『のんびりや』さんを始めたのか、お爺様とお話ししてみるのも良いかと。
口コミも参考にはなりますが、手っ取り早いのは試泊して貰うことですかね。
ご友人で試泊してくれそうな方はいますか?』
そう言われて、私は考え込んでしまう。
(うーん…、とはいえ、身内だと甘くなりそうだし、友達だと気を遣いそうなんだよなぁ。悪いところも言いにくいだろうし。
誰か、良さそうな人…。)
そう思った瞬間、ハッとした。
「──んだば、もし良かったら、桐谷さんうちの宿に試泊してくれませんか?! 今度青森に出張に来る時!ついでに同僚の人も、もう1人くらい来てくれるとありがてぇです!」
こうして、打ち合わせの後、桐谷さんともう1人ステイリンクの人が試泊してくれることになったのだ。
◇◇
「シンポジウム以来なので、十日ぶりですね。
ステイリンクにお部屋出しされてから三週間になりますが、何か変化はありましたか?」
午前11時。十日ぶりの国宝級イケメンで目の保養をしつつ、私は元気よく頷く。
ちなみに同僚の方は仕事が終わったら来てくれるそうだ。
「っはい!!ステイリンクさん経由の予約の客単価が、23000円まで上がったんです!
旅行会社さんで集客していた時の二倍以上の単価になりそうで。
おかげで、設備とかにもう少し投資できそうです。
それに広告費や運営に必要な経費もこぃがら少しずつ出せそうですし…。」
その言葉に桐谷さんは嬉しそうに頷いた。
「──そうでしたか。
そう言えば、サイトコントローラーって何を使う事にされたんですか?」
「はい、結局今の『のんびりや』だとあまり高い費用は捻出出来ねぇ感じで。そんで、楽天グループの『ねっぱん!』を使う事にしました。無料ってのが大きくて。
んだはんで、楽天トラベルさんにもお部屋出しすることになりそうです。
本当は他の施設さんがイチオシしてた、リクルートグループの作っているTLリンカーンも興味があったんですけど。
サイトコントローラーに慣れたら、徐々に掲載するOTAは増やしていきたいですね。」
その言葉に桐谷さんは納得したように頷いた。
「いいですね。ねっぱん!ですとPMSとも連携しやすいですし。」
ちなみに、PMSというのは宿の顧客管理を一括で出来るシステムのことだ。予約情報の他にチェックインしたかどうか、ルームサービスを頼んだかどうかなども管理することが出来る。
サイトコントローラーは外のサイトとの連携用だが、PMSは宿の内部を管理する為のシステムである。
「それがうち、恥ずかしながらPMSを使ってねぐて。──全部アナログだったんです。」
すると、驚いたように桐谷さんが目を見開いた。
「そうだったんですね…。」
「ええ。だからこれから、サービスをもし増やすんだったら絶対に入れなきゃんねぇなって。
経営が安定したら、ステイリンクさんの広告も買わせて頂きますんで。」
そんな私を桐谷さんがジッと見てくる。
(ぎゃあああ!!!イケメンに見つめられたべっ!目がっ、目がぁあ!!!)
「…な、なんですか?!」
私が挙動不審になって尋ねると、桐谷さんが少し優しい顔をした。
「──いえ。
…たった三週間でよくここまで勉強されましたね。顔付きも女将らしくなってきましたし。
河南さん、凄く努力されたんですね。」
そう言われてジワジワと顔に熱が溜まっていく。
「…そ、そうですか、ね?」
「ええ。それに初めて来た時は私服でしたけど、今日は女将の格好をされていますし。
──なんだか、見違えました。」
──見違えました。
その言葉が頭の中をエコーする。そして、思わず悶えてしまいそうなのを懸命に堪える。
(…ああ、今日は国宝級イケメンにいっぺぇ褒められて、私、幸せだな…。)
そんな事を考えていると、コンコンと事務室をノックされた。
「はーい!!」
「──日菜子、俺だ。」
そう言われてドアを開けると賢治が神妙な顔をして立っていた。
「賢治!今日は本当にどうもね!わざわざ休みまで取ってくれて。
桐谷さん。お食事の時、食べる前にちょっとだけ写真撮らせて頂いてもいいですか?
──賢治が撮影してくれるんで!」
「──もちろんです。桜庭さん、今日は宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願ぇします。」
その言葉に桐谷さんが頷き、賢治がペコリと頭を下げる。
「…ところで、社長は本日はいらっしゃいますか?」」
「あっ、爺ちゃんは大分腰が良くなったんで、料理長の松本さんと一緒に新メニューを今作ってます。
爺ちゃん、元々料理人だったんです。呼んできますか?」
その言葉に桐谷さんが思案顔をする。
「いえ、では後ほど挨拶だけさせて頂ければ…」
「あ、じゃあどんな料理を作っているか見に行きましょ!──賢治も行こ!!」
そう言って三人でぞろぞろと食事処に向かう。
「おーい、爺ちゃーん!ステイリンクさん来てくれただよ。」
「おー、イケメンの兄ちゃんっ!!遠いとこさ、よく来てくれたなぁ。ドーーーン!!」
そう言って桐谷さんにエガちゃんの真似をすると、桐谷さんが固まってしまった。
「…え?!」
「ちょ、ちょっと!!爺ちゃんっ!!伝わってないよ!
──すみませんっ!!桐谷さん、爺ちゃん、エガちゃんが好きで!」
クックッと後ろで賢治が笑ってる。
「爺ちゃん、相変わらずだべな。」
すると、桐谷さんが少し動揺したように挨拶をした。
「すみません、まさか江頭さんのネタがいきなり出てくるとは思わなかったもので。
ご無沙汰しています。今日は試泊させて下さるとのことで、ありがとうございます。」
「いいってことよ!! いろんな意見、いっぺぇくれよな。あ、新メニュー見ていくべ?」
その言葉で料理長の松本さんが『たっぷりホタテ漬け丼』を出してくれた。これでもかと帆立が乗ったどんぶりの上には卵黄がのっている。
「何これー!面白いっ。映えそう。」
私が興奮してそう言うと、松本さんが少し得意げな顔をする。
「日菜ちゃんが、『バエそうなやつ』っていうからよ。おじさん頑張っちゃったもんね。」
「いやー、松本さん、めっちゃいいっ!どうもねー!!」
その横で、賢治が気を利かせてパシャパシャと一眼レフで写真を撮ってくれている。
「おうよ。あ、兄ちゃん、昼飯って食べたか?
──賢治も良かったら。日菜ちゃんと三人で昼飯食ってかないか?写真撮ってくれるお礼だべ。」
すると、桐谷さんと賢治が目を見開いた。
「良いんですか?では、お言葉に甘えて。」
「んだば、ご馳走になります。」
私はというと、初めての国宝級イケメンとのランチにすっかり舞い上がってしまった。
「わぁ、松本さん、爺ちゃん、ありがとうっ!!
座ってて下さい!桐谷さん、賢治、今私お茶持ってきますっ!!」
こうして、私達は三人でランチをすることになった。




