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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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夏落葉

 保健室の扉をノックして数秒待つと、中から毎日聞いているシルキーの声が聞こえる。その返答を聞いてから扉を開けるといつものように医療従事者の格好をしたシルキーが定位置で待っていた。


「2人ともこんにちは。今日は遅かったですね」


「ちょっと話し込んじゃってな」


「こんにちは」


「今日も張り切って治療しますよ。さ、ロージスくん。座ってください」


 シルキーは立ち上がって大鎌を持つ。不釣り合いなその姿も何度も見ることで慣れてしまった。

 俺は備え付けられている椅子に座る。シルキーは歩いて俺の背後へと回ると大鎌を振りかぶり俺の身体を引き裂いた。当然全くダメージは無いのだが、毎日やられていることとは言え武器が身体を通過していくのは慣れることはない。

 段々と手際が良くなっているシルキーは治療が終わるとご満悦な表情をしている。


「はい。終わりましたよ」


「今日もありがとな」


「これが私たちの生きがいですからね。それではまた」


「おう」


 本当に治療をすることだけを目的に保健室へと来ている。治療が終われば即退出と言うのは此方としても気を使わなくてもいいから助かっている。ただ今日はリーナからの声が流れを断ち切った。


「シルキー」


「リーナさん?どうかしましたか?」


「シルキーは夏休みどうするの?私たちは夏休み中も修行するけどシルキーが居ないとロージスを治す人が居なくて困る」


「リーナ。それはそうだがシルキーにも予定があるだろうし、シルキーが居ない間ってか夏休み中は俺だって考えて修行するぞ」


 夏休みである以上シルキーが毎日学校へと来る理由はない。俺の治療のためにわざわざ来てもらうのも申し訳ない。

 ぽかんとしているシルキーは我を取り戻したように慌てて手を胸の前で動かす。


「いえいえ、ロージスさん。私は毎日ここに来ますよ」


「何か用事あるのか?」


「逆に何も用事がないから学園に来るんですよ」


「実家に帰るとかはしないのか?」


「しませんね。私は実家に良い思い出もありませんし」


「なら毎日ロージスの治療をしてくれる?」


 滅茶苦茶我儘なことを言っているが、正直了承してもらえれば俺もありがたい。リーナは知り合って少しでも気を許すと相手に対して我儘になるというか甘えてしまうというか、意外と子供っぽいところがある。


「ここにいるので来てもらえれば治療しますよ」


「なんか、悪いな」


「大丈夫ですよ。治療するのが一番楽しいというか傷が癒えていくのを見るのが好きなんですよ。ここに来た疲れ切ってぼろぼろなロージスさんが出ていくころには元気になっているところとか」


「俺としては助かってるから何も言えねーな」


「ささ、もう治療は終わって居るんですから出ていってください」


 この後何があるか分からないが保健室の退室を促されてしまっては出ていく他ない。この後には生徒会室へと向かわなければいかないため時間的にも丁度いい。


「治療ありがとな。それじゃ」


「はい。また」


 出ていく時に掛けられるいつもの挨拶。最初の印象から「また」と言われたら「また」と返すことが通例となっている。


「またね、シルキー」


 2人で保健室から出ていく。後ろ手で扉を閉めるまで中からシルキーの目線を感じた。



 生徒会室へと向かう。数ヶ月前に通ったきり、用事も何もなかったため一度も通ることは無かった廊下を進んでいく。ソロンに呼び出されることがなければ敢えて会いに行くこともない。授業と修行が忙しかったためさっきまで忘れていたくらいだ。


「生徒会室こんなに遠かった?」


「全然行ってないし学園にも慣れたから遠く感じるんだろ」


「バレット達に会うの久しぶり」


「そうだな。雑用を任されることもなかったし、修行前に色々教えてもらったのが最後だからな」


「もう3ヶ月くらい前」


「どうせ会うなら今の進捗を話しても良いかもな。ヘイル曰く、3ヶ月前よりは動きが良くなっているらしいし」


 始めた頃はヘイルの技を理解しても自分のものにすることは出来なかった。少しの動きでも集中することで必要以上に体力を使うため長時間の修行はきつかった。

 今はヘイルの軽い攻撃はいなせるようになってきたし、それを起点にして攻撃に転じることも出来るようにもなった。リーナからの戦闘評価はまだまだ辛いが反対にヘイルが褒めてくれるため飴と鞭の効果か自分の実力がついて行くのが分かる。

 修行終わりの怪我や疲労を治療してもらうことで毎日のように修行出来るのも大きい。ヘイルも疲労を感じているはずだが「アーティファクトですので」の一点張りで1日も休むことはなかった。その結果毎日修業をすることになった。戦闘には雨の日も風の日も関係ない。


「ロージスはまだ弱い」


「分かってるよ。でも3ヶ月前よりはどうだ?」


「……その時よりは強くなってる」


「なら成長してるってことだろ。このまま頑張っていこうぜ」


「ヘイルのおかげ」


「分かってる。ヘイルには頭が上がらねーよ」


「ロージスがヘイルと仲良くなってくれて嬉しい」


「俺からしたらリーナがヘイルと仲いいのが意外なんだよな。別に悪いことっていうわけじゃなくて寧ろ良いことなんだけどさ」


「ヘイルとは波長があう。私とヘイルは性格は違うんだけど」


「ほーん。ま、リーナに仲いい相手が出来ただけでも俺はうれしいよ」


「学園に入る前にはこんなことになると思わなかった」


 俺と出会う前のリーナのことは良く知らない。俺と出会った時も奴隷商に売られそうになっているところだった。いきなり連れ去られたと言っていたし、人の居ないところで過ごしていたらしい。

 学園に入った後も周りからは忌避の目を向けられていたのが、数ヶ月前立つ頃にはたった数人とは言え話す相手が増えたのだ。自分を武器と言っていたリーナは人と関わることでどんどんと人間らしさを身に着けている。

 根幹にある自分が武器という考えは変わっていないだろうが、人と関わることで人間と共に生きていく考えが染み付いてくれればそれに越したことはない。


「それは俺もだよ」


 学園に入ったからこそ俺がリーナと生きていくということがどういうことなのかを知った。必ずしも明るい未来ではないということも。少しでも生きやすくするためには自分たちの足で歩いて結果を残さなければならない。少しの出会いで俺の考え方も変化した。仲良くしてくれる人には感謝しかない。


「着いた」


 リーナと思い出話に花を咲かせていると生徒会室の前に辿り着いていた。久しぶりのため緊張するが、リーナが扉をノックしたため心の準備をする暇はなかった。

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