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022.十階層ボスへの挑戦・壱

「人が多いな」

「もう早い人はGWだもんね」


 JDA・ギルドの入口には探索者が列を作っていた。それほどの探索者が集まっているのだ。その中には上級探索者も当然居り、今年の三月か四月に探索者登録をした駆け出しも混じっている。


 やはりGWは探索者たちも狙っているのか、人が多くなる。人が多いと言う事は取り分は減るが、その分安全に攻略できるし、危険に陥った時に助けてくれるかもしれないパーティが多いと言う事でもある。


 多くエンカウントして戦いたいパーティには向かない時期ではあるが、階層を更新したい層はGWや夏休みの時期に集中すると聞いたことがある。


「そういえば最澄、盾新しいのにしたんだな」

「あぁ、この前のクイーンビー戦でボコボコになっちまったからな。奮発していいのを買ったぜ」

「北条ダンジョンギアの製品だろう。梨沙に言えば割引して貰えたと思うぞ」

「マジか」


 十兵衛が最澄にそう言うと最澄はショックを受けたようで膝をついた。


「茜もドローンを買い直したんだよな。ダンジョンで得た金銭は山分けじゃなくて半分はパーティ資金にして、そこから装備の更新の補助やドローンが壊れた時の補助金にしておこうか」

「それいいね!」


 十兵衛がそう提案すると梨沙が乗ってくる。


「そうね、そうしてくれると助かるわ。ドローンも高いのよね」

「割引……、先に言ってくれれば……」


 最澄はまだ戻ってきていないみたいだが茜は十兵衛の提案に賛成のようだ。実際前回の探索では一千二百万を超える報酬を得た。討伐報酬に加え、クイーンビーの蜜が高値で売れたのだ。


 実際クイーンビーの蜜は小さな壺でも十万円を超えるらしく、それが大きな壺で手に入ったのだ。それだけでも数百万になった。それに加えてドロップ素材や魔石などを含めると結構な金額になった。


 ただもちろん一回潜れば毎回それだけ稼げる……と、言うわけではない。

 通常のダンジョン探索だと一回の探索で一人十数万円くらいが良いところだろうか。八階層だとおそらくそこが限界だ。


「北条ダンジョンギアの製品は梨沙を連れて行くといいぞ。少なくとも二割は割り引かれる筈だ」

「え~、五割くらい割り引かれるんじゃない?」

「マジか……。俺の三百万が半額に……」

「まぁもう買っちゃったものは仕方がない。次に活かそうぜ」

「そうだな。相談すれば良かっただけの話だもんな」


 最澄はようやく復活したようだ。

 ギルドのクエストボードを見るとゴブリンキングの討伐が残っている。

 ゴブリンキングとは一桁階層の後半に出てくるワンダリングボスだ。十階層の最奥にはボス部屋があるが、それとは別にゴブリンの集落を作り、大量のゴブリンを率いている。大体八階層か九階層に居ると聞いたことがある。討伐動画を見たが大体三十から百人くらいの体制で挑むレイドボスのようだ。


 そしてゴブリンの集落が大きく成りすぎないように、ギルドから常に恒常依頼として出されており、大きく成りすぎそうになったらギルドは指定探索者に依頼して潰しても貰うらしい。

 ちなみにゴブリンキングの討伐報酬は一千万である。ただキングの周囲には数百のゴブリンが居り、更にゴブリンジェネラルやゴブリンリーダーなどもいる。


 もし集落を完全に壊滅させられたら一千万どころではない。その数倍の金額が入ってくる。ただしレイドになるので当然一人当たりの分前は少なくなる。そこら辺が痛し痒しと言う塩梅なのだ。

 通常はゴブリンキングに出遭ったら逃げろ、と格言のように言われている。


「ゴブリンキングか。見つけてもスルーするようにしような」

「えぇ、わかったわ」

「いや、四人でキング種に挑もうなんて思わねぇよ!」

「十兵衛ちゃんがそう言うなら従うけど、出遭っちゃったらしょうがなくない?」

「梨沙はまず八階層突破を目指そうな。この前の探索で大分慣れただろ?」


 梨沙は十兵衛の言葉に表情を濁した。


「慣れたっていうか、やらなきゃどうしようもないって言う気分でやってただけでイヤなものはイヤだよ。また行かなきゃいけないなんて地獄だよぉ」


 十兵衛は梨沙の言葉は無視することにした。

 今回の探索で十層まで行く事は決定している。其の為の装備も整えて来た。泊りがけになる可能性も最澄と茜にも伝えてある。


 泊りがけになる場合は安全地帯に梨沙が結界を張り、二人ずつで夜間の見張りをしながらすぐ飛び起きられるタイプの寝袋を使う事になっている。視界が悪くなるのでテントはない。これは探索者の常識だ。


「さぁ楽しい探索の始まりだ」


 十兵衛はそう言ってようやく回ってきたダンジョンの入口に足を踏み入れた。



 ◇ ◇



「十兵衛のアカウントやばない」

「うん、一気に十万登録者とか超えてるんだけど」


 :十兵衛くんの配信きたー!

 :待ってた!

 :他の人の配信だと十兵衛くんの活躍が早すぎて見えないんだよね。結構遠くで戦ってたりするし。

 :忍術見たい!

 :いや、マジ忍術凄いよな。この前のクイーンビー戦とか圧倒的だったもん。


 今回は梨沙の勧めでアカウントを作り、十兵衛のアカウントでの初配信となった。しかし配信を初め、六層に入った瞬間にバーッとコメントが凄い勢いで流れ出す。


「マジか」


 十兵衛の視界にはARで既に三十万登録者を超えましたと言う赤字が表示されている。それだけ十兵衛の配信に需要があったと言えるが、チーム・暁での配信はまだ梨沙、最澄、茜と三回しかしていない。

 しかし梨沙の登録者は五十万人を超えているし、最澄と茜も十万人を余裕で超えたと言っていた。


 最澄はソロで低階層なども潜っているが、それでも視聴者が倍どころではなく、十倍を超えたと言っていた。

 だが十兵衛は自分のアカウントを待ち望んで居た視聴者がこんなに居るとは思っていなかったのだ。


「マジだ。諦めろ。十兵衛。と、言うかいきなり五十万人超えて百万に達しそうな勢いだぞ」

「そうね、同時接続数が十万人超えているものね」


 最澄と茜があっけに取られている十兵衛に声を掛け、梨沙などはポンポンと十兵衛の肩を叩いてくる。


「これで十兵衛ちゃんの凄さが世界に広まるね!」

「いや、忍者は本来忍ぶ者なんだが!?」

「いやいやいや、あれだけ活躍しといて忍ぶとか無理でしょ」

「忍術とか普通に使って配信しているじゃない。無理よね」


 十兵衛の味方は誰も居なかった。だがこうなってしまってはもう仕方がないと十兵衛は諦めた。

 それだけ求めてくれている視聴者がいるのだ。その期待に応えなければならないと謎の使命感も湧いてきたくらいだ。


「まぁいいや、行こう。今日の目標は夜までに九層に達することだ」

「あ~、またあの八階層かぁ。クイーンビー見つけても排除しようとか言わないでね。ビッグアントの巣を見つけてもスルーしようね。お姉さんとの約束だからね」

「誰がお姉さんだ! そろそろエンカウントするぞ」

「誕生日はあたしの方が先だも~ん。あっ、〈六角障壁〉!」


 梨沙はそう言いながら突撃してきたコボルトライダーに障壁を張り、攻撃の足を止めさせる。

 十兵衛たちの十階層までの挑戦が今、始まった。


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