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服の下を透視する能力を得たら、あなたは何をしますか?  作者: メモ帳パンダ
右肩に棲むもの

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第39話 宮崎

 カーテン越しの眩しい朝日で目を覚ます。

 今日は、ファシアは綾辻先輩と寝ているので、部屋にいない。

 飼い猫を取られて、普通に寂しい。


 リビングに行くが、先輩はまだ起きていない様子だ。

 いや、部屋から物音が聞こえる。ファシアと遊んでいるのかもしれない。


 リビングのテーブルの上には、結婚情報誌が開いた状態で置き忘れてあった。

 開いているページは――

『特集:学生結婚の不安を解消!』


 先輩は『うっかり』結婚情報誌を家中に置き忘れる癖がある。


「まったくもう、仕方ないなぁ。」


 俺は結婚情報誌を本棚にしまい、代わりに『日本内科学会雑誌』を置き直しておく。

 開いておくページは『慢性腎臓病治療におけるポイント』だ。


 この雑誌は夏目先生から、過去のアーカイブを定期的にもらっている。

 学会誌というのは医者にとっては付き合いで、半強制的に取らされているようなものだ。

 だが、この学会誌は結構内容が充実していて参考になるんだよなぁ。

 俺も個人的に購読したいレベルだ。


 先輩の部屋のドアから、ファシアの声が聞こえてくる。


「ニャッ!ニャン!」


 そろそろ、ファシアのテンションが最高潮に達してきたんだな。

 あと少ししたら、餌を求めてリビングに来たがる時間だ。


 そろそろ、朝食の準備をしよう。

 同棲生活では、料理をはじめとする家事は二人で順番に回している――建前上は。


 といっても、先輩は俺を徹底的に甘やかしてくる。

 なので、実際はほぼ毎回、先輩が料理を作ってくれる。

 順番なんて、あってないようなものだ。


 昨日の晩の残りを温め、テーブルに並べていると、

 先輩と、その足に張り付いたファシアがやってきた。


「おはよう! あのね、昨日雑誌で見たんだけどね」


 そう言いながら、テーブルの上の雑誌を手に取る。

 そして、手に取って初めて、すり替えられていることに気づいたらしい。

 少し口を窄める。かわいい。


「あぁ、慢性腎臓病の件ですよね。ブドウ糖の再吸収を抑える薬、楽しみです」


「もう、ヒノくんの意地悪!」


 付き合い始めて、まだ一年も経っていない。

 さすがに、結婚を考えるには早すぎると思うんだよなぁ。


 テレビでは、これから始まるプロ野球の春季キャンプ特集が流れている。

 去年、俺が応援しているチームは惜しくも2位でシーズンを終えた。

 本当に、僅差だった。


 CSでも、ファーストステージで敗退してしまった。


 画面には、日本一になったチームの胴上げ映像。


「去年はあとちょっとだったのに、優勝できなくて残念だったね」


「そうですね」


 世間では、パ・リーグの首位打者だった犬飼選手が、

 あと数試合出場していれば、優勝できたのではないか、という声もある。


 確かに、その可能性はあっただろう。

 だが、俺は犬飼選手にドクターストップをかけた判断を、後悔していない。


 試合映像の中で、チラッと犬飼選手――いや、今は犬飼コーチの姿が映った。


「犬飼コーチ、いきなり二軍ヘッドコーチってすごいなぁ」


 球団は、犬飼コーチを球団の顔として育てたい様子だ。

 かなりのベテランとはいえ、引退直後に二軍ヘッドコーチへ抜擢するのは、かなり思い切った判断だろう。


「ねぇねぇ、ヒノくん。二月の連休なんだけど、鍼灸院の予約ないよね」


「そうですねー。

 ……あ、ファシアちゃん。おはよう」


 寄ってきたファシアを抱き上げて挨拶する。

 この子は俺のことも大好きなので、

 先輩と十分に触れ合ったと判断すると、ちゃんと俺のところに来てくれる。


 きっと夜の間に、たっぷり遊べたんだな。


 莉子さんは有給を使って海外旅行に行くらしい。

 他の常連アスリートたちも、連休中は色々忙しくて来られないようだ。


「あのね、宮崎の青島ってところに別荘があるんだけど、旅行に行かない?」


 先輩パパ、別荘いくつ持ってるんだろう……。

 山梨にもあるはずだし。


 先輩と付き合ってから、宿泊の旅行って行ったことがない。

 デートは、いつも都会が中心だった。


「うーん……ファシアちゃん連れて行くにしても、ストレスとか大丈夫かな……?」


「プロ野球のキャンプ地も、結構近いよ!」


 あ。

 宮崎といえば、プロ野球のキャンプ地だ。


 サインもらいに行くのもいいかもしれないな。


 俺が乗り気になってきたのが分かったのか、先輩は畳み掛けてきた。


「バーベキューコンロもあるから、毎日バーベキューし放題だし、

 ファシアちゃんも自然豊かなところの方が、楽しいと思うんだけどなぁ」


 ね、お願い。

 上目遣いの先輩。


 ……ずるい。


 もう、そう言われたら断れない。

 高校時代から、俺は先輩のお願いには弱いのだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 でっけえ。

 宮崎空港からレンタカーでやってきた先輩家の別荘は、とんでもない大きさだった。

 普通に豪邸じゃないですかね。なんか二階建てぐらいあるし、プールもあるし。さすがに二月だから水は入ってないけど。


「ここはパパの会社の別荘の中で一番大きいんだよね!」


 馬鹿みたいに広い寝室には巨大なダブルベッド。

 他の部屋にベッドはない。

 ……というか、わざわざ他の部屋からベッドを片付けてない?


「あれ、僕の寝室は……?」


「もう、同じ部屋に決まってるでしょ!」


 やられてしまった。

 それがこの旅行の目的の一つか。

 人と一緒に寝るの、正直ちょっと怖いんだけど……大丈夫かな。


「ニャ!」


 ケージからファシアの声が聞こえる。

 長旅の間、入れっぱなしだったから出してあげないと。


 ドアを開けると、俺の足元でニャーニャー泣いている。かわいい。

 おむつを外してあげると、猫用のトイレに一直線に向かった。


 移動中は我慢してたんだな。


 ファシアは我慢していたせいか、少しリンパが浮腫んでいる気がする。

 綺麗好きなんだな。まぁ、女の子だしな。


 用を済ませたあと、ファシアは俺の足元に戻ってきて、

『酷い目にあったよぉ……』

 とでも言いたげな顔で見上げてくる。

 そんなファシアを、リンパマッサージで慰める。


「ファシアちゃんはかわいいですねー」


「ニャ……ニャ!」


 先輩に飛び付かないのはいいことだ。

 ケージに入れる『嫌われ役』は先輩に担当してもらったのだ。計画通り。


 ……ちなみに30分くらいで許したのか、その後は先輩の足に張り付いていた。


 別荘からは太平洋が一望できる。


「宮崎って南国っていうほどだから、二月でももうちょっとあったかいかと思ってたんですけど、本州とそこまで変わらないですね」


「沖縄の方が良かった? ごめんね。沖縄の別荘はパパが取引先に貸してて、使えなくて」


 沖縄にも別荘あるんですね。


「あ、いや。ここでキャンプする選手が大変そうだなって思っただけです」


 でも、宮崎いいかもしれないな。

 春季キャンプで宮崎にいる犬飼コーチとも、バーベキューをする予定が急遽入ったし、練習試合も見る予定だ。


 楽しみだなぁ。

 でかいベッドに何度もダイブしては転げ回るファシアを眺めながら、俺はひとり、胸を膨らませていた。


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