021.配信の影響
「お、茜じゃないか」
「最澄」
木曜日の午後、ダンジョンビルで茜と最澄は出会った。と、言ってもダンジョン装備を売るショップの前なので二人とも装備について悩んでいたので必然といえる。
「考えることは一緒か」
「そうね、十兵衛くんと梨沙ちゃんの実力と装備を考えると装備更新も考えなきゃって思うのよね。ただ十層までは今の装備のままでもいいと思ってはいるのよ。先の話ね」
「俺の場合はキラービーとの戦いで盾にガタが来たんだよな。修理にだしたら新しいもん買った方が早いって言われて見てるんだけど新品の盾って高いんだよな。この前の報酬全額突っ込んでも足らないかもしれん」
前回キラービークイーンを討伐し、更に襲撃者も撃退したことで、最澄も茜も一回の探索では破格な三百万円と言う金銭を得ている。更に茜は自身のアカウントで配信していたので、それに十数万円が追加される。
一回の配信で十万円以上投げ銭が来たのなど、茜にとっては驚きでしかない。だが十兵衛や梨沙の実力を考えればそれだけの視聴者が付くだろうことは簡単に予想できる。
「今後も配信の視聴者は伸びるだろうな」
「えぇ。それは間違いないわね」
「う~ん、先行投資だと思って三百万の盾買うかぁ。十兵衛は梨沙ちゃんの事を本気で守ってるようだから、梨沙ちゃんの安全の為にも、十兵衛の信頼を得る為にもここで金ケチるのは違うよな」
「そうね、私の武器はうちの道場に代々伝わる業物なの。だから少なくとも中層までは通じると思うわ。でも中層後半になったらダンジョン鉱物から作られた薙刀や刀を新調しないといけないのよね。刀はともかく薙刀は物が少ないから高いのよ。そういう意味で私は貯めておかないとだわ」
最澄は茜の発言に肩をすくめた。
「家に十分通用する武器があるってだけで羨ましいけどな。まぁそれも含めて探索者だからな」
「と、言っても彼らと潜っていけばどんどんと稼げるようになると思うわよ。中層探索者で年収一千万とか平気で居るじゃない。専業だけれど、それでも潜っているのは週三日とか四日よ。学生やりながらだとどうしても二~三日になっちゃうけれど、同じくらい稼げると思うわ。だからいつか、この刀も手に入れて見たいのよね」
「一、十、百、千……うおっ、億超えの刀か。マジか」
最澄は茜が見ていたショーケースの刀の値段を見てマジドン引いていた。だが上位探索者になれば数千万の装備など当たり前になる。
すでにそれと同等の装備を持っている十兵衛と梨沙がおかしいのだ。
ただ実家の太さや生まれを嘆いても仕方がない。実力があれば探索者は成り上がれる世界なのだ。ただし命をベットしたら、と注釈は付くが……。
「十兵衛くんが使ってる黒魔鋼の忍者刀とかは刀身が短いからあれだけれど、多分素材は同じだと思うわよ。値段も数千万する筈ね。ちょっと触らせて貰ったけど凄い業物だったわ」
「そうなのか。俺はそういう目利きはわからんが、やっぱり凄いんだな。梨沙ちゃんの装備が凄いのは見ただけでわかるけどな」
「あれは深層に出てくる蜘蛛の魔物の糸と魔鉱石を糸にしたのを織った特別なローブね。多分八階層のモンスターから突進を受けても傷一つ負わないわよ」
「そんなにか」
「そんなによ」
茜の言葉に最澄は少し暗い気分になってしまった。自分は三百万円の盾で悩んでいるがパーティメンバーは桁が一つも二つも違う得物を使っているのだ。並び立つには同じだけの装備を揃えるしかない。
「茜の薙刀や太刀も業物なんだろう? 幾らくらいするんだ」
「う~ん、多分一千万くらいね。歴史的価値もあるからちょっと値段と価値が連動してないのよね。うちは古くからある古武術の道場だから」
「そうか、俺の短槍も新しくしないとな。結構やすい奴だから十層を超えたら流石にお役御免になっちまう」
「最澄はまずは盾役なんだから盾と鎧にしっかりお金掛けなさい。梨沙ちゃんは攻撃力もあるからそれほど心配しなくて大丈夫よ」
「そうか、そうだな。とりあえず盾買ってくる。ありがとうな」
「えぇ、また」
最澄は盾を買いに行き、茜は億超えの刀と薙刀をいつか手に入れてやると決めて、その場を別れた。
◇ ◇
「ねぇ、チャンネル登録者数がヤバイんだけど」
「どうヤバイんだ。俺はチャンネル作ってないからわからん」
「もう五十万人超えた」
大学の構内で十兵衛と梨沙は昼食を食べていた。食べ終わり、まだ昼休みがあるので話していたところ、梨沙からとんでもない発言が飛び出した。
「はっ?」
「だからもう五十万人超えたんだって。すっごい増えてるの。ヤバくない」
「いや、ヤバイな。いい事もあると思うが、顔が割れているから狙われる対象になることもあるかも知れない」
「も~、十兵衛ちゃんはすぐ悪い方に考えるんだから。でもそうだよね、良い事ばっかりじゃないよね」
「あぁ、クランの勧誘とか来るかもな」
十兵衛はさらっとそう言うと梨沙は真面目な表情になった。
「クランの勧誘、幾つか来てるよ。まだ返事は保留にしてるけど」
「マジで?」
「うん、調べて見たら結構大手のクランから小さいクランまで選り取り見取りって感じ」
「クランかー、いやでも梨沙はクラン入るつもりはないんだよな」
十兵衛が確認を取ると梨沙は首を縦に振った。
「うん、今のところはないよ。今の四人でどこまで行けるのか試してみたいと思う。レイドとかも組むならレオ先輩のパーティとかと組みたいな」
「そうだな、知らない奴とは組みたくないよな」
「もちろんクランに入れば特典とか色々あるんだと思うけど、北条ダンジョンギアほどじゃないと思うんだよね」
「それな」
クランとは色々なパーティが寄り集まって作る集団のことだ。クラン内で助け合い、初心者から上級者までいるクランが多い。そして大手クランになると百人を超える探索者を超えるクランもある。
もうそこまでになるとクランと言うよりも企業に近い。実際大手クランは経理担当や総務担当などを募集していたりするのだ。
探索者だけでは雑務が溜まりすぎ、それを解消するための人員を普通に募集し、就職先としてもありな選択肢だと就活生には認知されている。
「クランは崩壊があるからなぁ」
「あぁ、そうねぇ。上層部の意見が合わなくてクラン解散とかあるよね。でもそれは企業でも同じじゃない?」
「まぁな。企業の場合はどっちかが勝って負けた方を追い出しポストにつけるって感じだけどな」
「北条グループでもそういうのあるんだよね~。で、あたしに媚び売ってきたりするの。本当イヤ。また今度パーティでないとなのよね。十兵衛ちゃんも来てくれるんでしょ?」
ポリポリとお菓子を開けながら梨沙が聞いてくる。
「あぁ、俺も成人したしちゃんと護衛役やれって言われたな。しっかりした防刃スーツを仕立てられたぞ。スーツの内側に手裏剣仕込んだりしてるな」
「十兵衛ちゃんとのパーティは久しぶりだから嬉しいな。高校の時とかは十兵衛ちゃんじゃない人が一緒だったから。もちろん良い人だったけどね」
「高校は勉強が大変だったからな、この大学に入る為にすげー勉強したんだぞ」
十兵衛がそう言うと梨沙はにっこり微笑んだ。十兵衛はどきんとする。
「えへへっ、十兵衛ちゃんが同じ大学に来てくれて凄い嬉しいよ~。大学生活もダンジョン探索も頑張ろうね」
「お、おうっ」
ぐいと乗り出した梨沙に、十兵衛は小さく返事することしかできなかった。




