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嵌められ勇者のRedo Life Ⅳ  作者: 綾部 響
2.美食への誘い
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目指すべきもの

フィーナの発言は、俺にとって驚く以上のものだった。

ハッキリ言って信じられない内容だったんだけど……それも、本当の事なのかどうか……。

 フィーナの口にした内容は、どうにも要領を得ないものだった。


「……はぁ?」


 だから俺の口からは、この上なく間の抜けた声が出ちまったんだ。


 以前から女神フィーナは、俺を「未来担いし者(ブレイバー)」とやらに任命して、何かをさせたいと言っていた。その内容は未だ話してはくれてないんだけど、それには「勇者」って職業にもう一度就かないといけなかったんじゃなかったっけ?

 実際フィーナは、俺に勇者を目指すように進言……っていうか、命令してきていたしな。


「ちょ……ちょっと待てよ! お前この間、俺に勇者を目指すように命じてたよな? あれは一体何だったんだよ!?」


 慌てる俺の質問に、当のフィーナは特に動揺する事もなく、淡々と口を開き出した。


「あぁあ……あれねぇ。あの時のあんたには、明確な目標がなかったみたいだから、私が与えてやっただけなのよねぇ」


 この女神、言うに事欠いて恩着せがましい台詞を吐きやがった。俺にしてみれば、そんなのは大きなお世話としか言いようがない。


「勇者」って職業を取得する為には、そりゃあ多くの職業を習熟しなきゃならない。しかもそれだけじゃあなく、とんでもなく入手困難なアイテムも複数用意しないといけなかった……筈だ。

 明確に転職条件が分からないのは、当時も偶然手に入れた職業だったからに他ならない。なんせ「勇者」ってのを発見したのは……前世の俺たちのパーティが初めてだったんだからな。


「た……確かにあの時は、ハッキリとした目標があったって訳じゃあなかったけど……」


 だからこそ、今の俺には絶句するより他になかったんだ。

 今でこそグランドクエストでもある、「眠れるエリンを1日も早く目覚めさせる」って目標があるけど、それも今すぐに目指して進めるような事じゃあない。何年かの年月が必要だし、それ以外に目標があるって訳でもない。

 それにしたって、俺はてっきり、「未来担いし者」に必要な条件だと思っていたんだ。だから「勇者」という職業を、必ず習得しないといけないと思っていたのに。

 そんな俺に、フィーナはさっきと変わらずに単調な声音で説明を続けた。


「今のあんたには、『勇者』って職業は特に重要じゃないわ。それだけじゃなくって、他の職業も習得必須って訳じゃないわね。『勇者』を取得するのに色んな職業をある程度修めてるし、その特性や技能も覚えてるでしょ?」


 スラスラと説明するフィーナを、俺は多分惚けた顔で見つめていたに違いない。誰に言われなくても、流石に今の俺の顔は自分でも想像できるからな。

 それにフィーナは今、何やら重要な事をスラスラと語っていた気がする。


「勇者」でもない俺が「勇者技」を使って見せたのは、その原理を知り、どうやれば発現させられるか知っていたからだ。

 それを考えれば、その他の職業で使えた技も使う事が出来るだろう。今のところ戦闘時においての武技だけだけど、もしかしたらその他の技能も使用可能も知れない。

 でもそれじゃあ、「未来担いし者」ってのは一体……。


「じゃ……じゃあ、お前の言う〝未来担いし者〟ってのは、今までにない『未知の職業』って事なのか?」


 これまでのフィーナの説明を聞く限り、彼女の言う「未来担いし者」っていうのはかなり重要な立場なはずだ。なんせ、今世の俺の生き方にまで制限を設ける(・・・・・・)くらいだからな。


 冒険者をやっていれば、どれだけ気を付けていても不慮の事故は避けられない。不意な事態に対処できず、命を落とすなんて話はそこら辺に幾らでも転がっているからな。

 でも彼女は以前、そんな俺に簡単には死なないように告げてきていた。あっさりと人生を幕引きしない様に宣告してきたのだ。

 それが、彼女にとってどれくらいの重要度なのかは分からない。もしかすれば、考えなしで口にしたどうでも良い事なのかも知れない。

 だけど俺にとって……いや、一般的な人族にとって、女神のお告げはそれなりに……いやいや、かなぁり重要度が高い。それこそ、決死で順守する必要を感じるくらいに。

 そんな女神フィーナが俺に与えた……いや、押し付けて来た使命が「未来担いし者」と言う役どころであり、その為にはかなり得難い能力や職業が必要だと思っていたんだが……。


「ううぅん……。特に『未知の職業』って訳じゃないわね。あんたが知らない職業もまだあるでしょうけど、それが必要って事でもないわ」


 しかし、どうやらそれは俺の勘違いだったらしい。と言うよりも、彼女からの説明不足だと言った方が良いだろう。


「じゃあ結局、その『未来担いし者』ってのは一体何なんだよ?」


 そして詰まるところは、ここに行き着くんだ。フィーナからの説明が一切ないから、彼女の話がコロコロ変わっても納得する事が出来ない。それどころか、混乱するまである。


「だぁかぁらぁ……。今は言えないって、ずぅっと言ってるじゃないの」


 そんな俺の疑問に、フィーナはこれまでと変わらず回答拒否を示したんだ。……ううぅん、これは話にならないってやつだ。


「……はぁ、もう良いよ。……それで、俺はこれから何をすれば良いんだよ?」


 この問答を繰り返したところで、きっと得るものは何もないだろう。それなら彼女に、今後の方針を聞こうと思ったんだけど。


「……え? そりゃあ……『勇者』を目指したら良いんじゃない?」


 なんで疑問形なんだよ。んで、なんでまた「勇者」を目指すって出てくるんだよ。


「だってさっきは、『勇者』なんて必要ないって言ってなかったか?」


 俺が脱力感を伴って質問するが、フィーナの方はそんな俺を気遣っている様子なんてない。


「だから、とりあえず目標として『勇者』を目指せばいいのよ。その過程で、何か得るものがあるかも知れないでしょ?」


 こりゃあ、女神の口にしていい台詞じゃあないよなぁ。話が二転三転するだけじゃあなく、希望的観測やら不確定要素が満載過ぎて話にもならない。


「……わかったよ。……でもそうなると、俺の命の安全は保障できないからな」


 会話にならず得るものもないなら、こちらが妥協してとっとと話を打ち切るに限るな。俺も半ば投げやりに、この場を終わりにしようと返答したんだけど。


「それはダメよ。あんたは何が何でも、出来るだけ長く生き抜くように努力するのよ」


 返ってきた言葉は、はっきり言って呆れるしかないものだった。


 フィーナは簡単に言ってくれるけど、「勇者」を目指すとなると生半可な事では達成出来ない。そりゃあある程度の道筋やら計画は立てられるかも知れないけど、それが思った通りに実行出来るかはまた別の話だからな。

 もはや謎掛けに近いフィーナの言葉に脱力していると、彼女は勝手に話を締めくくりだしたんだ。


「とにかく、今はこのままあんたの旅を続ければ良いわ。まだまだあんたもレベルは低いし子供だからね。そのついでに、マリーシェちゃん達を鍛えるのも良いだろうし」


 ……こいつ、マリーシェたちの事をついでとか言い出したよ。でもまぁ、俺の考えでも、実際には片手間になるって事なんだけどな。


 俺がマリーシェたちを育てるなんて、おこがましいにも程がある。俺は、そんな大層な人間じゃあないからな。それは、前世の最期を見れば容易に理解出来るってもんだ。

 俺は、俺の知識を早い段階で彼女たちに開示しているに過ぎない。それをどう身に付けるかは、彼女たちの判断を仰ぐしかないんだ。


 些か腹の立つ物言いだったけど、それをここで指摘しても意味がないのは、これまでのやり取りで容易に想像がつくから……やめた。


「はいはい、分かりました。じゃあ俺はとりあえず、死なない程度に『勇者』を目指して旅を続けるって事で良いんだよな?」


 半ば捨て鉢気味に、どこか挑発的な言い方をフィーナへとぶつけてやったんだけど、当の本人はどこ吹く風だ。


「まぁ……それで良いわ。でも、とりあえずじゃなくて、死なないようにね。マリーシェちゃん達が育てばあんたの生存率も上がるから、まぁせいぜい頑張りなさいな。……それじゃあね」


 言いたい事だけを言って、女神フィーナは話を切り上げた。まったく、一体この時間は何だったんだ? 本当にこいつは暇なのか?


 俺が別れの挨拶を返す間もなく辺りは急激に白み始め、一気に暗闇へと変貌したんだ。ただし、それもほんのわずかな間だけだったんだけどな。


「……最悪な夢だな」


 なぜなら、俺はそのまま目を覚ましたからだ。既にカーテンの隙間からは光が入り込んでいて、外は白んでいる事が伺い知れた。




 しかし、最悪な夢見だった訳だけど、何点か気になる内容や気づかされた事もあった。特に、勇者を身に付けなくていいって件だ。

 勇者の技を習得しようとすれば、勇者にならなければならない。そう思い込んでいたんだけど、先日の一件(・・・・・)で、必ずしもそうではないと確信を得た。

 フィーナとの会話の中にもあったけど、これは多分、他の職業技についても同様だろう。おれが、その技を使える潜在能力を得られているかどうかは兎も角だけどな。

 そしてその他の技能についても、レベルや職業に関係なく使えるかも知れないって事だ。これは、今後の冒険を考えればかなり大きい利点となる。

 フィーナは勇者を目指せと言っていたけど、俺としてはこちらの方の研究や実践を煮詰めていった方が有益に思えるんだけど……さて。

 なんて色々と考えてはみたものの、レベルの低い今の状況じゃあ、試せる事も高が知れている。すべては、今後の行動次第って事か。

 そんな事まで考えて、俺は思考するのを止めてベッドから這い出たんだ。


 今日からは、遺跡探索へと向かう。

 まずは、その事に注力するのが大事だろうしな。

 女神の意図は分からないけど、俺はその事を言ったん棚上げして、早速準備を開始したんだ。



女神との話は、ハッキリ言って時間の無駄だったように感じる。

でもそれと同時に、幾つかの気づかされたこともあるんだ。

色々と考えて、試してみたい事もあるんだけど……。

それよりも先に、まずはクエストをクリアする方が先決だな。

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