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その程度の関わり

「王都の中を出歩くのが危険だと言っただろう」


「分かってるけど契約している私たちより戦闘能力がないシルキーのほうが危険」


「リーナちゃんだって危ないよ」


「それも分かってる。でも私たちは戦える。シルキーは戦えない。アーティファクトは武器。戦うことが定め。その筈なのに戦闘能力がないシルキーは異質。もしもクリエイトが狙うならクリスみたいなアーティファクトから狙うと思う」


 何時になく饒舌に言葉を紡ぐリーナ。表情は変わっていないがその意思は頑なで内なる思いが強いのだ。俺達が危険なことには変わりないがそれは王都に限らず何処にいてもそうだろう。

 実家に帰ったところで襲われないとも限らない。それならば王都にいて知っている人達だけでも危険な目に合わないように一緒にいることは出来るはずだ。

 リーナを少しでも受け入れてくれた人たちのために俺も動きたい。


「ってなわけで俺たちの方針は決まった」


「馬鹿どもが」


「心配してくれてるのは分かってる。無理なんて絶対しない。俺もリーナも互いが死ぬのは真っ平だ。それと同じくらい見知ったアーティファクトと契約者がやられるのも嫌なんだよ」


「本当に気を付けてね」


「分かってる。ソロン達も気を付けて」


「国の方でも対策が取られるらしいが詳細が掴めるまでは動けないらしい。最低限の自衛はするように」


「おう」


 国がどのような対策を取るのか分からないがアーティファクトを破壊するような集団に対して取る対策が相手を抑制できるとは考えにくい。仮に相手がアーティファクトを使っている場合は契約者を殺してアーティファクトは隔離という名の監禁というのが関の山だろう。

 相手の素性が分からない今、国としても霧をつかむような状況であり動き出すわけには行かないのだ。だから自分の身は自分で守る。自分の身を守ることの出来ない人を俺たちが守る。それで夏休みが終わり、学園に人が戻ってくれば人の目もありクリエイトも動きにくくなるはずだ。

 夏休み籠城戦の始まりだ。



「なんだかんだで俺達が住んでる宿まで送ることになった」


 生徒会室から保健室に行くと中はまだ電気が付いておりシルキーは椅子に座って大鎌と話していた。武器に話しかけていることからクリスがアーティファクトであることは疑いようがない。

 ひと声掛けてから中に入りシルキーに先ほどまでの会話を説明する。一応クリエイトの件は後で話すことにして危険なことがあると大雑把に伝えた。適当な相槌をうちながらシルキーは話を聞いてくれていた。


「なんだか悪いですね」


「毎日治療してもらってる恩が返せるから俺としては嬉しいくらいだよ」


「治療は私が好きでやっていることなので気にしなくてもいいのに」


「それは知ってる。私たちがシルキーを心配なの。それじゃダメ?」


 流石のシルキーもリーナの言葉は拒否できなかったようだ。いつも喋らない分、リーナが喋る時は重要なことを言っていると思われている。他人に対して言葉を発する時のリーナはそれも間違いではない。相手に遠慮をすることがないからこそ自分の思っている感情をストレートにぶつけることができるのだ。


「そんなに危険なことがあるんですか?まあ、そこまで言われてしまうと断るのも申し訳なくなりますね」


「断られても後ろから付いていくつもりだったけどな」


「それ、ストーカーっていうんですよ」


 気にしないで欲しいあまり、冗談を言ってしまったが此方の感情を見通すようにシルキーは微笑を浮かべている。今日は報告に来ただけなので治療をしてもらう必要はない。


「それでシルキーはクリエイトって組織知ってるか?」


 王都に住んでいるシルキーなら情報を持っているかもしれない。ソロンは機密情報のような事を言っていたが人の多いところでは噂が広がるのは早い。グレンバード領の街では朝起こった出来事が夕方には広まっており、酒場での話の種になっていたりした。

 話はまだ知れ渡っては居ないがクリエイト自体は大きく動いている。噂話程度なら王都内で聞きている可能性もありシルキーに聞いたのだ。


「クリエイト?なんですかそれは?」


「ソロン曰く、アーティファクトを壊して回っている組織らしい」


「アーティファクトを……、破壊……」


 その言葉を聞いて、手に握っていた大鎌を強く握りしめる。肌見放さず持っている自身のアーティファクトが人に破壊されてしまうことに恐怖していた。

 俺から見てもシルキーがクリスに対して抱えている感情は友達や恋人、家族に向けるようなものではなくもっと大きな何かを感じている。その中身をシルキーに聞くことは出来ていないが大切に思っているということは少からず間違いではない。


「夏休みは学生が少なくなるだろ?そいつらが動くかもしれないってソロンが言っててさ」


「シルキーには戦闘能力がない。だから私たちが送っていくことにした」


「日中は人通りもあるから大丈夫だと思うが夜は危険だからな」


 夏になり日が長くなってきたとは言え、シルキーが家に帰る時間は暗くなっているかもしれない。いつ学園から帰宅するのかは分からないが、俺の治療をするために残ってしまうことがあるのなら危険に晒すわけにはいかない。

 俺達は学園の中の寮に住んでいるため安全性はシルキーより高いだろう。夏休みとは言え学園のセキュリティは通常通り働いており部外者は立ち入ることが出来ない。


「それで急に送ってくれることになったんですね」


「ああ」


「どうして私にそこまでしてくれるんですか?――自分を卑下しているとかではありませんよ?ただ、ロージスさんたちと私の関係って治療する側と患者程度のものではないですか」


 シルキーは修行でボロボロになっている俺を毎日のように治療してくれている。シルキーが襲われてしまったら俺の修行が滞るという自己中心的で打算的な感情がないとは言えない。

 それよりもシルキーはリーナのことを避けなかった。俺にとってはそれが一番大切で、リーナにとっても話し相手が増えることは楽しそうに見えていた。


「その程度の関係かもしれないけどさ、確かに関わりはあるんだよ。一度でも関わって仲良くした人が危険な目に合うことを俺は看過できない。勿論、俺達が何でも出来るなんて奢りは持っていないけどシルキーが逃げるまでの時間稼ぎをしてから逃げることは出来る」


 もしもの時にシルキー達が逃げることさえ出来れば俺達はどうとでもなる。怒られることを覚悟でリーナを使えば良いし、詠唱をすることが出来れば逃げることくらいは出来るだろう。


「長々言ったけどさ、シルキーが心配だから送る。それだけだ」


「……そうですか。分かりました」


 シルキーは椅子から立ち上がり、スカートを軽く払った。

 机の横にはシルキーの持ってきている鞄があり、それを手に取ると此方へと向かってくる。


「まだ夏休みには早いですが送ってくれる?」


 もっと渋るものだと思っていた俺は驚いてリーナの方を見てしまう。何の感情を持っているか分からない瞳でリーナも俺の方を見つめていた。その目からは断るという選択肢は感じられず、寧ろ俺を急かすように視線が動いていた。


「リーナ」


「なに?」


「シルキーの家まで一緒に行こうぜ」


「分かった」


 リーナが期待していた通りの行動を起こすことが出来たようで、俺にだけ分かる喜びが表情から滲み出ていた。


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